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散歩会(9/28)

この日は10時頃に優美堂で待ち合わせをする予定だった。寝坊しないように、前日に実家に戻り、父も散歩会に参加したいとのことだったので、一緒に電車に乗った。これまで、父親をSNSでブロックしていたのだが、行きたい、と言われた時に何となく似合う町のような気がして。絵を描くのも上手だから、企画に合っているような感じがしていた。

ののちゃんが中村さんと散歩している。少しファミリーマートで時間を潰し、ジュースを買った。朝、行くとガラスは前のイラストが描かれたままになっていた。それは意外だった。石川さんと私はそれを掃除した。中村さんが出勤する。父は自分の通った大学があった場所を見てくると言って散歩に出掛けた。

ガラスの絵を落とすのは不思議な気分で、罪悪感があるとか大変だとかそういう言葉では言い表すことはできない。石川さんは1ヶ月で消えてしまうサイクルを気に入っている。「りゅうちゃん」と石川さんはこの場所で頼りにされている。ギャラリースペースに飾られた絵などを楽しみながら始まる時間を待った。

やがて参加者が集まってきた。今回は遅刻をする人もなく、自然なリズムですうっと始まっていく。まずは自己紹介から。時間の都合があるが、ここに時間をかけた会とかけなかった会では参加者同士の仲の深まり方が全く違う。うっかりしてこの時間を忘れてしまうこともあるし、その日もやや長く時間をとり過ぎているようにも感じたが、後から振り返ると、この時間を長めにとったことが良い方に作用したように思う。父親が嫌な思い出話をした時に、「あ、それは嫌だ」とピシャリと言ったら、ある女性はこちらを見た。石川さんからもこの場所についての説明。

防空壕の中から額を運び出す。防空壕はそんなに大きくはない。降りるための階段は後から付けられたものでしっかりとしているけれど、壁はコンクリートが崩落する危険を孕んでいるという。何か壁にレトロなフォントで書かれていた。中にはダンボールの箱があって今は額を安置する場所になっている。1Fの床に繋がる通気口の穴。普段は蓋がされているからこの下にそういったスペースがあることはわからないでこの場所に訪れる人がほとんどだろう。

出発

天気は程よい雲の出た空模様で、雨の予報だったけれど、石川さんは晴れ男だと言ったし、私も散歩会で良い天気ばかり。雨が降ってほしい時は降るし、台風が良いように作用したことだってある。夏が長引いているから、今日は曇りで丁度良い。

横断歩道を渡る。私はカメラマンも兼ねている。建て替えられていくYシャツ屋さん。Yシャツ屋さんにも防空壕があって、それもまた取り壊されていったのだろうか。埋められたのだろうか。作り替えられているのだろうか。その側に不思議な形の木。立ち止まりながら見ていく。遠藤君と話した時、ビルが青かった。初めましてで名前ももう忘れてしまった彼(インターネットでの名前しか覚えていない)は木が迫り出して生えている様子を教えてくれる。他にも立ち止まってくれる。川の上を通る高速道路と東京オリンピック。リサーチで見つけた虹の落書きのことは忘れてしまった。橋にいたホームレスのおじさんは今日はいなかった。前に来たときは、荷物を綺麗に広げていて、橋のところにハートの絵柄のトートバッグなんかをかけていた。彼がいないことを教えてみた。すると、名前のわからない彼(以下、はっぴーさんとしよう)は橋の緑の欄干の下の石の部分に黒い跡があることを見つけてくれた。今日はビルの掃除をしている宙吊りの人はいなかった。

石川さんは初めの方は少し戸惑いながら動線を考えている。右に曲がる。赤いコーンなんかが置かれた方を進む。雑談をして歩いていた。ギャラリースペースの絵の作家さんに作品のことを少し質問したりした。そろそろ目の前に皇居ランナーの姿が見える。

