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お客さまに突然異変!

食事は旅の大きな楽しみの一つです。せっかく出てきたご馳走をアレルギーや宗教上の理由で食べられないのは本当に残念なので、事前にできるだけお尋ねするようにしています。今回は「お客さま」に突然異変が!人命にかかわる一大事!の事例を紹介します。

今から8年ほど前のことです。
台湾の経済新聞の記者5名のグループにアテンドしました。
ある有名な家電メーカーの大阪本社で今後の経営方針などを聞いた後、車で移動してテレビ液晶製造工場に見学に行き、そしてお昼ご飯です。会社が手配した地元で有名な手打ち蕎麦でした。お店に一歩入るともうお蕎麦の香りがします。その場でお蕎麦を打っているのが見えます。
テーブルには蕎麦セットが所狭しと並びました。
ある30代前半の女性記者は、
「日本でお蕎麦を食べるのは初めて!おいしいわ」
と喜んで召し上がっていました。
お腹いっぱい、ごちそうさまでしたと言うことで、ジャンボタクシーに乗って、次の見学先がある奈良に移動します。

私は助手席に座って、みなさんの方を振り返りながら、奈良の説明を始めて、15分ほど経ったころ、その女性記者の顔が少し赤くなってきました。
その方はもともと赤ら顔の感じだったのですが、それにしても顔が赤いと思い、
「暑いですか?窓を開けましょうか?車内の送風オンにしましょうか?」と尋ねると、
「うん、そうね」とおっしゃるので、窓を開けて送風スイッチをオンに。
風に当たれば暑さも収まると思いきや、顔がますます赤くなってきました。
男性の記者:「さっき、お酒飲んだ?」
女性記者:「飲んでないわよ」
そして、今度は首の辺りをぼりぼり掻きだし、咳をし始め、その咳が止まらなくなり、ゼーゼーと呼吸困難のようになってきました。
食事前まで全然大丈夫だったのが、急にこのようになって、私も驚きと不安を感じる一方、それがだんだん焦りに変わってきたのです。
他の記者の皆さんも「どうしたの?大丈夫?」と心配そうに声をかけます。
するとジャンボタクシーの運転手さんが、「さっきの蕎麦のアレルギーではないですか?」と言うのです。
私は次第に容態が悪化している女性記者を見て、これは「危ない」と思い始めました。奈良までもう少しかかるし、これ以上ひどくなったらどうしよう、このままおさまりそうもない、いっそのこと救急車を呼んではどうかと皆さんに言うと、すぐにそうしようということになり、119番通報しました。
私:「私は通訳ガイドですが、お客様が顔が真っ赤になって息苦しそうにしています」
救急センター:「今どこですか?」
私:「奈良に向かう途中で〇〇の辺りです」
救急センター:「では今から救急車でそちらに向かいます、その先の△△の辺りで待っていてください」
運転手さんとお客様に電話の話の内容を伝え、こうして救急車を呼んだものの、私の心臓はバクバクです。自分でもその心臓の音が聞こえるくらいでしたが、ここで私がパニックになってはいけない、落ち着かなければ・・・と深呼吸を2、3回。
それから次の見学先に遅れることを電話で手短に伝え、旅行会社にも電話。そうしているうちに救急センターから言われた場所に着きました。間もなく、サイレンを鳴らしながら救急車が到着しました。女性記者は同僚に抱きかかえられて救急車に乗り移り、私も同乗。ジャンボタクシーには予定通り他の皆様を載せて次の見学場所に向かってもらいました。

救急車の中では、私から状況を救急隊員に説明し、次に隊員が私の通訳を介して、女性記者にいくつか質問し、彼女は苦しい息の中、こんな大事になって申し訳ないと今にも泣きだしそうな顔で質問に答えているところに酸素マスクが付けられました。

数分後、病院に着いた時には女性記者は、咳とゼーゼーとそして涙で、赤い顔がもうくしゃくしゃ。その後医師の診断を受け、やはり蕎麦が原因のアレルギーだと分かり、3時間にわたる点滴の後、女性記者はすっかり回復し、タクシーで予定の夕食場所に向かい、皆さんと合流したのです。次の日、女性記者はまるで昨日のことがなかったかのように元気に取材を続けていました。

女性記者は、日本へは今まで何回も来ているが、まさか自分が蕎麦アレルギーだったとは全く知らなかったとのこと。
蕎麦アレルギーは、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状を起こす傾向が高く、命にかかわる場合もあると聞いて、今回お客さまが無事で本当に良かったと胸をなでおろしました。

毎回お客さまには食べられないものは無いかお尋ねするようにはしていますが、今回のように本人も分からなかったのですから予防もできません。思いもかけないことが起きた時は、先ず落ち着くこと。パニックにならず、どうすれば一番良いのか冷静になってちょっと考える、こうしようと決まればそれから素早く臨機応変に対処することが必要。そのように再認識した実体験でした。

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