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フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラ / シューベルト:交響曲全集
ベートーヴェン交響曲全集を完成させたブリュッヘン&18世紀Oが続いて挑んだのがシューベルトの交響曲全集。
ブリュッヘン&18世紀オーケストラ / シューベルト:交響曲全集
ブリュッヘン&18世紀Oの1回目のベートーヴェン交響曲全集は、1992年11月録音の交響曲第9番「合唱」で完結しました。1985年5月に録音した第1番から足かけ8年を費やして完成した全集です。
そのベートーヴェン交響曲全集の演奏&録音に並行して始まったのが、シューベルトの交響曲シリーズです。
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シューベルト:交響曲全集
ボックス表
曲目
曲目は次のとおりです。もともとはバラ売りされていたものをカップリングを組み直してBOXにまとめた全集です。( )内に記したのは録音年と月です。
CD1
交響曲第1番 (1996年11月)
交響曲第4番 (1996年11月)
CD2
交響曲第2番 (1995年5月)
交響曲第3番 (1994年11月)
交響曲第5番 (1990年6月)
CD3
交響曲第8番「未完成」 (1993年11月)
交響曲第6番 (1993年11月)
CD4
交響曲第9番「グレイト」 (1992年3月)
録音順に並びかえると次のようになります。
第5(90.5)→第9(92.3)→第6&第8(93.11)→第3(94.11)→第2(95.5)→第1&第4(96.11)
最初に録音&発売されたのは第5番で、同時に録音されたメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」とのカップリングでした。
この発売を知ったとき、ブリュッヘンのモーツァルトとベートーヴェンに親しんでいた私は、「え?ブリュッヘンはシューベルトとメンデルスゾーンも演奏するの?」と、ちょっとびっくりし、少し違和感を覚えたのを記憶しています。当時のCD評でも「ブリュッヘン&18世紀Oは、ついにロマン派も演奏するようになったか」と軽い驚きが綴られていたのを覚えています。
私の邪推ですが、ブリュッヘンと18世紀Oはシューベルトを全集に発展させるつもりではなかったのかもしれません。最初に録音された第5番と次に録音された第9番「グレイト」の間が1年半ほど空いており、その間にベートーヴェン交響曲全集が完成しているのが少し気になったのでそう考えました。
つまり、ブリュッヘンと18世紀Oはシューベルトは第5番のみと考えていたのだが、ベートーヴェン交響曲全集が好評のうちに完成したので、Philips側が「どうですか、次はシューベルトの交響曲全集でも」と持ちかけ、ブリュッヘンと18世紀Oも「やってみるか・・・・」と応じた。
あくまで私の邪推なのですが。
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シューベルト:交響曲全集
ボックス裏
演奏について
演奏については、モーツァルトの交響曲で述べてきたことがほぼ当てはまります。
ただ、モーツァルトの交響曲の第2楽章(歌謡楽章)が速めのテンポですっきりと演奏され、「清涼」という言葉が当てはまるのに対し、シューベルトの交響曲の第2楽章は、ゆっくり目のテンポでよく歌われ、「チャーミング」という感じです。これは意外な発見でした。
シューベルトの交響曲は、第1番から第6番まではモーツァルトやベートーヴェンの影響を受けていると評されることが多いですが、ブリュッヘンの演奏を聴くと「モーツァルトやベートーヴェンのいずれとも違うシューベルトの音楽」という印象です。
モーツァルトの「天衣無縫で軽やか」な交響曲ではなく、ましてやベートヴェンの「聴け!おれの音楽を!」という自己主張の激しさとも違います。
シューベルトの交響曲は、もっと親しみのあるくつろいだ音楽です。
そしてもう一つ。
第1番から第6番と第9番「グレイト」は規模の大小はあっても、親しみのあるくつろいだ音楽で紡がれているのに対し、第8番「未完成」は彼の他の交響曲とはまったく違う「陰と欝の音楽」に満ちた異色の作品であること。第8番「未完成」は、シューベルトの交響曲の中にあっては突然変異的な作品であることがよく分かります。
さきに「ブリュッヘン&18世紀Oは、シューベルトの交響曲を全集に発展させるつもりはなかったのでは?」と記しました。実際に、彼らは全集完成後はシューベルトの交響曲を「未完成」と「グレイト」以外はコンサートや録音で取りあげることはなかったようです。
ただ、もしそうであっても、モーツァルトやベートーヴェンとは違うシューベルトならではの音世界を作りだし、その魅力も引き出した彼らの手腕はやはりさすがと思います。
次回予告 フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラ / メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」
ブリュッヘン&18世紀オーケストラがベートーヴェン交響曲全集プロジェクトの終盤に突然演奏&録音したメンデルスゾーンの交響曲。なぜ?と当時は思いましたが、これは名演です。