皇居の池をみんなが覗いた。細い糸蜻蛉が飛んでいる。びっしりと緑色の小さな水草が浮いている。はっぴーさんは不思議なポーズをしていた。何かに触ろうとしていたのだ。「ウンチを触ろうと思った」けどそれはどうやら違ったらしい。池を見終わった人と、まだ池を見ていたい人がいる。先に行くグループと、見ているグループ。前のグループは石川さんに少し任せた。

外国人観光客と皇居ランナーが私たちとは逆方向に進んでくる。顔がよく見える。足元から電車の音がする。銀座線は初期の技術でトンネルが深くはないから振動する。それを、これも彼女の名前を忘れてしまったのだけど、に話す。

一休みしている時、作家さんがストレッチを始めた。

石川さんだけが座って休んでいる。蝶がみんなの目には見えている。私はどこどこ?と目を細めるけれど、見つからないし、そういった時見つけるのが苦手な方だ。

ゴンちゃんがやってきて、しゃがんで見つめている。そこで初めてどの辺りに蝶がいるかはっきりわかる。その様子を映像に撮る。気を使って、そこを通らないようにした観光客の方がゴンちゃんの後ろを通る。ランナーが走ってく。親に手を引かれた小さな子どもが、何があるのかなって、見て歩いて行く。蝶の羽は外側は白いのだけれど、中は赤く広がる。初めて見る蝶だった。

また歩き出す。石川さんが前に説明してくれたビルがそろそろ見えるはず。ゴンちゃんが、中学の時のゆいちゃんに会ったよと教えてくれた。彼はきっと昔の友達と最近は会うようにしているのだろう。皇居の入り口、天皇が住んでいるのだと思っていたけれど、そうではなかった。横断歩道を待つために、石を見ていたら、赤になる。でも楽しいからそれで良いのだ。

慌ただしく歩道を渡る。遠藤くんが遅れそうになりながらこっちに渡ってくる。この道の真正面には東京駅の煉瓦造りの建物が見える。「わあ」と言ってもらえて嬉しくなる。銀杏が黒くなって、もう匂いのしなくなったものを拾う。ゴミのないこの辺りだけれど、芝生の上に人がたむろった形跡が残っている。そんな風にまっすぐにその道を歩かないで進む。あれは皇居の元の外堀だっけ。

ビルが一つ解体されている。そこを左に曲がり、歩道を渡りかけたが、何かを見つけたみたいだから、「なになに〜」と言いながら思わず駆け寄っていた。彼と彼女らは白鳥をそこに見つけていた。私も知らなかった。ウェディングフォトか何かが撮れるジョークの建造物のところだ。白鳥は人に慣れていそうで、でもきっと静かに隠れるために石の裏にいて、スーッと泳いで行った。そこには地衣類がいて、菌と藻が共生しているのだと教えてもらう。信号が青になり、地下に続く階段を降りてみる。

そこの水の溜まったところをはっぴーさんは見つめた。遠藤君もそれを見にきて、けれどそれは綺麗な水だった。ギャラリーになったその場所はガラスの天井になったスペースがあって、そこをみんなが見上げていた。私はこの上をスカートで通れないですね、とかくだらないことを言った。

石川さんと作家さんの間に不思議な連帯感があった。後から二人は小学校の同級生だったことを知った。エスカレーターを降りる。地上に続く階段を上る。カメラが地上の光を吸収して明るくなるのを感じる。遠藤君はこの場所に修学旅行で来ていた。東京の人は京都に行くんだよ、と私は言った。ゴンちゃんとは中学か高校で修学旅行の班が一緒で、談山神社に行ったのだけれどどちらが一緒だったのかはわからない。時計の針のある建物が郵便局だ。この場所に入る時も、壁にある"何か"を数名がグループで触った。

郵便局の中はまずはグッズコーナーになっているけれど、一本だけ黒い柱は昔からあるものだ。オリンピックだったか、何かのコーナーの隣にある。進むと、隈研吾のデザインで床に六角の跡=かつて柱があったことを示すものがある。この日はイベントが行われていて、少しそれが見えづらくもあったけれど、4階から見下ろしてみると、ブースにもその柱のプリントがされていることに気がついた。

