柚木library(ゆのきライブラリー)

横浜にある小さい出版社です。 SFコンテストを開催しております。気に入った作品に感想をいただけると大変ありがたいです(ひと言でも全然構いません)。よろしくお願いいたします。 ホームページ:柚木library https://yunokilibrary.com/

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マガジン

  • 初夏のSF短編まつり

    初夏のSF短編まつりに参加いただいた作品をまとめました。 お題は 「植物のある風景」 もしくは 「サイバーパンク」です。

  • 第一回四畳半SFコンテスト

    第一回四畳半SFコンテストをまとめたものです。 お題「ちょっと未来の日常」 ◆最優秀賞 「サイレンが鳴った日」 はまりー ◆準優秀賞 「君の町に僕ら手を貸して、」 子鹿白介 ◆優秀賞 という順に並んでいます。 優秀賞に関しては提出順となっております。

最近の記事

11月の文学フリマ東京にSFアンソロジー本で参加します(9/14修正あり)

2022年11月20日(日)【文学フリマ東京35】に出店いたします。 その際に前記事で募集いたしましたSFアンソロジー本で参加する予定です。 まだ原稿をお願いしている段階なので詳細は未定なのですが、詳しいことが決まり次第告知していければと思っています。 お題は『五年後に小学六年生になるキミおくる物語』 参加していただく作家様を紹介いたします(敬称略/順不同。プロフィールを頂いてる方はそれも紹介させていただきます。) ◉猫隼 「猫隼」の読みは「ねこしゅん」です。最近ファン

    • 初夏のSF短編まつりのお礼と今後の予定とアンソロジー本の参加募集

      『初夏のSF短編まつり』のお礼と所感 無事『初夏のSF短編まつり』を終えることができました。 ひとえに皆さまのおかげです。ありがとうございました。 楽しみにして読んでいただいた方、本当に感謝いたします。やはり読んでいただいてこそなので、大変嬉しく思います。 また書き手としてご参加いただいた方々。ありがとうございました。新しい才能を出会えたことを感謝いたします。 高いハードルなしに作品で少額ではありますが謝礼をお渡しするという新しい試みにも関わらずご参加いただけたことを感謝

      • 「金連花 ~ナスタチウム~」 管野月子

         節くれだった皺だらけの指を開いて、同じように皺だらけの小さな粒を二つ三つと差し出した。大きさは小指の爪より一回りか二回りほど小さい。  爺さんは所々歯が抜け落ちた口元をニッと開くと、今まで何度となく繰り返してきた言葉をこぼした。 「金連花……ナスタチウムの種だよ」 「軽石の欠片のようね」 「石のように見えても種だよ。ちゃんと、ここから緑の芽が出てくる」 「いつ?」  そう言って、瞳を細めて問うと、爺さんはくいっと口をへの字に曲げた。  少し言い方が意地悪だっただろうか。

        • 「最強」 はまりー

           T拘置所の前に着いたときには雨は本降りに変わっていた。運転手が気を利かせて玄関のすぐそばまでタクシーを寄せてくれたが、庇に辿りつくまでのほんの数歩で皮靴の底に水が溜まる勢いだった。災害レベルの大雨だ。  わたしを驚かせたのは雨の勢いではなく、無遠慮に焚かれたカメラのフラッシュの方だった。庇の下にはずらりとマスコミがならび無数のマイクをこちらに突き出している。誰もが叫んでいるが雨の音に掻き消されて内容は聞こえない。田町、という苗字だけがかろうじて耳に届いた。拘置所の中からすぐ

        マガジン

        • 初夏のSF短編まつり
          20本
        • 第一回四畳半SFコンテスト
          28本

        記事

          「ユグドラシルはバロメッツの夢を見るか」 だんぞう

           屹立する巨大な木の根に囲まれ曲がりくねった通路。  その天井は高くはあるが、大樹の幹であり空は見えない。  床は湿り気を帯びた腐葉土で、仄かに発光しているのは腐敗菌の分解による副産物だ。  そんな薄暗い迷宮をワンピースのような薄衣一枚羽織っただけの少年少女たちが一列になり黙々と進んでいる。人種は様々、年の頃は十代後半。  ふと一人の少女が隊列を外れ木の根を登り始めた。白髪碧眼の美しい少女。何人かが一瞬だけ見上げたが、すぐに視線を足下へと戻す。簡単にくるぶしまで沈む歩きづらい

