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ガチスパカレーの旅

日曜日の昼過ぎ。炎天下。
暇な私は街をぷらぷらすることにした。いつもの駅を降りて、空を見上げて、あまりの暑さにあちゃーしまったーみたいな顔をする。あてもなく歩いていたらお腹がすいてきた。今日はまだ何も食べていない。

暑い日はカレーである。バチバチのガチスパイスカレーを食べるべきだ。

私はカレーが大好きだ。大学生の四年間はカレー屋でバイトをし、週に3回はバチバチのガチスパイスカレーを食べていた。社会人になっても会社を抜け出して一人でカレーを食べに姿を消す毎日である。なんで好きかは超分からない。しかし近頃忙しいのを言い訳にしてだいたい同じ店の同じ旨いカレーばかり食べるようになってしまっていた。しかしスパイスの奥は深い。国や作る人によって全く味が変わる。冒険して楽しむべき文化の旅なのである。暇な今日は、是非とも新しいガチスパカレーを発見したい。

探し回った末に、小さな裏路地の奥にオレンジのテントを見つけた。カレー屋だ。隙間からなんとも言えない強い強いガチスパイスの香りがする。

なんと店内に3人しか入らないという。そして店の前には長蛇の列。かなり悩んだが、この香りは絶対に体験するべきだし、こんなに並んでいるならハズレはないだろう。それに私は、暇なんだ。そうして路地のシャッターに沿って並ぶ人々の最後尾に立った。

すれ違うのも大変なほど狭い道の端に並んでいるため、死ぬほど暑い。日陰ではあるけれど、籠っているからまるで蒸し焼き。時々吹く風も生温い。向かいに占い屋さんがあるせいか、不思議な空気が流れている。奥で八百屋のおじちゃんがよく並ぶなあという顔でこちらをチラチラ見ている。

しかし不思議と待っていてイライラするようなことはなかった。携帯をいじる事もなく、ただオレンジのテントをぼんやり眺めていた。ああ、こんな時間が欲しかった。普段、求められる「はやくはやくはやく」がいない空間。

恐らく40分ほど並んだ。ついに「どうぞ」と声がかかった。お洒落なハットを被ったお兄さん。小さな店内はとてもお洒落で、何処かの国の楽器みたいなものやら、本やらが飾られていた。お兄さん1人がぎりぎり作業できるスペースがあって、それをすっぽりとカウンターが囲んでいた。深いネイビーのテーブルクロスが敷かれている。

「今日、チキンカレーなくて、メニュー1個しかないんですけどそれでいいですかねー」

溶けそうになりながら長時間並んでたどり着いた場所にお目当てのガチスパカレーは本日無いとのこと。スパイスの旅は厳しい!!!

「あっ、それでいいです。」

カレーでなくとも、なにかスパイシーなものが出てくるんならそれで十分。

少し待って出てきた、それは、凄かった!

ブルーの四角くて平たいお皿にスープのようなスパイスカレーが池のようにゆらゆらしており、真ん中にサフランライスが孤島のようにこんもりと盛り付けられ、その上にスパイシーな鶏肉とスパイシーなお漬物と大好きなパクチーがドシンドシンと乗っかっている。なんか、あれだ、マダガスカルみたいだ。(わかって欲しいなあ。)

静かに一口食べる。

びくっりした。冷たい。冷やカレーだ!!!
でも飲み込んだ瞬間お腹がブワッと熱くなる。スパイスの魔法である。めちゃくちゃ美味しい!!!暑い中並んでいたので冷たいカレーが体に染み渡る。染み渡ると熱くなる。冷たいものを食べてるのに、汗をかいている。

天国かと思った。本当に幸せな時間だった。並んだからこそ、暑かったからこそ、辛かったからこそ得られた一品であった。
無言で平らげ、今もまだ外で蒸し焼かれている皆様のために早めにお勘定をして出て行く。

なんてこった。ガチスパカレーの頂点を体験してしまった。暑さで夢みた幻かと思ったけれど、確かにこの腹は熱く燃えている。

こうしてまたガチスパカレーの旅は続いていく。きっとまだ上があるはずだ。

スパイスは、奥が深いのだ。

#カレー #夏 #旅 #戦い #ピワン

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