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初夏のSF短編まつり

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初夏のSF短編まつりに参加いただいた作品をまとめました。 お題は 「植物のある風景」 もしくは 「サイバーパンク」です。
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#植物

「洪おばさんと肉まんの夢」 須藤古都離

「洪おばさんと肉まんの夢」 須藤古都離

 こちらにゆっくりと近づいてくる洪おばさんの両目が生き生きと輝いているのを見て、私は不思議な違和感を覚えずにいられなかった。こんなに嬉しそうな洪おばさんを見るのは彼女に孫が産まれた時以来だったし、なによりもここに来てからというもの、誰の笑顔も見た記憶がないのだ。もちろん望んでここに来た人などいないのだし、皆が同じ不安を抱え、緊張した日々を過ごしているのだから、洪おばさんの笑みは恐ろしく場違いなもの

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「一日一度の水やりと」  鴉丸  譲之介

「一日一度の水やりと」 鴉丸 譲之介

 不本意な転勤だった。本社勤務で出世街道まっしぐらだったはずの男は、仕事でミスをしたこともないのに、どういうわけか片田舎の埃っぽい支社に移ることになったのだ。転勤の理由については知らされていない。送別会などもなく、淡々とことは進んだ。 
 縁もゆかりも無い僻地での新生活。荷解きも済んでいない殺風景な部屋で男を慰めるのは、鉢に植えられた観葉植物だけだ。
『一日一度の水やりと、話しかけるのを忘れないで

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「無限距離マイフレンズ」 猫隼 

「無限距離マイフレンズ」 猫隼 

 第二次地球暦(コンタクト暦)1774。

 アマノガワ銀河系で〈仮想空間基盤〉の標準といえば、というか需要高いものといえば〈TPA(トリニティ・パターンA)〉。つまりは岩石配列(ナチュラル3)、量子配列(クウォンタム)、大気配列(ナチュラル2)の三重式だ。もっとも(例えば地球生物のヒトのような)物質知的生物が利用する場合は、たいてい外側扉の鍵として、電子配列(エレクトリック)のアクセスコントロー

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「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

 ねこの友達の宮本さんと道でばったり会ったら、彼女の腕の中には植木鉢が1つ。
「春にゃので花を買うことにしましたにゃ~」と宮本さんは言うので、私は「いいじゃんいいじゃん」と言って別れてから数週間後、超慌てた様子の宮本さんから電話。
「鈴木さん!助けてください!フリージやん!フリージやんが!!」
 フリージやん、ってのがなんのことかわからなかったけども、とにかく超やばいって思った私は自転車でしゃーっ

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「クオン」 これ

「クオン」 これ

 ああ、あなたって本当に素敵。焼け跡に咲く一輪の花みたい。もしくはアヒルの群れに紛れた白鳥。どんな美辞麗句を並べても、あなたの美しさは表しきれない。どうして、そんな純粋な目で見てくるの。崩れ落ちてしまいそう。昔の人が「愛は気づけばそこにあるもの」って言ってたけど、まさにそうね。生まれたときから一緒にいるみたい。心の一部なんて表現じゃとても収まらない。あなたは心そのもの。愛しいと思う心そのものだわ。

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「セルロースの娘」 須藤古都離

「セルロースの娘」 須藤古都離

 私がマウリグ工業団地を一夜にして廃墟にしてしまったのは、十二歳になったばかりの頃だった。港湾近くにある交通の要衝として古くから栄えた都市の工業団地であり、私の両親も物流会社の倉庫で働いていた。なんでこんなことになってしまったのか、いまでも理由は分からない。工業団地は真夜中に突然現れたジャングルに飲み込まれてしまったのだ。まるで火山からマグマが噴出するように、大地を覆っていたコンクリートは生えてき

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「植物たちの方程式」 八川克也

「植物たちの方程式」 八川克也

 小生、サボテンである。
 小さな鉢に植えられたメロカクタスという品種で、観葉植物をしている。
 サボテンが何故話なぞしているのかと問われても、それにはとんと見当がつかぬ。気がつけば小生はこのように思考していたし、宇宙船に乗せられていたのだから。
 そう、ここは宇宙である。
 どうやら輸送船の中のようで、小生はコクピット兼メインデッキとなる狭い部屋の一角に、乗組員の心を癒すために置かれていた。
 

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「ユグドラシルはバロメッツの夢を見るか」 だんぞう

「ユグドラシルはバロメッツの夢を見るか」 だんぞう

 屹立する巨大な木の根に囲まれ曲がりくねった通路。
 その天井は高くはあるが、大樹の幹であり空は見えない。
 床は湿り気を帯びた腐葉土で、仄かに発光しているのは腐敗菌の分解による副産物だ。
 そんな薄暗い迷宮をワンピースのような薄衣一枚羽織っただけの少年少女たちが一列になり黙々と進んでいる。人種は様々、年の頃は十代後半。
 ふと一人の少女が隊列を外れ木の根を登り始めた。白髪碧眼の美しい少女。何人か

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「最強」 はまりー

「最強」 はまりー

 T拘置所の前に着いたときには雨は本降りに変わっていた。運転手が気を利かせて玄関のすぐそばまでタクシーを寄せてくれたが、庇に辿りつくまでのほんの数歩で皮靴の底に水が溜まる勢いだった。災害レベルの大雨だ。
 わたしを驚かせたのは雨の勢いではなく、無遠慮に焚かれたカメラのフラッシュの方だった。庇の下にはずらりとマスコミがならび無数のマイクをこちらに突き出している。誰もが叫んでいるが雨の音に掻き消されて

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「金連花 ~ナスタチウム~」 管野月子

「金連花 ~ナスタチウム~」 管野月子

 節くれだった皺だらけの指を開いて、同じように皺だらけの小さな粒を二つ三つと差し出した。大きさは小指の爪より一回りか二回りほど小さい。
 爺さんは所々歯が抜け落ちた口元をニッと開くと、今まで何度となく繰り返してきた言葉をこぼした。

「金連花……ナスタチウムの種だよ」
「軽石の欠片のようね」
「石のように見えても種だよ。ちゃんと、ここから緑の芽が出てくる」
「いつ?」

 そう言って、瞳を細めて問

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