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『僕と私の殺人日記』 その33
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「すごーい! 家族も殺しちゃったの? さすがだね」
昨夜の殺人劇をユイカちゃんに話すと、喜んでくれた。友だちに褒められて、わたしは気がよくなった。やっぱり、持つものは友だちだと思った。ユイカちゃんだけがわたしの味方だ。
「じゃあ、ユイカのおかあさんもお願いできる?」
「おばさんを? お安い御用だよ!」
「ありがとう! 今、お菓子作ってるところだから入って!」
家に入らせてもらうと、いい匂いがした。この匂いは大好きなシュークリームだった。 甘い空気が部屋中をいっぱいに満たしている。
「あら、いらっしゃい。リナちゃん。おいしいお菓子を作ってるから、待っててね」
「うん!」
オーブンでシュークリームを焼いているみたいだった。こんがり焼けた香ばしい匂いが、 わたしの食欲をいっそう、掻き立てる。
「おいしい!」
出来立てのシュークリームは格別だった。ユイカちゃんと一緒におなかが膨れるまで食べた。お皿が真っ白になるまで、そう時間はかからなかった。
「あらあら、もう食べちゃったの。全部なくなってるじゃない」
おばさんは少し困った顔をした。自分も食べるつもりだったらしい。
「もう一個あるよ。ほら」 わたしは指を差す。
「ここ?」
その方向はおばさんのおなかだった。
「え? なにこれ!」
おばさんのおなかには黒く細長い物が生えていた。
「ふふ、おかあさん面白い! 変な顔してる―」
「リナ・・・ちゃん? なに、したの?」
おなかに生えている黒く細長い物はナイフの柄だった。指を差しておばさんが下を向いた時、ナイフを刺したのだ。鍔を中心に赤い液体が広がる。
「ユイカちゃんに頼まれたの。おばさんを殺してって」
わたしの言葉におばさんは目を剥いた。そして何かを悟ったように、ユイカちゃんを見た。
「血は、争えない、のね。ユイカは、あの時の・・・」
そう言っておばさんは倒れた。まだ息はあった。ヒュー、ヒュー、とか細い息を吐いている。わたしは刺さっていたナイフを引き抜いた。ドロッと赤黒い血が流れ出る。甘い匂 いの中に血生臭さが混ざり、思わずむせそうになる。
「シュークリームのおかわりしないと」
わたしはおばさんの横腹を何回も刺した。真っ白な皿へ血が飛び散り、赤色に染まる。 わたしはなぜ人殺しが好きになったのかわかった。
大好きなシュークリームと似ているからだ。シュークリームは皮生地の下にたくさんのクリームが入っている。それが人間の 肌とその下に詰まっている血液を連想させるのだ。
わたしが殺人を好きなったのは、どこか大好物を食べるのと同じ感覚になっていたせいかもしれない。
シュークリームの皮が破裂してクリームが飛び出したみたいに、おばさんのおなかから 大量の血と内臓が飛び出てくる。まっさらな畳に腸らしきものが、こぼれていく。
おばさんは最期までユイカちゃんを見つめていた。
「これでいい? ユイカちゃん」
「うん! ばっちり!」
ユイカちゃんはうれしそうだった。わたしもつられてうれしくなった。がんばった甲斐があるというものだ。
「遊びに行こう!」
ノリノリのユイカちゃんが言う。わたしはうなずいて、身体をきれいにした後、家を出た。 外は晴れている。絶好の殺人日和だ。
二人で田んぼ道を歩く。青々とした苗が順調に成長していた。本格的に夏になれば根や葉を伸ばし、田んぼを緑で埋め尽くすだろう。 今はまだ、水面がよく見える水田に、お空へ伸びる電柱が写っている。反射した電柱がお空に向かって落ちているように見えた。
「あと十人くらいだよ」
村に残っている人たちの人数をユイカちゃんが教えてくれた。たったのそれだけしか残っていないのかとわたしは思った。トンネルが通れるようになったら、警察から逃げて、 今度は町の人を殺さないといけなさそうだ。
「見て! みんな集まってるよ!」
わたしは人だかりを見つけて、舞い上がった。飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのことだ。
わたしたちは早速そこに向かった。
続く…