お店の名前を考える (第8話)
【前回の記事】
https://note.com/yumiko_n/n/n0373b7d7438a
前回、前々回の記事では実際どんなお店だったのかを書いたが、これからはまたお店を作る前の段階に話を戻し書いていく。
【店名を考える】
作りたいお店を想像してそれに似合う言葉を見つける作業は、振り返れば1番楽しい仕事だったかもしれない。我が子の名前を考えるようなもの、この作業によって理想像を描くことでビジョンがより明確にもなった。
店名を考える方法は色んな方向から考えられるし、ネットで検索すれば参考になるものが沢山出てくる。本屋さんにも。
・どんなお店にしたいか
まずはどんなお店にしたいかを書き出していった。
そもそも飲食店には特別な時に行くお店と日常使いのお店のタイプがあると思うが、私が作りたいのは日常使いのお店。ごくごく普通の毎日をほんの少し豊かにするような店にしたかった。
お店の内装はアットホームな雰囲気にしたくて、以前も書いたが壁などにはメニューは貼らず、まるで私の家に気軽にご飯を食べに来るような感じが理想的だなと思った。言葉にするなら「寝室と浴室がない私の家」だ。
【最初の候補はLDK】
ご存知の通り住宅関連用語で、リビング・ダイニング・キッチンの略。部屋の間取りを表す時に使う言葉だが、最初に思いついたのはこの言葉だった。生活に密着したイメージが強くあるし、浴室と寝室がない私の家ってニュアンスも含まれている。耳障りも良い。
店名はこれにしよう!と決めた。でも、リビング・ダイニング・キッチンの略じゃなんか垢抜けないし、LDKの頭文字で造語を作ろうと考えた。
・今日がちょっと良い日で、明日もまたちょっと良い日…
人間の感情というものは絶対的なものではなくて、良い方向にも悪い方向にも些細な事で動いていくと思う。ガリガリくんの当たりマークが出たら凄い良い日な気がするし、赤信号が3回続いたらなんかついてない1日だなって思ってしまう。
半年前くらいのこと、人生で初めてチョコボールを買ったら銀のエンジェルが出てきた。懐かしいなと思ってたまたま手に取ったチョコボールにエンジェルがいて、その日はそれだけで凄い特別な日になった。
(ハレの日は置いておいて)日常の日、つまりケの日を良い日にしてくれるきっかけはとても些細なことだ。そしてそのきっかけになれる様なお店にしたいなと考えた。
今日がほんの少し良い日で、明日きっと良い日になりそうだなと思える。そんな1日がいつのまにか日々となって、人生の一部となっていくっていうイメージ。これが実現できれば、私のやりたい事になるんじゃないか。
・LDKを使って造語を作る
英語の得意な姉にすぐに連絡をした。カクカクシカジカ、こんな事を考えたいてLDKを頭文字に造語が作りたいと。イメージも伝えた。
私の中で最初のLとDは決まっていてloveとdaysにしょうと思っていた。あとはK、繋がるや続けるってニュアンスでKで始まる言葉が無いか?と姉に聞いて教えてくれたのがknitだった。ニット、編み込むという意味だ。
L…lovable (愛らしい、愛で溢れる)
D…days (日々を)
K…knit (編み込むでいく)
なんてぴったりなんだ!と、ずっとモヤモヤ考えていた事がストンと府に落ちた。それに具体的な事は一つも考えておらず概念でもって思案していたのだが、進むべき方向性がハッキリした事で実務的な面でも判断が円滑になったと感じる。概念はまさに羅針盤だ!
・日本食のお店っぽくない…友人の言葉
この事を相談した友人知人の数人に…
良いと思うけど、日本食屋っぽくないね〜
というご意見を頂いた。確かにそうだ。また…
飲食店ぽくもないね。
…まさに。LDKだけみたら家具屋か不動産屋だ。
【ブラッシュアップ】
95%くらいLDKに決めていたが、日本語の方が良いかもな〜とも冷静になると感じるようになっていた。
・占いを見ていた時に…
私は昔から占いが大好きで中学校の頃からタロットや星占い、大人になってからは東洋系の占いも見たり調べたりしていた。見える系の人の話も好きで良く聞いていた。(決してどハマりして、占いで全て決めるタイプではありません。)
占いにはそれぞれ考え方がある。それは一種の哲学で、できた時代背景も含めて見ていくととても学びが多い。なぜそのアドバイスに人々は救われたのか?これを考えて日常の生活に応用するとスムーズに運ぶ事がよくある。
また占いの文章に使われる言葉や言い回し、これも凄く勉強になる。多くの人が共感できるという事は言葉の経済効率が良いという事。コミュニケーションの場で発信が苦手な方は石井ゆかりさんの言葉を読んでみると良いと思う。
・陰陽占い
こんな占い好きな私だが、当時よく見ていた占いアプリがあった。陰陽占いのアプリで生年月日を入力すると四柱推命のかなり詳しいデータを見る事ができた。今はもうアップデートされておらず、新しいスマホからは見る事ができなくなっているのだが…
そのアプリを読んでいてこんな一文が目に止まった。
…のような円満な心の持ち主である。
・心願成就円満とす
…円満かぁ…
その文字を見て改めて円満の意味を調べた。円満が良い意味なのは分かっていたが、ちゃんと見てみると奥深い言葉だった。あと家庭円満とか円満退社などの四字熟語以外にも、意識してみると使い方が沢山あるんだなと気付いた。
特に印象に残ったのが「心願成就円満とす」だった。円満ってめでたしめでたしみたいな使い方もするんだ!めちゃめちゃいい!と感動に近い驚きであった。
要は私がやりたい事って円満って言葉で完璧に言い表せているなと確信した。
【まとめ】
そんな経緯で店名は「円満」にする事にした。そう思ってからは誰にも相談はしなかった。何屋か分かりにくいと言われるのは分かっていたからだ。でも私はオーナーとしてこれが良いと判断をした。
肩書に小料理屋や酒処とつける事も可能だがそれもしないと判断した。
もし違う名前をつけていたらどうなっていたのだろうか?その未来は分からないから比較は出来ないが、この名前にして良かったと思う事は沢山あった。
・ことだま
お客様たちはきっと「ランチどこにする?円満に行こうか〜」などと会話をしてくれていたのではないかな?と想像する。
お店では「ここは円満ですしね〜笑」って冗談を言う方もいた。大事なプレゼンの前に景気づけに来てくださる方もいた。
このお店の名前を円満にする事で、常連さんたちは人生の中で円満って言葉を沢山使ってくれたんだろうと思う。良い言葉を口にする事はとても良い事だ。
・円満の女将
私は円満の女将って呼ばれていた。凄い縁起が良さそうだ笑 そう呼ばれる事は私を強くしてくれたと思う。女将として、この言葉を裏切ってはいけないなと思っていた。
・最後に
良い言葉を冠に添えて良かったと、お店を開けて1年くらい経った時に実感した。そして私自身、円満という言葉を沢山使っているうちにこの言葉の意味がよく分かってきた。
円満は良い言葉の上にもネガティブな言葉の上にも付くことができる。例えば円満な家庭とも円満離婚とも…
この言葉には良い事はもっと良い事に、悪い事でもそれを良い事にしてくれるパワーがあった。これで良かったんだって思わせてくれる力だ。私はこの言葉に励まされて叱られて、幸せにお店を運営する事ができた。円満にと言った方が良いか。
私にとってお店の名前を決める事は自分と約束をする事だったんだなと今では思っている。
今日もここまで読んでくださってありがとうございました。