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『心』 その2(最終回)
※ホラー系になります。
※グロ、流血表現を含みます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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心に存在するその手は、いつも血を噴き出している。
垂れた血は暗闇に溶けて、やがて見えなくなる。底は無い。もしあれば、おびただしい量の血液が心の世界を真っ赤に 埋め尽くしていることだろう。
肌に刃物が触れるところを想像する。
指がピクリと動き、その下にあるひじへと血が 流れていく。
その瞬間がなんともいえず、快感だった。強い幸福感に満たされる。 私はその手が愛おしいくらい大好きだ。
つらいことはしょっちゅうだから、すぐに想像できる。
こんな簡単に喜びを味わえるなんて私は幸せ者だ。
白と赤の新鮮な個体と液体。
命の洗濯。
心に傷を負うってこういうことだと思う。
だから私はもっと苦しみたい。傷つきたい。
心の中でカッターナイフを握りしめて、常に 準備万端だ。
さあ、切るぞ。さあ、噴き出るぞ。私はむしろ楽しみたい。
心が血まみれになる。
その感覚がうれしくてしょうがない。手首を切り過ぎて取れてしまったら、また新しい手を想像しよう。
今度はあのまっさらな手首に、思いっきり線 を引く。 それはとても気持ちいいにちがいない。
早く、今の手首を切り落とさないと。 心のカッターナイフは折れたり、錆びたりしない。いつも切れ味抜群で鋭く尖ってい る。
ずっと、ピカピカの新品のままだ。 きっとやろうと思えば、筋肉繊維を断ち切って骨まで両断できそうだった。
歓喜で身体が震えて、思わず顔がゆるんでしまった。
どんな痛みがするのだろう。どれほどの血が噴き出るのだろう。
そんなイメージを思い浮かべらながら、私は傷一つない、白くてきれいな現実の手を やさしく撫でた。
END
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