【短編小説】隣に並ぶ目玉焼き

日曜日の朝。

独身の頃から作っていた変わり映えのない朝ごはんを作りにキッチンに立つ。

冷蔵庫の扉を開けると心地よい冷気が肌をなぞる。

いうもの薄っぺらいベーコンではなくて、売り場に堂々と鎮座していたブロックベーコンを取り出す。

結婚した年に買った鉄のフライパンは、なんとか錆びる事なく現役で活躍してくれている。
黒く歴史を重ねたフライパンを熱々にした後、たっぷりの油を注ぐ。

いつもよりも少し分厚く切られたベーコンを2枚、少し距離を置いて寝かせると、文字で書いたようにジュッと音を立てる。
この瞬間ジブリ映画のあのシーンを思い出すのは私だけではないはず。

ベーコンに焼き色がついたところで卵を2つ冷蔵庫から取り出す。
コロコロと台の上を踊ったかと思えば、2つ寄り添ってピタッと止まった。

1つの卵を手に取り慎重に割り入れる。
ベーコンの真ん中を目指して黄身を落とすが、これがうまくいかない。
ベーコンの上をツルンと滑り落ちる。

次こそは。

もう片方のベーコンの上に卵を割り、卵の殻で黄身が滑り落ちるのをき止める。
黄身に気を取られているうちに、白身が先に割り入れた卵の方に進出していく。
あれよあれよと言う間に2つの卵の境目は同化してしまった。

「私たちみたい」
呟いた言葉は、ジューと叫ぶ鉄のフライパンに掻き消された。


結婚して8年。
一緒に暮らし始めてからだと……15年目。

土日はゆっくりと昼まで寝たい派の夫。
土日は早く起きて朝の時間を有効活用したい派の私。

違う環境で育った違う人物なのだから、違いがあって当然。
ただこの違いに苛立ちを覚えてしまうのもまた事実。

天気がいい今日みたいな日には、布団のシーツや枕カバーを洗いたい私。

夫の機嫌を損なわないように夫をこたつまで誘導して、ゴウンゴウンと今にも壊れそうな音を立てながら働いている洗濯機も、そろそろ買い替えなければいけない。

こたつに潜って二度寝を始めた夫に
「朝食、食べる?」
と聞くと首を横に振る夫。

「目玉焼きでも食べようかな」
側を離れようとすると、小さく「食べる」と呟く夫。


毎週毎週、飽きずにこのやりとりをしては朝食を作りにキッチンに立つ。

夫の目玉焼きを焼くのはこれで何回目だろうか。
数えたこともないけれど、きっと何十回、何百回と卵を割っている。


近づき過ぎず、離れ過ぎない。
お互いの心地のいい距離間を保ち続ける。

一緒にいると混ざり合う部分があって、共有できることの喜びを感じる。
それでもお互いの核となる部分はそれぞれが持ち続ける。

何年経っても変わっていないようで変わり続ける関係。

目まぐるしく変化する日々の中で変わらない2人の関係。


「おはよ。ご飯できたよ。」
さっきまでフライパンの上でくっついていた目玉焼きは、別々のお皿の上にベーコンと共に盛り付けられている。

こたつから出ている頭に手を置いてそっと撫でる。

ゆっくりと開いた目がこちらを見た。
「ありがと。」

いつものやりとりだ。
「うん。食べよ。」

「「いただきます。」」
私たちは今日も代わり映えのない朝食を、横に並んで食べている。


こんにちは。移常 柚里です。

日曜日の朝の話なので明日投稿しようかと思いましたが、文章が完成したらすぐにでも公開したい物で、1日すら待てずに投稿した私はせっかちですね。


久しぶりに料理を作る描写をメインに文章を書きました。
これがまた書いていて楽しくなってしまい、本来書きたい事を忘れてしまいがちです。

今回も途中で見失いかけましたが、なんとか戻って来る事げできました。


そう言えば、小説を書いていて以前も卵を割ったような……

そう思い「卵焼きにマヨネーズ」を書いたことを思い出しました。

卵料理ばかりだな。

特別卵が好きではないのにな。

そんなことを考えながら後書きを書いています。

以前投稿した日常系料理小説(?)
「卵焼きにマヨネーズ」「カスクート」も読んでいただけたら嬉しいです。

前に書いた文章は忘れてしまいがちなので、私も久しぶりに読み返してみようかと思います。

昔の自分がどんな文章を作ったのか。
昔の自分に会ってきます。


それでは。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
またnoteでお会いいたしましょう。

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