卵巣腫瘍取ったよ日記⑤〜手術当日〜
1月7日。ほとんど眠れないまま朝を迎えた。部屋のエアコンがやたらうるさかったのと、定期的に巡回があるからだ。廊下を歩く看護師さんの足音だけで目が覚めてしまうほど、神経がざわついていた。
初めての手術だから、まあ仕方ない。
手術の前は絶食のため、朝食の時間は暇だった。暇すぎて、ラジオ体操をした。
午後からの手術に備え、10時から飲水も禁止。その頃に医長先生の回診があり、予定どおりお昼から手術できそうだとのこと。(緊急で手術が入ったときは後回しにされるけどね)
手術着に着替え、血栓予防の着圧ソックスを履いていると夫が来てくれた。11時頃かな、看護師さんが来て点滴。(ここでもなかなか血管を捕捉できず、ベテラン看護師さんにチェンジした)
「そろそろ行きましょうか」
12時半、看護師さんが呼びに来た。いよいよだ。
もっと緊張するかと思っていたけれど、そうでもなかった。夫と一緒に手術室直通のエレベーターに乗る。私より緊張している夫。
「では、付き添いの方はそちらの扉から出ていただいて」
エレベーターは前後に扉があり、乗った側の扉を出ると待合室、反対側の扉を出ると手術室らしい。
ここで夫とお別れ。
命に関わるような大手術だったら、ここで泣いていたかもしれない。腹腔鏡手術だって全身麻酔だし、リスクもあるんだけど。
「じゃ、行ってくるね!」「うん」
あまりにも普通に別れてしまった。朝、仕事に行くときと同じテンション。
夫が降りて扉が閉まると、反対側の扉が開く。目の前にはたくさんの手術室。
まずは椅子に座り、手術用の帽子を被せられた。髪を全部入れる必要があるので、髪が長めの方はゴムを用意したほうがいい。
名前と生年月日を確認される。(入院中は検査のたびに口頭で言う必要があった)
少し待って、ついに手術室(個室)へ。
手術台の手前で、再度名前と生年月日の確認。それから「どういう手術を受けるか」も聞かれた。
「腹腔鏡手術で左の卵巣と左右の卵管を取ります!」
ネットで「聞かれるよ」と読んでいたので、澱みなく答えるために“腹腔鏡手術”を練習した甲斐があった。ものすごく元気に答えたのを覚えている。
「じゃあここに横になってください」
手術台に横になると、周囲のあちこちから一斉に手が伸びてきて固定されたりチューブを繋がれたり。凄いチームワークだ。心電図のパットをわざと違うところに貼って笑いが起きたり(緊張をほぐすために笑わせてくれたのだと思う)、いい雰囲気のチームだと思った。
酸素マスクをつけられ、やがて視界がぐるんぐるん回り始めた。
「はーい、これから眠くなr」
(......せーの!)
「......?」
遠くで掛け声が聞こえた気がした。病室のベッドに移されたときの掛け声だったのだと後で気づく。
目を開けたら、目の前にほっとした様子の夫の顔があった。麻酔から覚めて最初に見たのが夫の顔でちょっと嬉しかった。(突然の惚気)
その後もしばらくは現実と夢の世界を行き来していて、あまり覚えていない。ただ、ものすごく寒くて歯がガチガチ鳴っていたことと、今にも吐きそうなほど気持ち悪かったのは覚えている。
掠れた声で訴え、エアコンの温度を上げてもらった。顔の横にはいつでも吐けるようにビニール袋をセットした器。麻酔から醒めたということで執刀した先生が来て手術の経過を説明してくれたけど、なんとか吐き気を堪えようと必死になっていて何も聞こえなかった。
その後、あまりの気持ち悪さに意識を遮断(寝た)。
少し寝たら吐き気がマシになっていて、少しだけ話す元気も出てきた。頻繁に看護師さんが体温と血圧、それにお腹の傷の状態をチェックしにきてくれて、あと全身麻酔だったから尿管カテーテルが入っていて、なんというか「生かされている」と思った。
母と夫が帰宅し、私は再び就寝。夜になって部屋が暑すぎて起きて(あまりにも寒いと訴えたため夫によって28℃に設定されていた)、エアコンの温度を20℃まで下げてもらって再度夢の中へ。看護師さんがチェックに来るたびに目が覚めたけど、看護師さんの仕事ぶりに感動していて全く苦にはならなかった。
初めての手術は、あっという間に終わっていた。「寝てる間に終わるよ」と、入院前によく言われていたけれど、本当に寝てる間というか、私の人生という1本の線からその時間だけ切り取って前後を繋ぎ合わせたような感じがする。目を閉じて、目を開けたら終わっていた。眠った記憶すらない。すごいね、全身麻酔。