編曲は塗絵のようなもの

今年の演奏会用の編曲をしています。
なんとなく毎年のルーティンになってきていますが、楽になることはありません。

今年はメンデルスゾーンの交響曲第3番を編曲するのですが、いやはや難しい。試行錯誤の毎日です。

ただ今年やっていて感じるのは、以前よりスムーズに編曲ができるようになったなと。
昔はもっとグダグダ苦しみながら編曲していたのですが、今年は割と(本当に割と、大部分は苦しい)サクサク楽しく編曲できてる節もあり、少しは成長してるのかな、と思います。

特に編曲に対する考え方、思考プロセスが今と昔で明確に変わったなと感じているので、一度ここで自分が編曲するときに考えていることをダラダラと書いてみたいと思います。

編曲はジグソーパズルではない

編曲を始めた頃はまるでジグソーパズルをはめるような編曲になりがちでした。

ジグソーパズルのような編曲というのは、
「どの楽器の音をどの楽器に割り振るか?」
を主眼に置いた編曲を指しています。

管弦楽曲をマンドリンオーケストラに編曲する場合を想定して説明します。

◆原曲編成 ※例
バイオリン1st、バイオリン2nd、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、トランペット、ホルン、チューバ
◆マンドリンオーケストラ編成 ※例
マンドリン1st、マンドリン2nd、マンドラ、マンドロンチェロ、コントラバス、ギター、フルート、クラリネット

上記の編成で編曲をするときに
「どの楽器の音をどの楽器に割り振るか?」
と考えると
下記のマッピングに落ち着くことが多い気がします。(楽器の音域によるところが多いと思います。)

◆原曲→マンドリンオケの楽器マッピング
バイオリン1st    →   マンドリン1st
バイオリン2nd   →   マンドリン2nd
ヴィオラ            →   マンドラ
チェロ     →   マンドロンチェロ
コントラバス  →   コントラバス
フルート    →  フルート or マンドリン1st
オーボエ    →  フルート or マンドリン2nd
クラリネット  →  クラリネット or マンドラ
ファゴット   →  クラリネット or ギター or マンドロンチェロ
トランペット  →   ギター or マンドラ
ホルン     →   ギター or マンドラ or クラリネット
チューバ    →   ギター or マンドロンチェロ

上記のマッピングに従って、ひたすら原曲の音符をハマりそうなところに埋めていくと、どんどんジグソーパズルをやっているような感覚に陥ります。

賛否両論あるかと思いますが、こういうマッピングを想像しておくこと自体は問題ないと思います。
ただこのマッピング通りに音符を移植していると必ずどこかで行き詰まります。

マンドリンオーケストラ編曲の場合、原曲の方が楽器の種類が多いですし、音域も広いです。当たり前ですが単純に切り貼りしていくと、音が足りない。つまりパズルのピースが余ることになります。

課題を解消するべく、あの音が足りないから空いてるあの楽器に割り振ろうとか、色々コネコネするわけですが、そうするともうメチャクチャ。整合性なんてとれたものではありません。

「どの楽器の音をどの楽器に割り振るか?」
の判断に膨大な時間を割くことになった挙句、メチャクチャな編曲できあがるわけです。

もちろん、こんな編曲の仕方はダメだ、と頭ではわかっているのです。自分はこんな編曲するまいと、いつも心に決めて編曲を始めます。
でも、気付いたらいつも結局ジグソーパズル的な編曲に陥っているのです。

楽器単位ではなく役割単位で考える

ジグソーパズル的編曲の根本的な問題は
「どの楽器の音をどの楽器に割り振るか?」
という楽器単位の思考になってしまい、全体構成を意識できていないことにあると思います。

きちんとハマるかどうかわからないパズルのピースを無理矢理押し込んだり、削ったりしているようなものです。

ジグソーパズル的編曲から抜け出すべく、最近は
「どの役割をどの楽器に割り振るか?」
に主眼を置き、楽器単位ではなく役割単位で編曲することを心がけるようになりました。

