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大人のバレエ

 私は定年よりちょっと前に退職した。理由のうちの1つは、「もう体力が続かない」と思ったことだ。それで退職後、体力増進を図ることにした。

 まず最初に始めたのが、ヨガだった。自分はからだがやわらかいことには少々自信があった。それで、レッスン中にできない動作があると、悔しいので家で練習していた。その結果、練習しすぎて「重度の肉離れ(いきつけの医者談)」になった。2ヶ月ほど運動禁止と言われた。

 次に、バレエをこころざすことにした。実はわたしは小さい時からずっと運動が嫌いだ。どんくらい嫌いかというと、体育の時間がある日は朝から胃が痛くなるほどであった。ヨガならば、敏捷性などは関係なさそうだからよかったのだが、バレエは敷居が高そうだった。

 しかし、姿勢の悪い私は猫背をなんとかしたいと思っていた。バレエをやっている人たちは、みんな姿勢がよく見える。きっと私も、体力がつくと同時にあのバレリーナの人たちみたいな姿勢になれるに違いないと思い、バレエ教室の門を叩いた。

 ところがお試しのレッスンから失敗だった。よく意味がわからんレッスン名だったため、間違えて上級者用のレッスンを受けてしまった。もう少し高ければ首まで届きそうなバーを指差し、先生はそこに脚を乗せるようにとおっしゃった。仕方なく私は右脚を両手で持ち上げ、やっとのことでバーの上に足首をのっけた。「もう片方の足を屈伸してください!」先生の声が響く。私の両脚は、もう極限状態まで開いている。その上で「屈伸」とは、どういうことですか、せんせい!?と聞きたかった。

 やっと脚をおろす許可が出て、今度は手でバーを持つように言われた。そうですよ。この高さはどう見ても手で持つもんでしょ、と少しほっとする。そこで「プリエ」と呼ばれる屈伸運動をさせられたのだが、いきなり先生に「首がないよ!」と注意を受ける。もっと肩を下げて首を目立たせる姿勢を取らなければならない、という意味なのであるが、バレエ初心者の私は心の中で、「せんせい、わたしは、最初から首がありません!!」と叫んでいた(私の首はとても短い)。(つづく)

 

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