          「ユグドラシルはバロメッツの夢を見るか」 だんぞう

          「フェンス」 横山 睦(むつみ)

           果てしなく落ちる夜のスピードは透明な色でした。  灰色や黒色ではありませんでした。桃色と水色と紫色を混ぜて薄めたような初恋に似ていました。重力を失って太陽が沈もうとする夕暮れの空に投げ出された感覚です。 「何かに捕まらなくちゃ」とミキは手を伸ばしました。  太陽が沈むと星が見えない夜がこの街にやってきます。このままでは永遠に宇宙を漂ってしまうと思ったからです。ミキは怖くありませんでした。怖くないんだと自分自身に言い聞かせただけの強がりだったのかもしれませんし、本当に怖いもの

          「フェンス」 横山 睦(むつみ)

          「植物たちの方程式」 八川克也

           小生、サボテンである。  小さな鉢に植えられたメロカクタスという品種で、観葉植物をしている。  サボテンが何故話なぞしているのかと問われても、それにはとんと見当がつかぬ。気がつけば小生はこのように思考していたし、宇宙船に乗せられていたのだから。  そう、ここは宇宙である。  どうやら輸送船の中のようで、小生はコクピット兼メインデッキとなる狭い部屋の一角に、乗組員の心を癒すために置かれていた。  小生が意識を持ったのは、ちょうど船が亜空間に入った時だった。亜空間というのは物質

          「植物たちの方程式」 八川克也

          「お前の人生の成果物」 子鹿白介

          〝お疲れ様です。お前は大企業の技術部門で定年まで勤めましたね。社内評価のためコスト削減を最優先に取り組んだ結果、会社は技術力を失い、ブランドイメージは消滅しました。貢献度D。お疲れ様でした〟 〝お疲れ様です。お前は主婦として三人の子供を成人まで育て上げましたね。その誰も子供をもうけることなく、人口維持には寄与しないようです。貢献度C。お疲れ様でした〟  人生最期の瞬間、人々の脳裏では声がする。  幼少期に埋め込まれた監査素子が直接、脳神経へ告げるのだ。  お前の人生の最た

          「お前の人生の成果物」 子鹿白介

          「セルロースの娘」 須藤古都離

           私がマウリグ工業団地を一夜にして廃墟にしてしまったのは、十二歳になったばかりの頃だった。港湾近くにある交通の要衝として古くから栄えた都市の工業団地であり、私の両親も物流会社の倉庫で働いていた。なんでこんなことになってしまったのか、いまでも理由は分からない。工業団地は真夜中に突然現れたジャングルに飲み込まれてしまったのだ。まるで火山からマグマが噴出するように、大地を覆っていたコンクリートは生えてきた植物によって下から砕かれ、急速に成長した植物は建物を飲み込んだ。異変に気が付い

          「セルロースの娘」 須藤古都離

          「来迎図」 若生竜夜

           砂色の丘を廻り、かわいた小径のたどりつく先。冷たい湖の島に、あなたはたたずんでいる。灰色の幹のあなた。たくさんの枝を揺らすあなた。  あなたはいつも、枝先から走る火花にキラキラしている。陽光のようにも、月光のようにも、静かに降る星の光にも似た、電子の火花。わたしは今日も小径をたどり、きらめくあなたに会いにゆく。そうしてあなたと得る赦しを、迎えにくる船を、待ちわびて岸辺に立ちつくす。  ひとしきりあなたを見つめ、あきらめた後、波打ちぎわに沿ってわたしは浜を歩く。朝のこの時間に

