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自分のキャリアストーリーから生理を抜いた理由

先週たまたま読んだYahoo!ニュースに反応して新しいテーマでnoteを書きたくなった。

この記事自体は特にネガティブな論調ではない。が、気になったのは以下の導入部である。

『虎に翼』は、伊藤沙莉演じる寅子が日本初の女性弁護士を目指す物語で、現在は放送開始から3週目。大学女子部の学生時代を演じている段階だが、特に生理痛やPMS(月経前症候群)といった婦人科系の疾患を取り上げるストーリー展開ではないので、唐突感は否めない。

女性の生きざまを描いている(のであろう)ドラマで、生理のシーンが「唐突」?むしろ自然では。初潮から閉経までの間、生理は季節も時間も場面も選ばずやってくる。「婦人科系の疾患を取り上げるストーリー」しか生理が出てこない方がおかしくないか。

と、ここまで思って気づいたのだが、私自身は自分のキャリア文脈で生理の話をしてこなかった。仕事では生理とキャリアについて何度も書いてきたけれど、内容はいつも客観的なデータやトレンドが中心である。キャリアを築く女性の1人として、生理を含めた健康マネジメントのリアルを主体的に発信したことは一度もない。noteで5年前に書いた「川下り型キャリアを実践する女の話」でも一切触れなかった。つまり私は「女性の人生ストーリーで生理のシーンは唐突」と捉える人を生んできた側なのだ。

それは生理が意識に上らないほど軽いから、ではない。むしろ散々悩まされてきたし、仕事やキャリアへの影響は現在進行形だ。けれどその部分を自分のキャリアストーリーからごく自然に排除してしまったのは、私自身のなかに仕事やキャリア領域は男性基準で語るべきというアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)があるからだろう。

いや、もう少し正確に言えば、「ジェンダーに関係なく共通する部分」にフォーカスすべきというバイアスがあった。その結果、女性特有の健康部分を無視して結局男性基準になったという方が正しい。エスニシティの部分では「共通する部分」にばかり目を向ける考え方からようやく抜け出せたにもかかわらず、また同じことをしていた。習慣とはおそろしいものだ。

生理について話すのが憚られる理由を改めて考えてみると、いくつか思い当たる。

まず男性に対しては「隠すもの」という意識が骨の髄まで染みついていること。これは仕事の文脈だけではない。たとえばジムで毎週指導をお願いしているパーソナルトレーナーさん(男性)は毎回「体調はどうですか」と尋ねてくれるが、「低気圧なのでしんどいです」とは答えても「PMS(月経前症候群)なんで最悪です」とは言わない。よくよく考えれば相手はプロのトレーナーだし、女性のホルモン変化による体調のゆらぎ等もわかっている可能性があるが、反射的に言わない選択をしてしまうのだ。

男性に対して言いづらい理由には、上記以外にも「女性としての機能が劣っている」など偏見の目で見られたくないという気持ちもある。生殖領域関連で勝手に何かを想像されたくないのだ。もちろん全員がそのように反応するわけではないだろうが、「隠す」のが当たり前だった社会背景を考えると、男性の生理に対する知識レベルは結構低いと思っている。無知は偏見を生みやすい。だから言わない。

あとは、わかってもらえずに傷つく可能性を避けるため。そもそも、生理にまつわる苦しみの程度は人によってまちまちだ。そのため、生理痛やPMSがまったくない女性のなかには、その辛さを軽んじるような言動を取る人もいる。また男性のなかには、差があるという事実を知らず「あの人は大丈夫なのに」と不必要かつ無意味に比較して何かを判断しようとする人もいた。こうした可能性を排除できない文脈では、損をするのは私である。だから言わない。

私自身が「体調管理も仕事のうち」という呪いに縛られているというのも理由の1つだろう。今はどうか知らないが、2005年に私が新卒で入社した企業では、新人研修でそんな風に教えられたのである。おそらくこのフレーズを考えた人はPMSなど想定もしていなかったと思う。新人時代に身につけた仕事の進め方やマナーがその後自分の礎となったように、このときに刷り込まれた「体調不良というのは極力あってはならない」という考えもまた、自分のなかに根を下ろしてしまった。だから言わないのだ。

なぜこうなったのかをさらに深掘ると、背景には環境的な要因がある。小学生のとき、女子だけを対象に生理の授業が行われたこと(友人の子が通う小学校では未だにそうらしい)。生理用品を買うと中身の見えない袋に入れられること。組織の価値観や慣例の多くが男性基準で作られてきたとは知らなかったこと。

だから、「言わないのが悪い」とは思わないでほしい。その選択には、社会的背景が多分に影響しているからだ。同様に私も、周りの無知を責めはしない。

生理だけではない。何かしらの健康事情を抱える人は少なくないはずなのに、大半の人はまったく問題がないような顔をして働いている。まるで「健康」という1つの型しか許されていないように。ちなみに私が新卒の頃は履歴書に「健康状態」を書く欄があり、そこには「良好」と書くのがお決まりだった。「月に1週間程度のPMSおよび4~5日の片頭痛」など書いていたらたぶんどこにも採用されなかっただろう。

昔チームのリーダーとして働いていたとき、私はメンバーに「片頭痛で早退する」と言ったことがあるそうだ。そのことを私自身は覚えていないのだが、数年後その人から「あのときYunaさんが片頭痛だというのを聞いて、『言っていいんだ』と救われました」と言われた。当時は知らなかったが、その人もまた健康の不安を抱えながら働いていた。

自分が言うことで、救われた人がいる。となると、やはりキャリアの文脈から生理を含めた体調の話を排除すべきではなかった。むしろ私のようなしがらみのない人間こそ率先して発信するべきだろう。ということで次回は、キャリアストーリーで描かなかった健康部分について書きたいと思う。

(Image by Annika Gordon from Unsplash

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