子育てに必要な4つのこと
ドイツのケルンで開催された「国際アドラー心理学会第29回大会」の教育・子育て部門にて、『子ども時代にアドラー心理学を活用するには?』という表題で、これまでの取り組みについて発表しました。
発表のきっかけは、2003年のICASSI参加以来没頭してきたアドラー心理学、特にベティ・ルー博士より教わったCrucial Csを子育てや教育に活かす研究が20年の節目を迎え、Crucial Csの素晴らしさを実感している一人として、ベティ・ルー博士への感謝の気持ちを形にしたいと思ったからです。
どのような発表をしたのか、以下に要約をご紹介します。
《国際アドラー心理学会第29回大会(2025年7月4日、ドイツ)での発表の日本語要約》
表題:子ども時代にアドラー心理学を活用するには?
私は、子ども時代にアドラー心理学を取り入れること、つまり、アドラー心理学を予防的に活用することの効果を信じています。
2003年、私はカナダで開催されたICASSIでベティ・ルー博士に出会い、Crucial Csを学びました。教育者である私にとって、それは子どもをより深く理解する大きな転機となりました。 以来、私は、「教育とは、子どもが本来もつ創造力や自立心、自他への深い愛を引き出すことだ」と捉えるようになりました。
子どもが、自分らしさを出せる居場所を欲しがっていることや、自立したい、能力を伸ばしたい、自己価値を感じたい、必要とされたい、元気に生きていきたいと感じていることは明らかで、CrucialCsの理論は腑に落ちるものでした。
私は学びを続けながら、Crucial Csを子育てや教育に活かすための研究をすすめ、同時に、当時ブダペストで運営していた幼稚園のカリキュラムにこの理論を導入する実践を試みました。すると!心理的ニーズを得られた子どもが、いきいきと輝き出す姿を見ることができました。
学びを深めるにつれ、「心の育み」を意図した教育活動ができるようになりました。例えば、自画像を描く活動も、自他の違いを受け入れ、自他を愛し、お友達とのより深い関係を築くことのできる活動に発展させられました。それは、特に誰の絵が一番上手なのかを気にしがちな幼い頃には、大きな意義がありました。
私は、日本の典型的な学校行事の代わりに、Crucial Csを得られる恒例行事の企画に熱中しました。例えば、お誕生日にはその子が欲しいものをクラスのみんなで協力して手作りしプレゼントしました。これにより、子どもたちは友達との深い絆を育み、自分の考えが形になることで自信を持ち、自分の価値を実感し、愛されていると感じる時間を得て、4つのCが満たされました。ある園児からは、「大人になってもプレゼントを大切にしているよ!」と聞いています。
Crucial Csの恩恵は、カリキュラムを通じて子どもの心を満たすだけでなく、子どもの言動の奥にある心理的ニーズを理解し適切に対応できることで、驚くような変化を生み出しました。
例えば、3歳にして周囲の大人を振り回し、何を言っても「嫌だ、嫌だ!」と叫ぶ女の子。ご両親も手を焼いていたこの状況では、ふたつめのCであるCapableを思い出し、「このパワフルな言動は、自立したいというサインだ!」とわかりました。そこで、「大丈夫、ここはあなたを抑えつける場所じゃない。あなたの力を引き出す場所なんだよ。」というメッセージを込めてかかわったり、園生活の中でその子が自分で選択し、責任を持つ経験を重ねたりすることで、そのエネルギーを「成長」に向けられるよう導くことができました。
実際、彼女は年齢以上の能力を発揮し、イキイキと変化していきました。また、何より効果的だったのは、Crucial Csを活用してご両親に状況を理論的に説明できたことです。その結果、ご両親も自信を取り戻し、私たちは一丸となって彼女を支えることができました。
また、砂場で泣いている女の子の隣で、男の子が無表情のまま自分の頭に砂をかける――そんな奇妙な場面に出くわしたとき、第3のCであるCountが頭に浮かびました。その瞬間、泣いている女の子ではなく、むしろその男の子こそが心のケアを必要としていると気付くことができました。(後に、彼が家族から虐待を受けていたことがわかりました。)
もしCrucial Csを知らなければ、「なんでそんなことするの?」と問いただしていたかもしれません。しかし、子どもが求めている心理的ニーズを理解できたことで、適切なケアを提供することができました。
