「土偶ワインボトル説」
いきなり変わったタイトルをつけてしまいました。
これは、土偶をみんなで見てしゃべる「対話型鑑賞」から生まれた仮説です。
「対話型鑑賞」というのは、主に美術作品を対象とする手法で、複数人で作品を見て、互いに異なる意見を聴きあい、より深く作品を鑑賞していくというプログラムです。美術館を中心に行われています。
さて、今回鑑賞したのはこちらの作品。
作者はとある縄文時代人。
通称、上黒駒土偶といわれています。
(上黒駒というところから出土したものだから)
これは何?
何を表してるの?
何に使ったの?
はっきり言ってなんだかわかりません。
研究者には見えている世界があるのかもしれませんが、縄文人の作ったものは、簡単には理解できなさそうなぎょっとするものがたくさんあります。
それで、これが何を表しているのか、私がファシリテーター役になって、この土偶のことを知らない方たちと一緒に対話型鑑賞をしてみました。
出てきた意見はこんな感じ。
(→の後は「どこからそう思ったか」)
・顔はネコ→みつ口、三角耳、ヒゲみたいな線
・体は人間ぽい→胸に手をあててるポーズやシルエット
・古そう(鑑賞時には縄文時代ということは伝えていない)→色合いや風合い
・偉い人に仕えているのでは?古墳とかピラミッドの時代に。→胸に手をあてて恭順しているように見える、指が3本だから2本は折っているのでは
まずはこんな意見↑
ちなみに、立体なので、前と後ろの写真を同時に見てもらいました。
さらに出てきた意見↓
・鎧を着ているのでは→首のうしろの盛り上がりに点々の模様がついていて鎧の服のように見える、背中の真ん中を走る線が服のチャックに見える
・首の後ろの盛り上がりは長髪の髪の毛にも見える→何かを被っていて、その下から出てきているように見える
・ネコらしき顔は実は仮面で本体は人間ということでは
・なんとなく女性っぽい→デコルテのラインやウエストが女性っぽい
・これは花瓶か?→頭の後ろの穴から水を注いで花を入れられそう
・花瓶とすると、前から見たときに頭にお花が咲いてかわいい。
・折れてる右手は実は背中に当てていたのでは→ちょうど当たりそうなところが削れている
前と後ろの形状の不思議な組み合わせが、いろいろな解釈を生みます。
・腰から下には何か足があったのでは→くびれで割れている
・腰から下は瓶のボトルのようなものが続いていたのでは、液体を入れるボトルだったのでは→シルエットと後頭部の穴から
・恭順のポーズはもしかしてワインをサーブしてくれる紳士なソムリエということか?
・頭の穴にはコルクの栓がはまりそう
ここで時間が来て対話型鑑賞終了。
15分〜20分くらい、人数は8人くらい。
いろいろな意見が出ましたが、誰かが誰かの意見を受けつつ発展し、そして最後の方に
「ワインのボトル説」
にまとまってきたというわけでした。
正しいか正しくないかは置いておくとして、こういう土偶の鑑賞って、
楽しい!
なあ〜と思いました。
終わった後にみなさんに感想を聞いたところ、
「これが何なのかがもっと知りたくなった。他にどんなものがあるのかも知りたい。」
「対話型鑑賞をしなかったら解説をされても頭に入ってこなかったかもしれないけど、した後だときっと全然違うと思う。」
「すごく観察した。」
などのコメントをいただきました。
対話型鑑賞は、美術館のアート作品に対して行うものという認識が強いですが、こうして考古資料を対象にしてみても有効なんだということがわかりました。鑑賞と解説講座を組み合わせてもいいですね。
もちろん、資料の選び方、鑑賞する方の層への配慮は重要です。
博物館関係者のみなさん、こんなプログラムもいかがでしょうか?
次はどんな資料にしようかな?
※ARDAの対話型鑑賞講座修了生のみなさん、お付き合いいただきありがとうございました!