【追悼】小澤征爾 32年ぶりのＮ響　怪我や病気で活躍出来ない楽員のためのチャリティーコンサート

今年の2月に逝去された小澤征爾さんの追悼の思いをこめて、思い出のCD、DVD紹介。
このコンサートは、1994年の冬にNHK-BSのクラシックロイヤルシートという番組で1度、NHK教育テレビで1度放送されたのみだったと思います。CDやDVD、Blu-Rayなどの商品化もされていません。
ですが、小澤さんの演奏を語る上で外すことの出来ないコンサートですし、小澤さんもNHK交響楽団も、双方の力を振り絞った渾身の名演と思うのです。
現在はYoutubeにフル映像がUpされているのですが、ぜひ商品化してほしい････それが無理ならば、ぜひNHKに再放送してほしい名演です。

曲目と演奏者

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ：管弦楽組曲第2番から「エア」（Ｇ線上のアリア）
ベラ・バルトーク：管弦楽のための協奏曲
アントニン・ドヴォルザーク：チェロ協奏曲 ロ短調
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ：無伴奏チェロ組曲第2番から「サラバンド」

チェロ：ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
指揮：小澤征爾
ＮＨＫ交響楽団
1995年1月23日　サントリーホール

小澤征爾とＮＨＫ交響楽団

小澤征爾とNHK交響楽団（N響）は、1962年に起きたN響事件で仲違いし、それ以降、和解はしたものの長い間絶縁していました。
しかし、小澤の盟友であるチェリストのムスティラフ･ロストロポーヴィチを迎え、およそ32年ぶりにNHK交響楽団との共演が実現しました。
定期演奏会ではなく。「怪我や病気で活躍出来ない楽員のためのチャリティーコンサート」でした。

落涙必至のG線上のアリア、精妙なオケコン、迫力のチェロコン

コンサートは1995年（平成7）の1月23日に行われましたが、このわずか6日前に阪神淡路大震災が起き、多くの方がなくなりました。
コンサート冒頭で、小澤による弔辞に続いて、震災の犠牲になった方への追悼演奏としてバッハの「Ｇ線上のアリア」が演奏されたのです。
阪神淡路大震災の直後の追悼演奏という状況もあるのですが、この「Ｇ線上のアリア」が胸を締め付ける名演です。
バルトークの「管弦楽のための協奏曲」は、第2次世界大戦の惨禍を逃れてアメリカに逃れたバルトークが極貧に苦しむうちに白血病に倒れ、それを知ったボストン交響楽団の指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーが、バルトークの窮状を救おうと彼に委嘱した現代音楽の名曲です。難曲として知られていますが、小澤は巧みな棒さばきでこの難しい曲を整理し、N響からかつてないほどの精緻な響きを引き出しました。
ドヴォルザークの「チェロ協奏曲 ロ短調」は小澤とロストロポーヴィチ双方の得意曲です。ロストロポーヴィチの力強く雄弁なソロと相まって、豪壮な名演となりました。

アンコールに応えてロストロポーヴィチが弾いたバッハの「サラバンド」は、「アリア」と同様に、大震災の犠牲者の方々に捧げるにふさわしい祈りに満ちた演奏でした。演奏後、聴衆の拍手を無言で制したロストロポーヴィチは、小澤と並んで、静かにステージを後にしたのでした。

＜次回作品････小澤征爾＆ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏会 1986年10月30日＞