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『僕と私の殺人日記』 その25
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「これは・・・一体・・・」
入れ替わったわたしはゆっくり近づいた。
血のついたナイフを持って。
もうナイフを隠 す必要は無い。
どう考えても、わたしが殺したようにしか見えないからだ。男の人の後ろではユイカちゃんが通せんぼしている。
「そうか、君たちだな! トンネルを崩したのは! どこかで見たことがあると思えば、夜、 トンネルの近くで見た顔だ。一瞬だったから、忘れていた・・・」
こいつか。
わたしを懐中電灯で照らしたのは。
なら、なおさら殺さなければならない。
絶対に。
速やかに。
死人に口無し。わたしはナイフを構えて突進した。男の人は慌てて、逃げようと後ろへ逃げる。
しかし、ユイカちゃんが両手を広げて、通路を塞いでいる。男の人はかまわず、 ユイカちゃんを突き飛ばした。ユイカちゃんが通路の壁に打ちつけられて倒れる。
よくも ユイカちゃんを!
怒ったわたしは床を思い切り蹴って飛び込んだ。突き出したナイフが 男の人の太ももに刺さる。
「うわあああああ!」
男の人の悲鳴が響き渡る。倒れても足を引きずりながら、玄関の方へ向かっている。わたしはゆっくり後を追う。男の人はしきりに後ろを振り向いて、わたしは見ていた。
この人にはわたしが何に見えているのだろう。死神にでも見えているだろうか。わたし はそんな大層なものではない。そこら辺にいる、なんら変わりの無いただの子供だ。
生き物を殺す範囲がほかの子と少しばかり広いだけだ。 わたしは馬乗りになって、男の人の背中を刺そうとした、が突き飛ばされた。
壁に衝突して全身に痛みが走る。その間に男の人は必死になって逃げる。引きずる足をわたしは刺した。
刺して、刺して、刺しまくった。
おびただしい血が床に広がって、赤い湖みたいになった。 やがて男の人は動かなくなった。血が無くなって死んでしまったのだろう。証拠にわた しはユウくんを入れ替わっていた。
ユイカちゃんは立ち上がり、わたしの元に駆け寄ってきた。無事なようだ。
「いてて、ドジっちゃった。リナちゃん、大丈夫・・・じゃないみたいだね」
わたしの目から大粒の涙が流れていた。ユウくんは血にまみれた身体を見て泣いていたからだ。
けがをしたわけではなく、全部返り血だ。深い青が沈んで、暗くなるイメージが伝わってくる。
「殺すたびに入れ替わるのも大変だ。つらいね。ごめんね」
ユイカちゃんがやさしい言葉でユウくんをなだめる。なかなか泣き止まないユウくんを見て、ユイカちゃんは頭を撫でた。赤茶色の髪から温かい手の感触がする。
しばらくして泣き止んだユウくんは、無言のまま、ポケットに入っていた蟻を取り出して潰した。
わたしに入れ替わる。
ユイカちゃんはうれしそうに話しかけてきた。
「何とかうまくいったね!」
「いちいち入れ替わるの、面倒くさいわ。なんとかならないかしら」
「う~ん、しかたないんじゃない? 今日みたいな作戦でいくしかないよ」
「しょうがないわね・・・」
ため息をついて、わたしは持っていたナイフで死んだ男の人の胴体を切り刻んだ。ユイ カちゃんにもナイフを渡して交互に細切れにした。
楽しんだ後、ぐちゃぐちゃになった肉の塊を放置して家に帰った。
外はすでに日が沈み、村が赤黒く染まっていく。血を流す死体のように染まっていく。 抗えない死と夜がやってくる。
今もその先も。わたしが生きている限り、やってくる。 今日も世界のだれが死んでいる。みんな平等に死んでいく。村人の死にだれも気づかないまま、暗い、暗い夜が降りてくる。
そして、今日も平和な一日が終わった。 夢の中、わたしはユウくんと会った。これで何度目だろう。あの子はいつも泣いている。 きっとわたしにない感情を持っているのだ。
「人を殺すの、そんなに嫌?」
わたしはそう話しかけた。ほかに声のかけ方を知らない。
「・・・うん。殺された人を見ると、怖いし、悲しくなる」
「なんで? わたしはちっとも悲しくならない」
わたしは不思議になって聞いた。ミーちゃんを殺した時から感情がおかしい気がする。 あの時までは、確かに生き物が死ぬと悲しくなった。
「それはぼくが君だからだよ。いや、君がぼくだからかな。武富リナという人間の心は切り離されたんだ。二つに・・・。それがぼくとリナちゃん・・・」
どうも意味がわからない。だからなんだというのだろう。
「君が何とも思わないのは、罪悪感とか、どうしようもない悲しい気持ちとか、そういう心がぼくになったから。だからぼくは、君がひどいことをするたびに悲しんでしまう・・・」
そのユウくんの説明で、やっと自分の身に何が起こっているのかわかった。
「じゃあ、ユウくんがわたしの代わりに悲しんでいたってこと?」
「そう、お願いだからもう止めて・・・」
「やった! それならもっと人を殺しても、悪く感じないってことだね!」
「そ、そうじゃなくて・・・」
「よーし、苦しまなくて済むぞー。ユウくんは悲しむ方を頼むね!」
「そんな・・・」
わたしは、死の重みを代わりに背負ってくれるユウくんに感謝した。胸が弾んで、明日が待ち遠しくなった。
続く…