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『僕と私の殺人日記』 その1

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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○○○の日記


これはわたしの身に起きた一週間の出来事をまとめたものだ。
わたしたちは恐ろしい事件に巻き込まれていった。多くの人が死んだ。 海外の有名な童謡のように消えていった。わたしも死ぬだろう。 彼の持ってきたナイフは呪われていた。邪悪な魂を宿していた。
わたしはその出来事を日記に記した。繰り返さないために。 絶対に忘れてはいけない。村のみんなのことを。彼の犯した罪を。 この身体に刻み込んでおかなければならない。 なぜなら、わたしも事件を起こした張本人なのだから。


日曜日


冷えた朝で十歳の誕生日を迎えた。
わたしは居間にあるコタツに潜り込んでいた。冷え性のわたしは朝が苦手だった。ひんやりとした冷気が肌に侵食して、震えが止まらない。

「ねえ、おねえちゃん。もうすぐ五月だよ。コタツから出たら?」

「・・・あと五か月」

「あのねえ、『あと五分』みたいに言わないでよ。五か月後は十一月だよ。結局、コタツか ら出る気ないでしょ。世間じゃ四月でも遅いってのに」

弟の良太が布団越しに話しかけてきた。あきれたような声だった。 良太はわたしより二歳下のくせに、かしこぶって生意気だった。ときどき、大人みたい な言葉を使うのが少しむかつく。

「うるさいなあ。そういうあんたも昨日はコタツに潜り込んでたじゃない」

「だって、寒かったんだもん」

「じゃあ、いいじゃない。わたしは寒いから入ってるの」

「おかあさんに怒られても知らないよ」


我が武富家は家族みんなが寒がりで、夏以外はヒーターやコタツが必需品だった。去年、 コタツをしまったのも五月の初めだ。しまう時はみんな名残惜しそうにしている。だったら、しまわなければいいのにといつも思う。

「こら、リナ! いい加減、出てきなさい!」

おかあさんが現れた。よっぽど怒っているらしく、愛しのコタツ布団を無理やり引っぺがしてきた。室内に潜む冷気がわたしのオアシスに雪崩れ込んでくる。

「ほら、言わんこちゃない」

まるで未来でも見透かしたように良太は言う。わたしは少し腹が立った。 おかあさんが言ってたなら、最初にそう言えばいいのに。

「何よ! 今日はわたしの誕生日なんだから、いいでしょ!」

至極もっともなこと言って、わたしは反論した。背中にコタツの心地よい熱を感じる。その魅惑の温かさが強い重力もってわたしを引き止めにかかってくる。コタツというのは、まさに小さなブラックホールなのだ。

「ダメったら、ダメ! 子供は元気に外で遊びなさい! お昼までには帰ってくるのよ! 良太はお部屋で勉強ね」

そんなあ、と良太はしぶしぶ自分の部屋に行った。わたしも覚悟を決める。

「はいはい、出ればいいんでしょ」

「『はい』は一回!」

「はーい・・・」

さすがにコタツの重力もおかあさんの迫力には形無しだった。天国から地獄に落ちたような気分のわたしは、あてもなく外をぶらついた。 外は晴れていて、温かい日光が生きるものに生気を与えていた。コタツの赤い光りもいいけど、 透明な自然の光も悪くないわ、とわたしは思った。

わたしの家は村から少し離れたところにあり、小高い山の上に建っていた。麓までの道は一つしかなく、整備されていない。道は砂利が転がっていて足場が悪く、歩きづらい。 小さい頃、派手に転んでひどい目に遭ったことがある。その両側には杉の木が生えていて、 その独特のにおいがわたしの鼻を刺激する。杉の葉は針みたいにとがっていて、針葉樹というのだと学校で習ったことがある。見上げると、まるでお空に向かって槍を突き立てているように見えた。

「ユイカちゃんちに行こうかな」

樫内ユイカちゃんはわたし唯一の友だちだ。この村には子供が少ないので、友だちになれる子はほとんどいなかった。同い年で女の子なのはユイカちゃんだけだった。

山を下りると、田んぼが広がっていた。まだ水が降りておらず、耕された土が干からびて水分を欲している。 うちから離れたところにある山の上には、大きな池があって決められた日に麓へ水を流すらしい。その水が田んぼに流れて田植えの準備をするのだ。

「あ、リナちゃん! こっちこっち!」

田んぼに挟まれた小道を歩いていると、横の方から声がした。振り向いてそれがユイカ ちゃんだとわかった。ユイカちゃんは田んぼの畔で何かやっていた。


続く…



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