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「チョコスポンジ葺き竪穴住居ケーキ」は燃えるとどうなるか

お菓子作りを通してガチの考古学研究に触れてみよう!というシリーズの記事を書いてみます。(シリーズと言ってもこれが第一回目です。)

今回扱う論文はこちら。

村本周三・高田和徳・中村明央2006「岩手県御所野遺跡における竪穴住居火災実験」『考古学と自然科学』第53号
→オンラインアクセスはコチラ

まずは、この一枚の図面から。

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これは何かというと、発掘された縄文時代の竪穴住居跡(上は残っていないので、残存している基礎のみ)の断面図です。

1~3とかかれたところがいろいろな種類の土で、黒いところが炭化した木材を表しています。土は一部焼けています。

このように、住居を埋める土と土の間にまとまった炭化材があるという観察結果が得られれば、その住居の屋根はいわゆる「茅葺き(草葺き)」(遺跡公園などで私たちが一番よく目にするやつ)ではなくて、「土葺き」っぽいぞ!というのがこの論文の結論です。

ちなみに、舞台となっている「御所野遺跡」については→コチラ
岩手県の一戸町にある、とっても気持ちのよい遺跡ですよ。

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【用意した材料】
・チョコレートスポンジケーキ(5号)
・小枝チョコ
・カレドショコラ
・ダース
・スライス生チョコレート
・ロックンチョコ
※どなたでも気軽に真似できるように、できるだけ市販品を使い倒すのが私のポリシーです。

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竪穴住居の名前の通り、まずはタテアナを掘ります。
掘り上げた土(スポンジ)は残しておくのがポイントです。

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今回使うのにこれ以上ないくらい相応しい名前の「小枝」を使って、柱や垂木の部材を作ります。溶かした「ダース」でつないで長さや太さを調節します。※「ダース」はレンジで加熱するとすぐ溶けるので便利です。

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上棟。
※「カレドショコラ」は側壁や入口屋根の部材に使っています。「ロックンチョコ」は炉の石に。


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ちなみに、御所野遺跡で実験のために復元された住居は、こちらの浅川滋男さんと西川和宏さんが過去に作成された復元図を元にされたということで、わたしもそれを(できるだけ)参考にしました。

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そして、今回一番お菓子アカデミー賞をあげたいのが、この「スライス生チョコレート」。これがなかったらうまくできなかったと思います。スーパーではあんまり見かけないかもしれませんが、スライスチーズのチョコ版みたいなやつです。(私はAmazonで買いました。)

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垂木にかぶせて屋根の下地材にしました。(樹皮などのイメージ)

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そして登場するのが、最初に掘り上げてとっておいたスポンジ土。
下地材の上に土をぺちぺちと置いて葺いていきます。
時々ぎゅっと抱きしめてあげるように土をかためるのがポイント。

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土葺き屋根に、風情のある苔や草を表現。

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これは私が御所野遺跡に行った時の写真ですが、似た感じになったでしょうか?

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(縄文ちゃんクッキーを添えて…)


しかし、ここからが今回の本番です。
「火災実験」なのですから燃やさないといけません。

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が、すみません、お菓子なので(後で食べたいから)オーブンで代用させていただきました。
タイトルで「燃やす」と言ってごめんなさい。
(縄文ちゃんは避難させた。)

ちなみに、これが実際の火災実験の様子。

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そして、これがオーブンの中の様子。

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てっぺんからドーンと崩れていく様子がわかります。
チョコレート部材は熱で溶け、スポンジ素材は解けた部材と一緒にボロボロとブロック状に落ちていきます。
様子としては実際の実験と近いようです。


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鎮火。


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なかなか似ていると思う。


しかし、お菓子化はそう簡単ではありませんでした。

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土層断面

1層:見えてないけどこれから埋まるはずの土層
2層:スポンジ土層(カリカリに焼けている)
3層:スライス生チョコレートと思われるチョコ炭化材層
4層:小枝チョコ炭化材層(明褐色・パフ入り)
5層:いろいろチョコ炭化材層(床面直上)

「土(スポンジ)」→「炭化材(チョコ)」→「土(スポンジ)」
という順番になるはずだったのですが、うまく再現できず…

実際は内側から火を燃やしているので、外から熱を加えるオーブンだとわけが違う!
…という言い訳もどうやらできなさそうです。

ムムム。

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村本さんの実験によると、実際にはこうなるのだそうです。
(だいぶ意訳)

