短編小説 | 人魚の巣に引きずり込まれた俺は、人生初のハーレムに戸惑っている!
ゆにお人生初のライトノベルです!
どうぞお読みください〜
人魚の巣に引きずり込まれた俺は、人生初のハーレムに戸惑っている!
夕方の校庭。
グラウンドの真ん中で響くスポーツ部員たちの元気なかけ声をよそに、俺はひとり観察池の側にいた。
「金魚の世話なんて、だるくってやってらんねーよ」
「おい、モグラ! お前が毎日一人でやれよな」
「どうせ観察池は、園芸部の畑の側なんだからな」
モグラというのは、俺のあだ名。
園芸部の畑でしょっちゅう土をいじっているから……あとついでに、陰キャだからだろうか。いつからか、そう呼ばれるようになった。
俺のクラスの活発なやつらは、面倒なことは全部おとなしい生徒に押し付けようとする。
トイレ掃除しか回ってこないやつ。
おとなしいのに体育委員をやらされているやつ。
毎時間、黒板係にされているやつ。
彼らと比べれば、俺はまだマシなほうかもしれない。
だって、ここにいれば誰も話しかけてこないから。
園芸部に入ったのも、部員が俺以外いなかったのと、植物はしゃべらないからだ。いじられることも、からかわれることもない。
それに、俺は小さな金魚たちが水の中で戯れる姿を毎日ぼんやり眺められるこの時間がわりと好きだった。
「よし、今日も金魚たちに飯をやったら帰るか」
乾いた餌をつまんで、いつものように観察池を覗き込む。
俺の影に驚いたのか、金魚たちがさっと散っていく。
水面が静かに揺れて、そこに映る俺の顔も揺れた。
しかし……何かがどこか、いつもと違う。
「……?」
何だ? 何が違うのだろう?
違和感の正体を突き止めようと、俺はさらに身を乗り出して水の中を覗き込んだ。
深緑の水草。濁り気味の生臭い水。そして、赤い金魚たち。いつもと変わらない。
――いや、違う。金魚がおかしい!
目を凝らしてみると、腰から下は鱗があり、確かに金魚だが、その上には人間の女性の身体と顔がついている。
「えーーーーっ! 嘘だろ! これじゃ……人魚じゃないか!」
そう、よくアニメやマンガで観るようなあの人魚。
赤い尾鰭(おひれ)を持つ小さな小さな人魚が、観察池の中を群になって泳いでいるのだ。
皆一様に、両胸を隠すほどの長い髪の毛の持ち主だった。だが、髪色にはばらつきがあり、黒い髪も、金髪もいる……。
そして、白い肌、豊かな胸の膨らみ、おのおのタイプは違えど、美しい少女の顔をしている。
――一体どうなってるんだ?
ますます身を乗り出すと、大勢の人魚たちがいたずらっぽく笑いかけてくる。向こうも俺を認識しているのだ。
彼女たちが、物欲しそうに口をぱくぱくと動かした。いつも金魚たちが俺に餌をねだるときの仕草と同じだ。
だが、美少女たちの口唇が一斉に蠢(うこめ)く様子は、魚のそれより遥かに艶(なまめ)かしく、ますます眼が釘付けになった。
――い、いかん! 何だか見てはいかんものを見てる気がする……! どうしたんだ、俺。こんなものが見えるなんて! 疲れてんのかーーーッ!
その時、水面からザバッ!と上半身が飛び出してきた。
それは、金魚よりはるかに大きく、通常の人間の女性と同程度の大きさだった。
濡れた髪の毛、うるんだ瞳、湿った唇。
そして、くっきり浮き出た鎖骨には水が溜まり、その下に水面に浮かぶ胸の谷間が見えた。
女性は、はっきりと俺を見た。そして、その水浸しの両手をこちら伸ばしてきた。
「な、なななな! 何を……ッ!」
言い終わる前に、俺の頬を挟み、素早く眼を閉じた。そして、彼女は俺の口唇を奪った。
――お、俺の……ファーストキスーーーーーーッ!
