女性は家庭の責任者?
本日Business Insider Japanに「女性4割『もし私が男性だったら高キャリアに』と自信。男女不平等なのは職場より『家庭』」という記事が出た。同記事はLinkedIn Japanの調査をもとにしたもので、女性の社会進出を阻む大きな壁が家庭での責任であることが改めて示されている。
昨年私は依頼を受けて、「An Unconscious Bias: Why Japanese Women Still Prioritize Home Over Work」という英語記事を書いた。なにせ昨年の記事なので、内容が古いかと思い和訳するのを躊躇していたが、今日のこの調査結果を見て幸か不幸かまだ古くないことがわかったため、日本語で内容を紹介したいと思う。
女性に刷り込まれてしまった「女性=家庭」の意識
私の友人に、4歳の娘を持つエンジニアの女性がいる。彼女は妊娠したとき、当然自分が1年間の育休を取るものと考え、同じ職場で働く夫には相談すらしなかったという。
別の知り合いの女性は大企業の営業職として働いている。「女性が働きやすい会社」として有名な企業だ。しかし彼女によると、その企業では妊娠した女性は営業職ではなくバックオフィス系の業務に回されるという。いわゆるマミートラックだ。子供がいる女性は「長時間働けない」「急な休みを取ることがある」という想定のもと、配慮の一環として内勤業務になるとのこと。このことについて彼女自身は特に問題だと思っていないそうだ。
これらの考え方は女性自身が「女性は主な養育者になるべき」という考え方に縛られてしまっていることを表している。いわゆるアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)だ。最初の友人はその後「なぜ自分は母親が主な養育者になるべきだと思っていたのだろう」と気付き、2人目ができたら夫に長期の育休を取ってもらうようにしたいと言っていた。
しかし、2人目の女性は自分がアンコンシャスバイアスを持っているということに私が指摘するまで気付いていなかった。子供がいる女性と言えど、家庭やパートナーによって事情はさまざまのはずだ。それは男性も同じだろう。なのにこの企業は「女性が主な養育者である」という想定でキャリアコースを限定しており、それを「女性が働きやすい」と言っているのだ。言い換えると、「家庭の主な担い手である女性が、家庭での義務を果たしつつ、行いやすい仕事がありますよ」ということだ。もう1つ言えば営業職の業務内容を「子育てしない人」を前提に設計している点も多様性を欠いている。
今なお根強い60年前のジェンダーロール
このジェンダーロールの根強さを如実に表した調査結果もある。労働政策研究・研修機構による「第7回勤労生活に関する調査」での、「仕事と家庭の両立にかかわる望ましい男女の生き方」という項目だ。生き方なんて人それぞれだと思うのでこの項目自体がもうナンセンスの極みだが、この調査では5割以上の女性が「望ましい女性の生き方」として「仕事もするが、あくまでも家事・育児・介護を優先する」「仕事はしないで、家事・育児・介護に専念する」を選んでいる。さらに驚くのは、男性の6割以上、女性の7割以上が「望ましい男性の生き方」として、「家事・育児・介護もするが、あくまでも仕事を優先する」「家事・育児・介護はしないで、仕事に専念する」を選んでいるのだ。
このジェンダーロールは1960年代の高度経済成長期に確立されたものだと言われている。当時、社会保障制度や企業の福利厚生制度は「働く父、専業主婦の母、2~3人の子供たち」を基準に作られていったという。この刷り込みが脈々と60年後の現在まで受け継がれているのである。
女性は家事に仕事に疲労困憊
女性の社会進出が進めど、日本の女性の家事育児時間は先進国で一番長く、男性の家事育児時間は一番短い。さらに無関係ではないと思われるのが睡眠時間だ。日本の女性の睡眠時間はOECDの調査対象国のなかで最も短く、これは日本の男性の睡眠時間よりも少ない。
家事代行サービスは色々あるが、使っている人は少数派のようだ。DIMEの調査によると利用率はたった7%。利用を躊躇する理由の1位はコストだという。正直これは「家事=無償労働」という意識の表れである気がしてならない。そしてその無償労働を担ってきたのは女性たちである。
男性優位の職場であからさまな性差別とまでは言えないがモヤモヤする経験をし、家に帰れば家事育児を担う、睡眠不足の日本の女性たち。ストレスから逃れるためにキャリアの追求をしないでおこうという判断は不思議ではない。
実際、ソニー生命の調査では「管理職への打診を受けてみたいか」という項目に対して「非常にそう思う」「そう思う」と答えた女性は31%に留まった。一方「本当は専業主婦になりたいか」という項目に対して「非常にそう思う」「そう思う」と回答した割合は20代で50%以上に上り、それはどの年代よりも多い結果だった。女性マネージャーのロールモデルが不足し、若い女性たちはますますキャリアを追求する姿を描けなくなるといういう悪循環が垣間見える。
「女性」の生き方は人それぞれ
このジェンダーロールにすべての女性が満足しているのなら問題はないはずだ。しかし「女性は仕事より家庭を優先すべき」という大昔の価値観のなかで苦しむ女性を私は何人も知っている。
生き方は本来人それぞれだ。専業主婦になりたい人もいればキャリアを追求したい人もいる。問題は、それらの多様性を無視して「女性」と一括りにし、「家庭を優先すべき」という無意識的な想定のもとで暗黙のうちに色んな期待や決まりを作り、選択を迫ることだ。
そんななかで女性たちは一生懸命頑張っている。その頑張りに疲れた結果、自分たちが我慢して男女不平等を受け入れた方が楽になると考えても仕方がないだろう。実際冒頭の記事でも調査対象女性の約半数が「男女はそもそも異なるため、男女平等は成立しない」と回答したそうだ。そう、女性たちは疲れてしまっている。これはさまざまなところに潜む「女性=家庭」という刷り込みがなくならない限り続くだろう。とすると今、国を挙げて推進すべきは「女性の社会進出」ではなく、それを実現するための「男性の家庭進出」という土壌作りなのではないだろうか。
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(Photo by Standsome Worklifestyle)
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