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くまモンに学ぶ仕事の流儀(12)キャラクターを超える

第4章 震災のあと
その1   キャラクターとしての存在を超えた日

2017年4月に熊本県は大きな地震に襲われました。くまモンはその日からしばらく活動を停止し、毎日更新していたtwitterも途絶えました。

ただ(5)で書いたようにくまモンは以前にも震災で活動停止した過去があります。
きっとまたその時のように、復活を遂げてくれるだろうと信じていた人は多かったと思います。
そして5月5日の子供の日、避難所になっている幼稚園を訪問するところから活動を再開したわけですが…

その時の様子はプロフェッショナルでも紹介されていましたが、くまモンと戯れながら笑顔を見せる幼稚園児や、握手をしながら涙を流す避難者のお年寄り(中には拝んでいる人まで!)の姿にTVの前で思わず泣いてしまった人も多かったようです。
私ももちろん、自分でも引くほど号泣しました。
ただ、泣きながら頭の片隅に浮かんだのは「くまモンってなんなんだ!?」ということ。
それまでも地方のいちPRキャラクターの概念は超えていたとはいえ、この日は、完全に違う次元へと駆け上がったように感じたのです。

この活動再開のシーンは、地元TV局の情報番組内で生中継されました。
くまモンが毎週生中継に登場していた番組だったこともありスタジオの地元タレントとアナウンサーも固唾を飲んでその時を待ちます。
そして、幼稚園にくまモンが登場すると、アナウンサーが「あぁっくまモンです!くまモンが元気な姿を見せてくれました!」と涙ながらにレポート。
それはまるで、ハリウッドスターが成田空港に降り立ったとか、行方不明だった人が何日かぶりに保護されたとか、そんな歴史的シーンを報道するようなテンションでした。

さらに全国ネットのニュースでも「報道」として上位で取り扱われたのですが、現地レポーターが「子供達に囲まれて姿を確認することができませんっ!」と、政府要人の来日を中継するような様相でした。
それまで、全国ニュースのなかでくまモンを扱うことはあっても「ゆるキャラ」ブームの代表的なキャラクターといった文脈だったのが、この時は確実に、くまモンというひとりの命をもった唯一無二の存在として扱っていました。
そして、おそらく報道する側としては、くまモンが、熊本においては生活に無くてはならないもので、それが復活するのだから、水道復旧や鉄道再開と同じように復興を表現する重要なニュースだ、と考えたのでしょう。

ものすごく味も素っ気もないことを言えば、くまモンが活動停止したといっても、twitterも着ぐるみも”中の人”が仕事をお休みしていたということでしかありません。
きっと着ぐるみは県庁のどこかに保管されていたことでしょう。

ですが、震災を経ていつの間にかくまモンは、キャラクターの枠を超えてひとりの命をもった存在になっていたしそれどころか、PRという役割も超えて日常に寄り添う、不安な時こそ人々を支える役割を担うようになっていたのです。

▶︎本日のポイント
今回のようなくまモンの存在と役割の変化は、
期しくも震災によってもたらされた、もしくは明確になったわけですが、その背景には、くまモンに関わる活動が、たとえ県外に向けたPR活動であっても、最終的に「県民の幸せに寄与する」ということを常に意識したものだったからと言えます。

企業の活動においても、近年のマーケティング論においては、自社の利益だけを考えた商品やサービスは選択されず、企業活動が社会的利益をもたらすものでなければならない、という考えが広がりつつあります。

それは、日常的にはなかなか意識されることではないかもしれませんが、非常時にこそその真価が問われることがあるのかもしれません。

災害や事故でそれまでのような企業活動ができなくなったとき、復活を望み後押ししてくれる人達がいるかどうか。
不運にも事故を起こしてしまった時、組織のほころびが表沙汰になってしまった時、それでも世の中がその企業を必要とし応援してくれるか。

果たして、あなたのビジネスは、あなたの仕事はどうでしょうか?

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