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『僕と私の殺人日記』 その38
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「リナちゃん! 無事だったの! おばさん、心配したわ」
ノブ夫くんのおかあさんが涙目になって、うずわった声を上げる。 とりあえず、集会所に戻ったわたしはみんなに出迎えられた。
全員、不安そうな顔をしている。その中にユイカちゃんの姿はなかった。聞いてみると先に家へ帰ったらしい。残りの村人は、ここでずっと事態を見守っていたようだ。
「そういえばユイカちゃんからこれを渡されていたの。なんなのかしら?」
折り畳まれた紙を権太くんのおかあさんが手渡してきた。紙を広げると何か文字が書かれていた。
『生きてほしいと思うほど、人が死んじゃうなんて矛盾しているよね 』
そう、書かれていた。なんなのか意味がわからなかった。わたしはクシャクシャにしてポケットに入れる。あとで聞けばいいや、と思った。
「ゴルじいはどうしたんだ?」
権太くんのおとうさんが聞いてくる。
「殺した」
わたしは正直に言った。
誇らしい気持ちでいっぱいだった。 村人はきょとんとしていた。冗談だと思っているようだった。
そこでナイフを取り出して、権太くんのおとうさんのおなかを刺してあげた。これなら信じてくれるだろう。
本当はあれだけの強敵を討ち取ったのだ。カメの時みたいに首を切り取って、持って来ればよかったけど、重いから止めた。
あっけにとられた村人は固まっていた。ゴルじいと戦った後のせいなのか、動きが止まって見える。
わたしは目についた人から順番に刺していった。遅れて自分が刺されたことに気づいたらしい村人は、悲鳴を上げだした。
一度にたくさんの人間を切ると気持ちよかった。密集した草をまとめて切った時のような快感が、全身に駆け抜ける。
そんな中、村人の一人が出口に向かって走っていた。それがだれかわからない。男か女かもわからない。
すでにわたしは、人を人として見ていなかった。動く生物を殺したい。 それだけだった。だれかなんてどうでもいいことだった。
逃げるだれかにナイフを投げる、背中に当たり、だれかは倒れた。すぐに首を切って、 次のだれかを殺す。切って、切って、切り殺した。どんな顔をして、どんなことを思って いるのだろう。
一瞬だけ、そう思った、しかし、人が虫を殺す時と同じで、相手の感情など無意味なものだった。
死ねば、そこで終わり。最後の一人を殺し、しんとした室内を見て、さらにそう思った。
血だまりの床を肉塊が埋め尽くした。 部屋中に血の臭いが立ち込め、息がつまる。嗅覚が麻痺しそうな臭いが、わたしの鼻を強く刺激する。
おびただしい血と死体を見て、ユイカちゃんが花をちぎって捨てていたことを思い出した。 少し前は、花をちぎることの何が面白いのかわからなかったが、人間を切ることに置き換えると、なんとなくわかる。
ちぎる瞬間が一番、楽しい。
殺す瞬間が一番、楽しい。
ちぎった花に興味がないように、死んだ人間に興味はない。
『命』は散る瞬間が最高に面白いのだと、やっと気づいた。それをこのナイフが教えてくれた。感謝する。
しばらくして、わたしはこの村、最後の生き残りの元へと足を運んだ。
続く…