3階から見下ろすのがベストだけれど、時間の都合もあったからこの導線で丁度良かった。隣の部屋には郵便局長室があって、「知らなかった」と声が聞こえて、皆で来て良かったと思った。局長の椅子に座ってみたり、窓から外を眺めたり。電車の窓みたいな作りで、それは私たちにとっては背の低い造りになっている。テーブルの上に置かれた古書は英語で書かれている。読もうとする。でもそれよりもその本の赤いシミがびっしりと生えていることの方に私たちは夢中になってしまった。

暫くして良いタイミングでここを離れる。石川さんから昼食の予約の時間に間に合わないと言われて、迷ったけれど私は解体工事が地下に続くことが見える場所に皆んなを連れて行きたかった。東京駅の天井をみたい、というリクエストを受けて、それを見ている時、「時間がなくて、でも見たいところがある」と申し出た。石川さんの実家のハンカチ屋さんがその場所の3Fに入っていることは内緒になった。赤煉瓦の建物をバックにカメラを向けた。「こんな時に」そうしたら作家さんは手を顔に当てて笑った。石川さんも笑った。皆早足でついて来てくれていた。父はギリギリ遅れずに横断歩道を渡った。

その場所に行くためには一番上の階までエスカレーターを使った。人数が多いことを考えるとエレベーターは難しかった。テラスから、工事現場を見下ろす。そんないたっぷりと見る時間があった訳ではないのだけれど、「来てよかった」という声が聞こえた。「そうでしょう」と言った。

帰り道は、用意していたのと別のところを通った。かなり急いでいたから、シンプルな道にしてしまった。皆が団結している状況は面白かった。作家さんは「面白い」と言ってくれた。タクシー?アプリで呼ぶタイプのものばかりで、呼びづらかった。欲を言えばこの時、どんぐりが何故か落ちている場所を通りたかった。私が名前を忘れてしまった彼女は、駅のあるところでさようならをした。彼女に向かって私は木の後ろからぴょこっとなんでもないように手を振ってみた。皆喉が渇いてきていて、自動販売機が無いということに気がついた。一箇所、それを見つけた時遠藤君は良い写真を撮った。それは皆んなを見つめている父の顔だった。

遠藤君は道端の鳩を写真に撮る。それに私はカメラを向ける。すると遠藤君は複雑な顔をする。早足だったけれど、工事現場の辺りでカメラをまた撮っていた。そして、優美堂に着くことができた。昼食。作家さんの分がうまく頼めていなかった。小さなコップにフリーの水を注ぐ。私は疲れていたのでぼーっとしていたら、石川さんが「お気に入りの写真を一枚教えてください」と良いアイデアで進行してくれた。その時、父の顔を撮ったものを遠藤君は見せてくれた。

昼食を終えたら、絵を描いた。あまりプランも話し合ってはいなかったけれど、描けた。描いていると、立ち止まってその様子を見てくれる人はいた。この通りを外国人の観光客が通ることは多かった。あるいは、店の看板犬のののちゃんを見るために立ち止まる人は多かった。声の掛け方は難しかった。

私が地衣類を描くと、ぽかさんにはこんな風に見えているんですね、と言われた。地衣類を描くのは難しいから、抽象表現にして、3色で描いた。ゴンちゃんが描いた絵の下に眼鏡をかけていないゴンちゃんを描いた。空を感じる道の下で彼は良い伸びのポーズをしていた。カメラを向けたけれど、彼の腕は下されていて、伸びはカメラに映らなかった。遠藤君は気合を入れて赤いシミを描き続けて、アーティスティックな振る舞いをしていた。皆に声をかけながら描いていく。

全体をまとめるデザインを入れ終わり、カフェスペースに戻る。みんながゆったりとした空気で話をしている。お礼を言った。解散。みんなの空気は続く。私は見たい映画があったから、先に帰った。




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