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「女性起業家」とは何なのか?この時代に、それでも女性をつける意味の考察

神戸市主催の女性起業家支援事業に携わらせていただき約2年がたちました。神戸市以外の事業も含めて、これまで述べ70名ほどの女性起業家(とそのたまご)と出会い、寄り添い、事業計画を共に作り上げていくご支援をしてきました。そのなかで、女性起業家を支援する支援団体や企業の皆様とも多く意見交換をさせていただきました。このnoteは、2年間ずっと私がモヤモヤと考えてきた、「女性起業家とは何か」、「(一般的な)起業家と何が違うのか」、そして「女性ってつける必要があるのか?」と言った問いについて、現時点での考察をまとめたものです。
なおここで使う「女性起業家」は以下で紹介するノウハウ集に記載されてるような抽象的な概念としての「女性起業家」であり、特定の誰かを表すものではなく、女性の起業家全てを包含するものでもありません。また、相対する用語として(一般的な)起業家を用いることとします。

女性起業家支援→女性起業家発掘

「スタートアップバブル」とも言われるように、スタートアップ支援はここ数年注目され、多くの国家予算、自治体予算が投入されてきました。更に、政策は「足りないところを伸ばす」志向があるため、最近では女性や若者の創業支援・スタートアップ支援事業が各自治体で多く行われています。

女性起業家支援が各自治体でこんなにも多く行われるようになった契機の一つが、2019年3月に経済産業省が発行した「女性起業家支援ノウハウ集」ではないかと思います。女性起業家支援を行う自治体や事業者向けに、2019年時点で行われている女性起業家支援の事例を参考としながら、女性起業家の特徴や、支援のあり方についてまとめられています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/joseikigyouka/knowhow2.pdf

ノウハウ集では「ライフイベントとの両立が課題である女性の就労促進には、「起業」が 一つの有効手段」と指摘し、起業フェーズに合わせた具体的な支援策を提案しています。私が女性起業家支援の現場で多様する(そして一般的な起業家支援ではあまり使わないであろう)不安・モヤモヤ・踏み出せない・私らしさ・家族の理解、などのキーワードが満載です。

女性起業家支援ノウハウ集 p10

「なかなか何から進めればいいのかわからないままモヤモヤしている」「イベントやセミナーなどがあっても、子どもの預け先がなかったり、家族の理解が得られず参加したいと言い出しにくい」、あるいは「支援機関はハードルが高く感じ、何を相談していいのかわからない」女性に対し、「まず情報を届けて、一歩踏み出してもらうきっかけをつくることが重要」であるため、「気軽に参加できるマルシェに相談ブースを設置」したり、「お茶会」を開催しましょうと言った内容です。「”起業”と構えなくても参加できる、”何か始めたい”女性を応援するプログラム」が重要であるとの記載もあります。つまり、何が言いたいかというと、「起業のハードルをめちゃくちゃ下げる」ことを重要視しているわけです。

更にこのノウハウ集では、支援者側に対して、女性起業家にこのような態度で接しましょうという提言も詳細に記載されています。

女性起業家支援ノウハウ集 p22

要約すると「モヤモヤを抱えている女性起業家に、専門用語で殴りかかかっちゃダメよ!優しく寄り添ってね!」ということが書かれています。ここでもやはり、「起業のハードルをめちゃくちゃ下げる」視点が徹底されています。

つまり、女性起業家支援の多くは、支援の手前にある、女性起業家「発掘」を重視しており、「起業をするかどうかまだわからないけれど今のままでは不安」という女性を対象に、まずは起業に興味を持ってもらおう、という施策に重きを置かれていることが分かります。実際、各自治体の施策を見ても「お茶会」「おしゃべり会」など、起業するかどうかの以前に、悩みを相談できる場を設けているものが多い印象です。第一に、ここが(一般的な)起業家支援と大きく異なる点として挙げられます。

女性起業家→個人事業主x社会事業

女性起業家のもう一つの特徴として、(一般的な)起業家より「個人事業主」的な性質が強く、「社会事業」的な性質が強いことが挙げられます。男性起業家と女性起業家の傾向を表した概念図がこちらです。もちろんグラデーションはあるので、あくまで傾向として捉えていただければと思います。

筆者作成

そして、市販の書籍のタイトルを見るとその違いが一目瞭然です。一般的な起業家が目指す成功を支援するための「成功系起業書」では、年収XX億ビジネス、お金持ち、成功する、起業家、プロ、などのキーワードが並びます。対して女性起業家を対象とした水色やピンクの表紙の「自己実現系起業書」では、頑張らない、ひとり起業、自分らしく、世界一優しい、夢を叶える、などのキーワードが並びます。同じ起業書といえど、明らかにターゲットと、ターゲットの目指す世界観が異なることがわかります。

実際、女性起業家と話していると、「成功」や「儲ける」というキーワードに苦手意識、下手をすれば嫌悪感を抱いている方が多くいらっしゃる印象です。私は女性起業家向けに「マーケティングとブランディング」の講座を担当しました。大学の講義でも利用している資料を女性起業家向けにアレンジしたのですが、わざわざ一番最初に「儲けることは社会を良くすること!」というスライドを数枚作成して挿入しました。まずは儲ける事に前向きになっていただかないと、マーケの話なんて耳に入ってこないからです。

