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『春と私の小さな宇宙』 その16

※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「ふ、ふ、ふ、そういうと思った。だけど残念! あたしはその難題を考えに考え抜き、 ついに! 導きだしてやったわ!」

ハルはアキの顔を見る。思わぬ返答だった。彼女はあの議題の解答を発見したというのだ。

興味をそそわれた。おそらく、しょうもない無い解答だろうが聞いてみたいと考えた。 不思議な感覚だった。

「・・・答えてみなさい」

口の周りについたカレーをアキはティッシュで拭い、真剣な口調で解説した。

「いい? まず、栄養剤はハルの言う通り健康に良い成分が入っているわ。だけどそれだけ。逆に言えば、それ以外の成分は体へ取り込めない。でしょ?」

ハルはうなずいた。確かに論理的で異論はなかった。

「次に野菜はというと、まだ私たちが解明できていない成分が含まれている。その成分が身体に良いかわからないけど、害にならないことはこの通り!」

アキはガッツポーズをしてみせた。 着ていた長袖が少し垂れ、突き上げた腕から小麦色の肌が覗く。健康であると主張して いるようだった。

「つまり、野菜はあたしたち人間がまだ知らない、未知の成分を秘めているの。それが健康に全く干渉しないとは言い切れない、と結論できる。どうかしら? 栄養剤だけじゃもったいないでしょう?」

ハルは衝撃を受けた。意外にも、まともな推察だった。このような考え方もあるのか。 興味深い。そう思った。

野菜に含まれる未知の成分が人体にプラスになるかどうかはさておき、その未知の成分が健康に悪影響を及ばす可能性が極めて低いことは事実だった。この仮説に異論をはさむ余地は皆無。ハルはアキのことを少しだけ見直した。

「どう、かな? あたしなりに一生懸命考えたんだけど」

静かに聞いていたハルに、アキは恐る恐る問いかける。 ハルは柔らかな唇を開く。

「なかなか面白いわ。合理的、且つ、的確。その考察は研究の余地が十分にあるものと判断できる。やるじゃない」

負けを認めたハルは小瓶を左ポケットにしまい、カレーを口に運んだ。

「ホント! ふふ、ハルに褒められちゃった!」

アキは照れて両頬を手で覆う。カレーはほとんど食べきっていた。 少し見くびっていた。ハルは思う。

これでもアキは難関であるT大の学生なのだ。決して頭が悪いわけではない。性格があれなだけで、実は物事をよく考える事が出来るのだ。

その上、勘もいい。 やはり、侮れない。ハルは傍らにあるバッグを流し見る。特殊なカゴの中で実験中のモルモットが蠢いている。

彼女への警戒レベルを一つ上げることにする。実験を知られるわけにはいかない。

「そうだ! いいこと思いついた!」

向日葵のような笑顔でアキはしゃべる。議題のことなどすっかり忘れているようだった。

「神社に行こう!」

「・・・は?」

アキはよく話題を変える。さすがのハルも次の話を推測するのは困難だった。

「だって、ハル、妊娠してるでしょ。だから、神社で安産祈願するの。うん、いいアイデ ィアだわ。そうと決まれば善は急げ! 今週の日曜日に行くわよ!」

まだ、肯定すらしていないのに。ハルは不服の念を抱きながらも、不思議と不快にならなかった。

「しょうがないわね・・・」

出かけるだけなら計画が漏れる危険はない。そう考え、ハルは了承した。


まさか、その判断がある人物との再開と計画の露呈になるとは、その時、ハルでさえ予測することはできなかった。


続く…


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