◇
めちゃくちゃ恥ずかしい! しかし、なぜか眼が閉じられない。それに、身体に力が入らない。
やがて彼女は俺から口唇を離し、「ぷあっ!」と息継ぎした。
そして、再びこちらを見つめ、息を洩らすような声で囁いた。
「イラッシャイヨ」
「……はあ!? な、なな、何言って……」
次の瞬間、水の奥から無数の白く美しい手が、ざんぶと突き出てきた。
その手たちに肩や腕を捕らえられた俺は、抵抗する間もなく、ものすごい力で観察池の中へと引きずり込まれていった。
◇
――――――――
――――――――――――――
目を覚ますと俺は、見知らぬ部屋の床に寝ていた。
黄土色の石で囲まれた殺風景な部屋だ。まず、家具というものがない。
ただ、水草のようなものがところどころ生えている。
天井は高く、上にいくほど窄まっていた。三角にとんがっているらしい。
まるで、ピラミッドの中にいるような奇妙な空間だった。
何より不思議なのは、この身体の感覚からいって、この部屋は水で満たされているということだ。
俺が息をするたび、鼻からも口からも、気泡がぼこぼことあがっていく。
そう、俺は水の中で息をしているのだ。しかも、ちっとも苦しくない。
これは一体どういうことだろう。
「モグラ、私たちの〝巣〟へようこそ」
幼いような、でも艶かしいような女の声がした。さっき俺に「イラッシャイヨ」といった声と似ているが、違うような気もする。
声の方を振り返ると、そこには大勢の人魚がいた。発言しているのは、先頭に立ったボスのような人魚だ。
「あなたが毎日覗いていた観察池の底は、こんな世界になっているの。ここは、〝人魚の巣〟よ」
「…………はあ? 〝金魚の巣〟の間違いじゃないの? 俺が毎日見てたのは、金魚だよ」
人魚たちが、一斉にくすくすと笑う。全く、笑いごとじゃないだろうに!
「人間の眼からはそう見えるかもしれないわね。私たちの間には、〝水〟という次元を変換するものがいつも横たわっているから。
でも、あなたは今日、その〝水〟を越えてこちらの次元に来たの。
あなたは今日から、私たちの〝巣〟で暮らすのよ」
「……どういうこと? 俺死んでるの?」
ラノベなどでよく聞く〝転移〟や〝転生〟ということだろうか?
「あちらの世界では、そういうことにされるかもしれないわね。
一人で金魚に餌をやっている最中、観察池に落ちて溺れ死んでしまった哀れな男子高校生……」
「さっ、最悪過ぎる! いい笑い者だ」
「でも、こちらの世界では、あなたは〝選ばれし男〟……」
「選ばれし……男!? どういう意味だ? あれか、それもラノベに出てくる、勇者みたいなこと?」
「勇者……うーん、まあある意味。でも、少し違うわね」
「俺は、世界を救うためとか、魔王を倒すためとかに呼ばれたのか?」
「……全然違うわ」
「違うんかい! じゃあ、俺は何のためにこの〝巣〟に呼ばれた? 一体何に選ばれたんだ?」
◇
すると、人魚たちは揃って顔を赤らめ、もじもじしだした。
「何だよ、ちゃんと言ってくれなきゃわからないだろう!」
声を荒げると、ゴボゴボと大きなあぶくが上がった。ボス人魚が、コホン、と小さく咳払いをする。そして、言った。
「子づくりよ」
「子づ…………!? はあーーーーーーーーーー?! 子づくり!?」
「そうよ。私たちもうすぐ産卵の時期なの。見ての通り、この〝巣〟はメスだらけでしょう。だから、イキのいいオスが必要だったってわけ」
「〝たち〟? 〝たち〟ってどういう意味?」
「だから、私たち全員よ。ここにいるみんなの卵を受精卵にするために、男性が1人必要だったの」
「な、な、な!」
思わず鼻血が流れた。
陰キャである俺は、当然ながら童貞である。女子とはろくにしゃべったこともないし、手を握ったこともない。さっきのキスだって、突然のファーストキスだったし……。
それなのに、この人数と――しかも、人魚は美少女だらけだ――子づくりだなんて、そんなことできるわけないじゃないか!
「あら、私たち魚類だから大丈夫よ。
あなたたちほ乳類みたいにつがいになって、ほら、いちいち面倒なあれやこれやなんて、する必要ないのよ。
その時が来たら、この巣の中にこう、それぞれが卵を『うーーーん!』って産んでね、そこにあなたが散蒔(ばらま)けばいいのよ。
まんべんなくね。ぴゅーーーーってぶっかけたらいいの
だから、女性経験なんてゼロでも……」
「わーーーーーっ! 女の人がニコニコしながら言うことじゃないッ!」
俺はうっかりその様子を想像してしまった。すると、ますます鼻血が出てきた。ヤバい、このままではヤバい! おかしな性癖に目覚めてしまいそうだ……。
水の中に、俺の赤い血液がぷわーーーーっと広がった。その様子を見て、人魚たちが鈴の転がるような声で笑う。
「モグラ、赤い尾鰭(おひれ)を出しているみたい。
私たちとお揃いね!」
笑い事じゃない!
