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耐える暑さ

暑い暑い
汗が滝のように湧いてくる
夏を感じる
狭い押し入れの中スマホの光、隙間から見える日光の筋
外からの物音 玄関を開ける音  
来るな来るなと息を潜める
暑いなんて忘れるぐらいの緊張感
汗が耳裏を通る感触
1階をうろつく  逃げたな…という声
ヒッと汗が額を垂れる
ガチャまた、玄関を開ける音
ホッとすると同時に緩む身体
するとまた、厚さがやってくる
もう、いっそ見つかってしまおうかと思う
だか、やはり会いたくないという感情が湧き上がってくる
過去の憎悪  ここまで上手くやってきたのに壊してたまるかという執念
全てがまた、暑さに耐える力になり
額を通る汗になる
少し、開けてみる扉、すると日光がぶあっとくる
現実に戻された 安心感を感じた
パタパタと手で仰ぐ  少し涼しい
時計の音がやけに大きく響く
寿命が残り僅かなスマホ  充電器を取りに行こうかと迷う がここで見つかってしまえば全ては水の泡となり藻屑となってしまう  
今まで耐え流した汗の量を空気にする訳にはいかない
耐え凌ぐ   僅かの命で
押し入れに入って何分たっただろうか
30分、1時間 分からない スマホも責務を全うし消えていった  届かないSOSはどこまでいくだろうか
時計の音だけが頼りの空間  半信半疑の中
自身の命の危機を感じる  1歩現実に出る
酷く痺れる足  感じる涼しさ  1歩また、1歩と歩く 今やってきたらどうしようという 恐怖を抱えて
椅子に腰掛ける  扇風機をつける
幾分ぶりかの風はそれはそれは 至福のものだった
おかしいものだ
さっきまで自分は26度のエアコンと中の扇風機の中涼しんでいたのに
少し笑みがこぼれるぐらいに落ち着いた頃
また、外の物音が始まる
急いでカチッと扇風機を消す
押し入れに戻るかこのまま耐え凌ぐか躊躇しているとガチャと玄関が空く
もう、押し入れには戻れない
仕方なくベッドの裏に縮こまる
ああ、もう少し私の身体が小さければもっと良かったのにと思いを馳せる
普段は身長が1cmでも遠く伸びろと願いっているのに今だけは この身体に1ミクロでも縮めと願っている  矛盾を感じる
ピーピーと鳥がなく  そんな阿呆ごとに頭を悩ましていたが 一気に憎悪な現実に戻される
足音が聞こえる
また、冒頭に戻った気分だ
違うのは私の無防備な居場所と階段まで登ってくる足音
ああ、これは終わったと覚悟した時
足音は別の方向へと向いて行った
それは、私がさっきまでいた押し入れがある部屋に向かって行った
何かを探す声、押し入れを無造作に開ける音
考える あそこに戻っていたら今頃
脳を過ぎるもしもの自分 汗が背中を通るのがはっきりと分かった
このまま終わってくれ 帰ってくれ
と願っていると
ない…と言ったそいつの足音はまたこちらへ向かってくる
また、奇跡は起こらないかと思った瞬間
扉が空いた  でかい影が見える
これは見つかったか  終わりなのか
今まで上手く耐え頑張ってきたのに
運というものはいつか断ち切れるものだ
不条理だ
なんと言い訳しよう
物を拾おうとして  いや、これはこの前使って失敗した
掃除しようと思って 違う、素手で掃除をするやつなんかいるわけない
もう、正直に言おう  あなたに会いたくなかったから 隠れたと
また、耐え凌ごう  私の人生は耐えることで始まり 耐えることで終わりを迎えるのだ

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