例えば下記のように役割分担されてる曲があったとします。楽器編成は前述と同じです。

◆曲のとある1部分の役割分担 ※例
【旋律A】
バイオリン1、フルート、オーボエ
【旋律B】
バイオリン2
【旋律C】
クラリネット、ホルン
【リズム】
トランペット
【和音】
ヴィオラ、チューバ、ファゴット、チェロ、コントラバス

曲を旋律A, B, C, リズム, 和音の5つの役割に分けています。ここから
「どの役割をどの楽器に割り振るか?」
を考えてみたいと思います。

◆どの役割をどの楽器に割り振るか
【旋律A】
バイオリン1、フルート、オーボエ
→ マンドリン1、フルート
#原曲よりも弦主体にしたい。フルートはサポートとして入ってもらう。

【旋律B】
バイオリン2
→ マンドリン2、マンドラ、フルート
#原曲よりも弦主体にしたい。旋律Aに負けないようにしたいので多少厚めに。

【旋律C】
クラリネット
ホルン
→マンドロンチェロ、ギター
#他とは違う音色で浮き出てくるようにしたい。マンドロンチェロの音の変わり目ギターが際立たせるようなイメージ

【リズム】
トランペット
→ マンドリン2、フルート
#ハッキリ聞こえるようにしたいので、マンドリン2とフルートに思いっきり出してもらう。

【和音】
ヴィオラ、チューバ、ファゴット、チェロ、コントラバス
→クラリネット、マンドロンチェロ、コントラバス
#原曲は結構分厚めだが、そこまでの人数はいらない気がする。クラリネットを入れることでスカスカ感は補いたい

楽器単位に役割を整理すると以下。

◆どの楽器にどの役割を担当を割り当てるか
マンドリン1          【旋律A】
マンドリン2          【旋律B, リズム】
マンドラ     【旋律B】
マンドロンチェロ 【旋律C, 和音】
コントラバス         【和音】
ギター      【旋律C, 和音】
フルート     【旋律A, B】
クラリネット   【和音】

だいぶ思考がスッキリしました。
マンドリン2、マンドロンチェロ、ギター、フルートは2つ以上の役割を担当させたいので、divを工夫する必要がありそうです。

自分的にはジグソーパズル編曲とは全く違う思考方法をしているつもりで、成長感じている部分なのですが、これが読み手に伝わるように書けているかは自信がないです笑

編曲は塗り絵のような作業

昔の編曲はジグソーパズルのような作業だったと言いましたが、今は塗り絵のような作業だと考えるようになりました。

塗絵はモチーフの輪郭だけが用意されていて、それをどうやって塗っていくかを考えます。
その思考プロセスが、原曲のイメージを保ちつつ自分の好きな楽器の組合せで曲を作っていく編曲と似ていると思っています。

塗絵という言葉自体はなんでもいいのですが、編曲において大事な思考プロセスは塗絵に置き換えて説明することができます。

どこをどうやって塗ってもいい

塗り絵はどこからどこまでを何色で塗ってもいいし、はみ出してもいいし、塗らないところがあってもいいのです。

何を使ってもいい

クレヨンで塗るか絵具で塗るか、どんな筆を使うか、赤色を使うか青色を使うか、全て自由です。
この曲にはこの楽器しか使っちゃいけないなんてことはないのです。

色は自分で作り出せる

赤と青の絵の具を混ぜたら紫を作り出せるように、墨汁を水で薄めたら灰色になるように、音色も弾き方・混ぜ方次第で多様な色を作り出すことができます。1つの楽器で1つの色ということはないのです。

改めて書いてみると当たり前のことばかりだなと思います。いや、そうなのです。
頭ではなんとなくわかっていることなのですが、これを腹落ちさせるためにだいぶ時間がかかりました。


これを文書にすることで編曲のスタートラインに立てた気がします。
演奏会は10月。まだ150小節しかできてないです。
先は長いですが、編曲頑張ります。

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