俺は怒鳴りたかったが、怒鳴るとますます血が噴き出る。だから、鼻を摘んでうずくまった。
「そうそう、モグラ。〝巣〟から逃げようなんてバカな真似を考えちゃだめよ」
ぎくり。
そう、俺はなんとかこの奇妙な石の部屋から逃げて、現実世界に帰れないかとうっすら考えていたのだ。
ここを出て、上に向かって泳いでいけば、観察池の外に無事出られるのではないか、と。
「そう甘くはないわ。そんな簡単に観察池の外に出られたんじゃ、すぐに次元が混ざってパニックになってしまうでしょう。
このピラミッドみたいな石の部屋の外には水がないの。今のあなたは、以前のあなたと違って、水のないところではもう呼吸ができないわ」
――詰んだ! 完全に……。
俺はもうこの〝巣〟で彼女たちと子づくりとやらに励むしかないのか!
◇
人魚たちは、ずずずいっと俺を取り囲むように迫ってきた。そして、口々に言った。
「モグラ。私たち、いーーーーーーっぱい卵産むよっ!」
「元気な赤ちゃん、作るのに協力しなさいよねっ!」
「モグラ、観念しなさい! あんた、私たちから逃げられないんだからっ!」
「モグラさん、よろしくですぅ~」
「ま、待て! じゃあ、これだけ教えてくれ! なぜ俺が君たちに選ばれた?
だって、俺は冴えないし、陰キャだし、スクールカースト最底辺だぜ?
爪の間には、時々土が入ってるし……。
君たちだって子づくりするなら、イケメンのほうが、いいはずだろっ!
この高校にはイケメンもたくさんいるし、女子はみんなそっちが好きなはずだ……」
俺は、こんな嬉しい状況に巻き込まれたにもかかわらず自分に自信が持てなかった。
こんなカッコ悪い俺が、女性から求められるなんて、にわかに言われても信じられない。
「…………モグラは、かっこいいよ」
「はあっ……? 俺の、一体どこが……」
「そうだよ、私たち、男なら誰でもいいわけじゃなんだからっ……!」
「ええ?」
「そうです、私たちはモグラさんがいいんですぅ……」
「だから……何で俺なんか……」
すると、奥の方にいた黒髪の人魚が、顔に似合わぬ大きな声でこう言った。決意に満ちた、凛とした響きだった。
「モグラはさ、毎日あたしたちに会いに来てくれたじゃん!
雨の日も、風の日も。夏休みだって、ずっとずっと……
餌くれたあとも、さっさと帰るんじゃなくってさ、
ずぅっと池の側に立ってて……
私たちが元気に泳ぐ姿を見て、ほんと嬉しそうに微笑んでくれて……」
「…………! 確かに……それはそうだった……けど……」
「あんなふうに、優しくされたら、女は誰でも好きになるじゃん!」
「…………!」
「もおっ、言わせんな! 私たち、みんなモグラのこと、好きになっちゃったんだよ!
好きだから……大好きだから……子づくりしたいんじゃん!」
「…………ぐぐっ……」
何て答えていいのかわからない。
でも、妙に納得してしまった。それが俺が〝選ばれし男〟である理由……。
餌やり当番押し付けられて、マジでラッキーだった……かもしれない……。
「だから……ずっとずっと、ここにいなさいよね!」
「……わかった」
◇
そして俺のハーレムライフが始まった。
ここでは俺は何もする必要がない。面倒を押し付けてくるクラスメイトもいないうえに、人魚たちみんなが俺の世話を焼きたがるからだ。
俺は趣味である園芸の代わりに、水草を植えてはハーバリウムを楽しんでいる。
そして、俺に構われたくて仕方ない人魚たちと、かわるがわるじゃれているうちに一日が終わる。
下半身が魚とはいえ、美少女は美少女。性格も、顔つきもそれぞれだが、共通するのは全員俺に惚れていて、俺との子づくりを望んでいるということ。
「ねえ、モグラ! 産卵の季節が今から楽しみだね!」
「早く子づくりしようねっ」
「私ともですぅ、順番ですよ~」
「……お、おう!」
毎日の会話がこの調子だ。
未だになかなか慣れることはないが、〝選ばれし男〟としての責務を、俺は果たしたいと思っている。
end
※この作品は、私設コンテストへの応募作品です。要項に記載のあった「性描写NG」に抵触するか自己判断がつきませんでした;
そぐわないようなら、そのままスルーしてください。
また、タグを外すこともできますので、主宰者さまは遠慮なくお申し付けを。
※この作品は、雨の粥さん、小冨百さんがたとTwitter上で共作した連歌に大きなイメージを頂いています。
お二人に感謝を!
連歌はこちらの記事の下部に掲載しております~↓
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