筆者作成:「マーケティングとブランディングの基礎知識」資料より抜粋

マトリクスの横軸に記載した「社会事業」も非常に広い言葉で、地球の裏側の貧困や戦争をなくすことも社会事業だし、自分が住んでいる地域コミュニティの孤立防止も社会事業になり得るわけです。女性起業家の特徴として、「自分を中心とした顔の見える世界=社会」という傾向が強いように感じます。つまり「世界平和ではなく向こう三軒両隣の平和」に関心が強い方が多い(注1)。これは、いい悪いではありません。世界平和も大事だし、向こう三限両隣の平和も等しく大事です。

ただし、向こう三限両隣は、ライフスタイルが変わる度に変化する可能性があり、女性起業家の事業や目標がぶれやすい要因にもなっていると思います。先日若者の起業支援をされている方が、「若者の課題意識はフードロスと教育事業がめちゃくちゃ多い」とおっしゃっていました。学生さんからすると、フードロスと教育事業が「向こう三軒両隣」の課題なのでしょう。婚活、妊活、出産、育児(新生児・幼児・児童・少年少女・青年・若者)、介護など、女性起業家自身のライフイベントに伴う「向こう三限両隣」の課題に基づき起業しても、数年経つと自身のライフイベントが変化し、課題意識も変化する、と言ったことが往々にして考えられます。営利事業におけるピボットの概念とはまた異なる動機で、課題意識とそれに伴う事業が変遷する点が、女性起業家の特徴ともいえます。

女性起業家の背中を押すものは何か

以下に示しているのは、女性起業家に限らず一般的な起業プロセスです。まずステップ1として何かはじめたい、あるいは今のままでは不安という状況があります。そこから課題を発見し、課題解決策を考案し、ステップ2であるプロジェクトとしの起業に進みます。この段階ではもちろん単一事業です。多くの女性起業家支援事業は、ステップ1からステップ2に以降していただく事に重きを置いているものが多いです。一方、(一般的な)起業支援では、すでにプロジェクトとして起業している方に対し、視座を上げ、資金や仲間を調達するための機会を提供し、ステップ3の事業が連続する企業に育てていくための支援が多いかと思います。女性起業家支援事業でもステップ2→ステップ3を対象にしたものはありますが、数で言うと多くなく、東京や大阪など大都市や、複数の地方都市を跨いだ地域連携で行われている印象です。

筆者作成

私もメンターとして女性起業家支援に携わる中で、ステップ1からステップ2への支援は経験し、実際にステップ2に進まれる女性起業家を何名も見てきました。しかし、ステップ2からステップ3に進む女性起業家の、一体何が背中を押したのか、なぜステップ3に進む気になったのか、残念ながら言語化できていません。実際にステップ3にいらっしゃる女性起業家に話を聞いても、「どこで自分が変わったのかあんまり覚えてないです」と言う方が多く、何が背中を押したのか明確に掴めていないのが現状です。ここについては、今後様々な方にヒアリングし、意見交換しながら、明確にしていきたいと考えています。

この時代に、それでも女性をつける意味

最後に、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の時代にそれでも「女性」を冠につけて女性起業家支援を行う意義について考えてみます。私はこの2年間ずっとこの「女性」冠にモヤモヤしつつ、その渦中に飛び込んで支援を行ってきました。実際「女性ってつけてるのどうなの?」という意見を頂いたこともあります。それでも、複数の受講者の方から「女性ってついたから安心して参加できました」と言う声や、「女性だけなので打ち解けて相談できました」と言った声もたくさんいただきました。また、一般的な起業支援に参加して自分は対象ではないと思った、めげた、と言う声も聞かれました。

そこで最近読んだ本から着想を得て私が辿り着いた答えは、女性起業家支援は「小児科」と同じだという事です(注2)。自分に必要な処置が鼻なら耳鼻科に行けばいい、皮膚に問題があるなら皮膚科に行けばいい。他の診療科は全て「役割と提供価値」が明確です。一方小児科は「小児ならなんでも診ます」と言う事でターゲットを子どもに固定した上で、広く浅く役割や提供価値を捉えていることが特徴です。

これを起業家支援に当てはめると、一般的な起業家に向けては、資金調達のためのピッチイベントだったり、銀行や金融機関が主催する資金繰りのための相談会、仲間を集めるためのミートアップイベントなど、役割と提供価値を明確にしたした多様な支援が存在します。一方で、女性起業家支援は、小児科同様「女性」というターゲットを固定して広く浅く、「なんでもいいから相談してね」という支援内容が多い。お子さんのいる方ならお分かりになると思いますが、子どもはうまく自分の症状を表現できない。だから熱が出たとき、鼻水が出たとき、具合が悪そうなとき、まず最初に小児科で診てもらうと思います。きっと、女性起業家支援も同様に、何かしたい、何か始めたいと言うモヤモヤを抱えた女性たちの、最初の窓口として、ハードルは限りなく低く、相談しやすいようにしておくべきなのでしょう。

こう考えると、この時代に、女性起業家事業を行う意義は、きっと多分にあるのだなと、この2年間は無駄ではなかったかなと、少しだけ思えるようになりました。

注1:ここで用いている用語については、先日支援団体イベントで交流させていただいた支援団体の皆様から着想をいただいております、この場を借りて御礼を申し上げます。

注2:参考にした本はこちら。文中では経営学を小児科に例えています。起業家支援の文脈とは異なりますが、非常に示唆に富む本でしたのでご興味あればぜひ。


株式会社monamieは、創業期から成長期の経営者の皆様のマーケティング、ブランディング課題に伴走支援いたします。マーケティングを担ってくれる仲間がいない…という経営者の皆様、ぜひお気軽にお問合せください。また、創業間もない女性起業家のメンタリングもご支援しております。



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