こうした経験を重ねるなかで、4つの心理的ニーズを満たす教育活動が、子どもたちの輝きを驚くほど引き出すことを、7年間の実践を通じて確信しました。
忙しい親や教育者を効果的に巻き込むための革新的アプローチについて
子どもの教育におけるアドラー心理学の効果は明白ですが、課題もありました。親や教育者から「心理学は難しそう」「学ぶ時間がない」と敬遠され、アプローチが難しいのです。そこで、私は次の3つの工夫を取り入れました。
心理学用語を使わず、やさしいことばで説明する
心の仕組みを可視化する
エンカレッジメントや共同体感覚を、言葉ではなく実際の体験として伝える
それには、結構な研究が必要でした。私は英語で学んだアドラー心理学をできるだけやさしい日本語に訳し、メタファーとしてイラストを描きました。受講者の多くは、イラストを見るだけで背後にある理論を思い出すことができました。
また、CrucialCsの概念を伝えるためには4色のカップを使って心を可視化し、これまでの教育実践での知見を織り交ぜ、親や先生が子育てシーンで心を育むためのメソッド「4Cups心育てメソッド」にまとめました。
「お子さんが気分が沈んだり問題行動といえる現象を起こしたりする時は、ただカップが満たされる必要があるのです。大丈夫です!」という言葉を聞いて、子どもの困った言動を自分のせいだと責めていた親や先生たちは、安心感を覚えました。
これまでに、国籍20カ国約4000名以上の方が講演や研修を受け、「4Cupsはシンプルでわかりやすい」「子どもをもっと好きになれた」「自信が持てた」といった声が聞かれます。テルアビブで開催したセミナーでは、17カ国からの参加者が各国の育児経験を共有しましたが、「これまでは、イライラする子どもの言動の意味がわからなかった。でも、4つのCのおかげで、ついに光が差しました。」とのフィードバックもありました。
4Cupsを知ると、子どもの心を満たせるだけでなく、大人自身が自分の心を満していき、多くの方が、自分の親との関係性を再構築し始めます。それは、4Cupsを知ることで、論理的に自分の子ども時代を振り返り、理解することができるからです。
「共同体感覚」をどう親や教育者に紹介したのか
最後になりましたがとても大切なトピック:Gemeinschaftsgefühlを、親や教育者にどのように紹介しているのかについてお伝えします。
私は、この言葉の意味を説明するのは難しいと思いました。また、もっとこの言葉の意味を深く知りたいと思いました。そこで、私は、アドラーの故郷であるウィーンに飛び、ドイツ語が母国語である街の人にこの言葉を翻訳してもらうことにしました。
その結果は、おどろくほど魅力的なものでした。この言葉をみると、誰もがまるで哲学者のように深く考え始め、なんと17通りもの個性豊かなな翻訳が集まりました。
そこで、私は、音楽付きのスライドショーを作成し、すべての講演や研修で「Gemeinschaftsgefühl」という言葉を体験してもらうために上映しました。
このスライドショーの言葉に、心が温かくなるという声が寄せられています。また、Gemeinschaftsgefühlがこれほど多くの表現に翻訳できると知ることで、その言葉の深みを伝えることができました。
子育てとは、ただ生活をスムーズに進めるためのものではありません。大切なのは、自分を愛し、他者を愛し、人とつながり、お互いを尊重しながら成長し、自立し、必要とされ、責任を持ち、助け合いながら、正解のない人生を希望に満ちたものにしていくことだと考えています。
だからこそ、子どもたちの生活に4つの重要な要素を取り入れながら、子ども、親、教育者とともに「自分で自分をエンカレッジできる人になること」を目指し、これからも歩み続けていきたいと思います。
ー国際アドラー心理学会での発表の要約はここまでー
*実際の発表スライドに沿って日本語を吹き込んだこちら動画にて、発表の全容もご覧いただけます。
おわりに
The Crucial Cs を日本語に翻訳したり、カップを使うアイデアを適用したりする際、「果たして、元の理論を正しく表現しているのだろうか?」という不安から研究の手が止まらず、自信を持つまでに20年かかりました。
しかし、これからの20年は、ベティ・ルー博士や他のすばらしい先生方の姿から学んだことを日本の次世代に引き継ぐために、自分にできることを精一杯取り組んでいこうと思います。
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