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こどもの心を持ち続けるということ


美術大学でプロダクトデザインを学んでいた私は、3年生から始まる就職活動で路頭に迷っていました。

自ら新しいものや価値を生み出す楽しさや達成感と同時に、まだまだ勉強不足だし鍛錬したいという気持ちは募っていたれけど、いかんせん世の中には面白いものがすでに溢れかえっている。

学科内の友人の夢は様々で、もともとカーデザイナーを目指して入学した人、キャリアを重視して一流企業を目指す人、自分の得意なデザインの系統に合った分野を選ぶ人など、みんなそれぞれ「その人らしい場所」に就職を決めていました。

私は良くも悪くも、自分らしいデザインや場所というのがわからなかった。

生み出す側である自分も、俗にいうエンドユーザーも、みんながワクワクするようなものやことに関わりたい…なんて考えていました。

今考えれば、もっとデザインと真剣に向き合いながら自己分析をすればよかったのだけど、「雑貨が好き」というシンプルな動機で入学した私は変なところがいつまでも頑固で、本当にそれ以上の考えが浮かばなかったのです。

ユーモア溢れる文房具だってつい買っちゃうし、服やアクセサリーで着飾る事も小さな頃から好き。車だって、見るのも乗るのも好き。なんならバイクも乗ってる。

私の中の「好き」が多すぎる。

「好き」を仕事にするとは、どういうことなんだろう。

そんな事を考えながら始まってしまった卒業制作の中間チェックで、デザイナーの大先輩でもある教授に、思い切ってこの悩みを打ち明けてみました。

すると思いがけないアドバイスをもらったのです。

「とりあえず、片っ端からやってみるといいよ。夢や好奇心は何歳になっても持ち続けてなくちゃね。」

「今の僕の将来の夢は、絵本作家になる事なんだ。」


教授は第一線で活躍されているデザイナー。

ジェダイで言えばジェダイマスター。

そんな彼の将来の夢? が、絵本作家? とは??

「でも、手と頭は動かし続けてなくちゃダメだよ。」



その後私は、インテリア雑貨のメーカーにデザイナーとして入社。

取り扱う商品ジャンルの幅は広く、事業拡大を伴った3年計画の渦中に突然飛び込んだ私は、とにかく色々なデザインや企画に携わりながら、都度必要な知識をつけて、目が回りそうな日々を送っていました。

同期が居なかった事もあり、デザイナーとしてちゃんと成長できているのかは不安だったけれど、興味が散漫しがちな私には肌に合っていたようで、何だかんだ楽しく過ごせていました。


そんな3年計画にもひと区切りがついた2018年5月、神奈川県立近代美術館 葉山で行われていた「BRUNO MUNARI-こどもの心をもちつづけるということ-」を訪れました。

デザイナーとして活動を始め、教育者としても幅広く貢献していた彼の展示はファンのみならずデザイナーの心も魅了するものだったと思います。


そこで私は展示のテーマにも引用された、とある文章と出会いました。

”子どもの心を 一生のあいだ 持ち続けるということは   知りたいという好奇心や  わかる喜び  伝えたいという気持ちを  持ち続けるということ”


この時、やっと教授がくれた言葉の意味がはっきり解った気がしました。

もっと素直な気持ちで自分にも、ひとにも向き合っていいんだと気づけた事は、今もこの先もお守りのように心に留めています。

2020年の現在、私の職業上の肩書きは「デザイナー」ではなくなりました。5年務めた会社を去り、新たな夢に向けたスタートラインに立っています。

不安はたくさんあるけれど、"子どもの心"は忘れずに、適度に肩の力は抜きつつも、素直に楽しんでみようと思える今は、これからが楽しみで仕方がないです。


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