1.屋根の下地材や梁・桁などの燃えやすい部材が燃えて床に落下→炭化材
2.屋根の土は燃えないので、重力でそのまま下へブロック状に落ちる→土
3.1で落下しなかったその他の部材が落下、風化して、堆積する→炭化材
4.長い年月をかけて全体が埋まっていく→土(風化した炭化材を含む)

だから、土葺きの住居が燃えると、土の層と土の層の「間」にごっそり炭化材が見つかるんですね。


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埋没時の茅葺き(草葺き)との比較。
まさにサンドイッチ構造。
発掘調査における、ひとつの重要な観察ポイントに昇格です。

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たとえば、これは北海道函館市臼尻小学校遺跡の例。(村本さん提供)

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たくさんの炭化材の下に黄色い土が残っていて、屋根土があったと想像されます。床の上(ユカチョクと呼ぶと業界人ぽいです)にも炭化材がびちっと残っているのが観察できます。

木材は炭化されることで土の中で分解されずに残るので、燃えちゃった住居は情報満載。ヨダレが出るほど物的証拠が残っています。

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こちらは北海道斜里町来運1遺跡(縄文時代中期末・後期初頭)の例。(村本さん提供)

なんじゃこりゃあ!というほど、元々の骨組みがわかりやすく残っています。もはや家のミイラ!

※こちらの遺跡は村本さんの別の論文で採り上げられていますので、興味がある方はこちらも読んでみてください。
→村本周三2009「北海道における縄文時代中・後期の『平地式住居跡』とその暦年代」『考古学研究』第56巻 第2号(オンラインアクセスなし)

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まとめ

土葺きであることがわかると何がすばらしいかと言うと、まずは縄文時代の集落がどんな姿だったのか(風景)をより想像しやすくなることがあります。これは住居を復元する際の大切なヒントになります。苔むした土葺きの家は、なかなかかわいくて、個人的にはこっちの方が好きです。

次に、土葺きだと屋根に水分が多く、家の中の湿度が高くなるので、焼けた家が出土すると、ほぼ意図的に燃やしたということが推測できることです。ウッカリさんにおすすめの住居ですね。
(実際の実験でも、家の中で薪をたくさん燃やしたそうです。)

さらに、村本さんの論文によると、火災住居について「埼玉県内の縄文時代中後期について調べたが、0棟であった。しかし、御所野遺跡では現在報告されている数十棟の調査のうち16棟が火災住居跡であり、馬淵川流域(※)全体では既報告だけで50棟を超えることは間違いない。」ということです。
※・・・御所野遺跡の近くを流れる川

これはいったいどういう事情なのか…
なぜ意図的にそんなにたくさんの家を燃やしたのか…
またひとつ推理のテーマが増えます。

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ところで、この実験のその後なのですが、
1999年に開始されて以降現在に至るまで、実はずっと観察が続けられているんだそうです。世紀またいでるし、燃やされた年に生まれた子どもはもう成人してるし…

縄文人はびっくりしないかもですが、
現代人としてはびっくりです。
実に根気のいる研究です。

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これは2013年の状態。まだ柱が残ってるのがすごい。(村本さん提供)

今後の経過と、未来に待っている再発掘調査に期待が高まります。

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最後に、村本さんからコメントをいただいたのでご紹介します。

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って、めちゃくちゃ丁寧な返信もらっちゃったー!!


しかも、こんな図まで作って送ってくださいました。

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茅葺き(草葺き)・土葺きの比較図に、チョコスポンジ葺き(一番右)が加えられて図解されています。しかも、お菓子のメーカー名まで書かれていて、より科学的な記載になっています。
※スマホで見ている方は、ぜひ拡大して見てみてください。


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倒壊後。


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埋没後。
そして「早めにお召し上がりください」の記述。(←おちゃめ)

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しかも、コメントには次回に向けた「課題と展望」まで書かれています。
これはもう、ゼミの先生です。


改善のヒントは「チョコの融点や色の違い」だということなので、
なんとか、もう一度チャレンジしてみたいと思います。

村本周三さん、ありがとうございました!


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※「自分の論文もお菓子にされてみたい」という、おかしな研究者の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡お待ちしています。
(内容によってはご連絡いただいた順番にご紹介できない場合もありますので、ご了承ください。)


第一回目、
完。

※お菓子作り写真以外で特に記載のない画像はすべて(村本ほか2006)より転載。

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ー関連企画展情報ー

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「-目指せ世界遺産!岩手県御所野遺跡- 縄文ムラの原風景」
横浜市歴史博物館 2021年4月10日(土)~6月27日(日)
https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/kikakuten/now/joumon_mura/


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