          「遺物(ゆいもつ)」 渋皮ヨロイ

          「今年はちょっと辛口だったかね」  去り際にも同じようなことを言って義父は手を振った。先ほどまで義母お手製の梅酒を一緒に飲んでいた。とは言ってもガラス製のお猪口で一杯味見をしただけで、滞在時間は三十分にも満たない。 「今度、ぬか漬け持ってきます、最近、始めてみたんだよね」  義父は玄関先でまだ何か言い足りないように続ける。そうしながらも少しずつ後ろへ退いていく。私は礼を言って、玄関のドアをゆっくり閉めた。  グラスを放置したまま、クローゼットの奥から鉢を出す。キッチンの窓際

          「遺物(ゆいもつ)」 渋皮ヨロイ

          「その種族の名は」 梶原一郎

           これでもう150冊目か。日記もこれだけ書くと中々に立派な気がする。と言っても大したものじゃない。本当に趣味の範疇で、些細な日常の変化をアナログな方法で、確実に後世に残せる方法として書き綴っている。  趣味、と言ったのは本来の僕の仕事はこのドーム内に広がる、地球から採集した草や木や花……それらの植物をしっかりと枯らさない様に繁殖、培養し経過を記録する事だ。丁寧に育てて、愛で、どんな変化があるのかを「上」へと逐一報告する。それが大まかな仕事の内容なんだけど、事務的な研究だけを

          「その種族の名は」 梶原一郎

          「ブルガリでお茶を」 はまりー

           合格祝いにご馳走するよ、何が食べたい、そう訊かれたので石、と答えた。電話の向こうで佐和子が爆笑する。あんた、石て、わかんねーよ、いや、わかるけれども。佐和子とは中学からの腐れ縁でつきあった男のホクロの位置まで知っている。互いのことが分かりすぎてもう喧嘩もしなくなった。案の定、次の日新宿のごちゃごちゃした通りに呼び出され居酒屋のテーブルに付くと、わたしの食べたかったものが運ばれてきた。安っぽい皿に載った玄武岩。山盛りになった鉄マンガン重石。まるで血が滴っているような新鮮な辰砂

          「ブルガリでお茶を」 はまりー

          「クオン」 これ

           ああ、あなたって本当に素敵。焼け跡に咲く一輪の花みたい。もしくはアヒルの群れに紛れた白鳥。どんな美辞麗句を並べても、あなたの美しさは表しきれない。どうして、そんな純粋な目で見てくるの。崩れ落ちてしまいそう。昔の人が「愛は気づけばそこにあるもの」って言ってたけど、まさにそうね。生まれたときから一緒にいるみたい。心の一部なんて表現じゃとても収まらない。あなたは心そのもの。愛しいと思う心そのものだわ。  ねぇ、もっとあなたのことを聞かせて。どんな子供だった? 学校では? 家では

          「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

           ねこの友達の宮本さんと道でばったり会ったら、彼女の腕の中には植木鉢が1つ。 「春にゃので花を買うことにしましたにゃ~」と宮本さんは言うので、私は「いいじゃんいいじゃん」と言って別れてから数週間後、超慌てた様子の宮本さんから電話。 「鈴木さん!助けてください!フリージやん!フリージやんが!!」  フリージやん、ってのがなんのことかわからなかったけども、とにかく超やばいって思った私は自転車でしゃーって宮本さんの住むアパートへ。  宮本さんは「フリージやんが巨大化したんです…」と

          「恐怖!巨大花!!」 両目洞窟人間

          「ユズル」 スナメリ

           その暗い太陽、『プロキシマ』については、地球の近くにあって古くから知られているという以上に特に取り立てて言うべきことはなかった。僕が辺境惑星の文化を集めて回る研究者じゃなかったら、そこへ行こうとは思わなかったろう。 だからその小さく地味な恒星の惑星、『プロキシマb』について興味を持っている人間なんか、いまや誰もいなかった。僕はその星について資料をひっかきまわして調べたが、最新の記述ですら千年前のものだった。  そこに立ち寄る人間もいなければ、忘れられた存在だったわけだ。『b