「魂を込めてやります!」と言った成金社長から奇しくも学んだ言葉の魔力
「運営は魂を込めてやります!」
とある会社の社長さんがある場面で言った言葉です。
簡単に説明すると、私は以前、ホテルの現場スタッフとして働いていまして、接客やら清掃をしていました。ところがある日、働いていたそのホテルが、とある会社に買収されました。ホテルというのは、所有(オーナー)と運営(オペレーター)の会社が違うケースがよくありまして、アパートでいうと大家さんと管理会社みたいなイメージです。オーナーが直接運営することもあるんですが、運営専門の会社に委託することもあります。私は運営専門の会社にいたので、元のオーナーから委託されていた立場だったんですが、買収した新しいオーナーは直接自分達で運営したいとのことで、必然的に私達はそのホテルから撤退することになった、という次第です。個人的には仕事を追われるわけではなく、異動というだけなのですが、それなりに人生を左右される出来事だったので強烈な思い出になっています。
この時、新しいオーナー会社の社長さんがホテル従業員全員の前で所信表明のようなことをしたのですが、その時言った言葉が「運営は魂をこめてやります!」という言葉です。
この発言、これだけを聞くと、大きな決断をした男の意気のこもった力強い発言、とも聞こえるし、なーんも中身がないけどとりあえず頑張ります、くらいの発言にも聞こえます。
この社長さんの場合、おそらく、というか間違いなく後者でした。
なぜならこの所信表明の場で他に話したのは、資金力に物を言わせてホテルを改装しまくる、温泉はなんとなくあと3つほしい、宴会場もあと3つつくりたい、などなど、「えっ今ってバブル期?」と耳を疑うようなことばかりで、その上で「運営」の話題になったら「魂を込めてやります」のひと言だったので、「あーなにもないんだなー(失笑)」ということがその場の全員によくわかりました。
ちなみに、ホテルにおける「運営」とは、集客とかサービスとか食事などいわゆるソフトの部分全般。軽視されがちではあるのですが、力のある運営会社だと、ホテルの名前も決定するし、建物そのものにも注文を出します。私の務めていた会社は運営を専門とする会社だったので、その戦略となれば、いろいろと独自の戦略があったので、この社長さんが運営についてどのような戦略で臨むのかは少なからず興味があったのですけどね…。
ただ、この発言を実際に聞いた時は「やれやれ」としか思えなかったのですが、最近になってじわじわと込み上げてくるものがありました。
というのも最近、ホテルを開業しようとしている企業や個人の方にお会いする機会が続いたのですが、正直なところ、なかには運営のことをお金でしか考えていない人、大切な1日をホテルで過ごそうとするお客様に寄り添えていない態度の人に出会うことがあります。そんな時、思わず「魂込めろ!」と言いたくなってしまう自分がいたのです。
そもそも「魂を込める」という言葉自体は、意味のない空虚な言葉ではないわけです。独自の戦略を練り上げることとか、細部まで神経を張って徹底的なサービスをすることといった「真面目に一生懸命運営をする」という態度を強いて一言であらわそうとすると「魂を込める」ってことになってしまうんですよね。
仕事に対する誠実さや熱心さ、というものは、高みになればなるほど「魂」とか「情熱」のようなあやふやな言葉で表現しなければいけなくなり、中身が全くない場合とかえって見分けがつかなくなる。これって怪しい宗教や詐欺師がキレイだけど抽象的な言葉を並べ立てる理由そのものですよね。あの社長の発言にも実は中身があった...とは思いませんが、一歩間違えたら私も同じような印象になりかねないわけです。ただでさえ普段から抽象的な表現を言いがちなところがあって、気づいたら結論が出てなかった、ということが多かったのですが、その構造がよくわかりました。大切なのは中身があるか、具体性があるかなので、少し心がけられる気がします。
非常に不本意ながら、あの成金社長から学ばせてもらいました。