せっかくだからラグビーから組織を学ぼう #3
2019年。まだコロナの足音も一切聞こえぬ頃。
日本はラグビーW杯に熱狂しました。
その時をきっかけにラグビーにハマった友人、興味をもっと友人が増えて、長年孤独に応援していた私としてはとても嬉しい出来事でした。
そのまさにラグビーW杯2019が開かれていた頃に、とあるサイトにラグビーから組織づくりを学ぶという切り口で記事を書いたことを思い出しました。事情により元のサイトでは読めなくなってしまったので、時間軸がおかしいところを修正し、掲載してみます。
2019W杯は、熱狂のうちに終わりました。
日本代表は悲願のベスト8を達成。
南アフリカとイングランドの決勝戦も感動的でしたね。
#3では、組織にとっても非常に大切なキーワード”対話”についてご紹介します。
ラグビーにつきまとう”言葉”の力
今回の日本代表の躍進で、ニワカに話題となったのが『ONE TEAM』というワード。
日本代表のジェイミー・ジョセフHCがかかげたチームのスローガンです。
インタビューやドキュメンタリーでなにかと紹介されたことで知られるようにました。
他にも、試合前のミーティングや試合中に交わされた言葉が話題となりました。
参考:流行語大賞候補にラグビー関連5つ…「ONE TEAM」「ジャッカル」など
ラグビーの世界には、昔から”言葉”で選手をまとめる文化があります。
有名なところでは『One For All, All For One』でしょうか。
古いところでは明治大学ラグビー部の『前へ』。
前回W杯の日本代表でエディ・ジョーンズHCが掲げた『JAPAN WAY』なんてのも。
前回大会で南アフリカ戦に勝った際には、最後の逆転トライを狙う直前にある選手が「歴史変えるの誰!?」と叫んだことで、結束を高めたと言われています。
他にも、戦術やらスキルにもいちいち大げさな名前がついていたりして、ラグビーの世界にはたくさんの言葉が溢れています。
どうしても危険なスポーツゆえ、選手が試合に臨む覚悟を決めるための強いフレーズが必要になることに加え、多様性を乗り越え主体性をもったチームを育てるために、自ずとスローガンやキーワードを設定するようになったのかもしれません。
そして、ラグビーチームのドキュメンタリー映像を見ていると、頻繁にミーティングの場をもっていることがわかります。
試合中でも、プレーが途切れると必ず一箇所に集まって言葉を交わします。
今回のW杯でも、スコットランド戦に勝った直後のグラウンド内で、すでに選手同士が次の試合に向けて真剣な表情で話し合っているシーンも印象的でした。
つまり、彼らは身体を使ってプレーする以外に、言葉を使って互いの意見を交換し合うことが習慣化しているのです。
こうしたシーンを見るにつけ、今大会の快進撃の裏にはたしかに”言葉の力”があったと感じます。
”言葉”はひとり歩きする
ラグビー発の言葉が話題になったことに、いちラグビーファンとしては喜びを感じる一方で、やや不安を感じるのが、言葉だけがひとり歩きしてしまうことです。
ただでさえ、ラグビー経験者はビジネスシーンでもなにかと「スクラム組んで」とか「ノーサイドの精神で」なんて言いがちで、正直ウザ…いや、少々シラケると言われてしまうのに、ましてラグビーをよく知らない人が、今回の日本代表がよく言っている『ハードワーク』だの『すべてを犠牲にして』なんてフレーズを多用したら、シラケるどころかパワハラにもなりかねません。
彼らのインタビューを聞いていると、インパクトの強い言葉が次々と飛び出してくるので、ついつい使いたくなってしまう気持ちはわかりますが、言葉というのはシチュエーションやコミュニティによって微妙に意味が異なります。
例えば『ONE TEAM』は、たんに「チーム一丸となってがんばろう」というだけでなく、様々な国籍や文化をもった選手達が日本のために戦うという大義をもって相乗効果を発揮することで、より強いチームになろうとする意図が込められています。
おそらく最初は選手たちも「ふーん」という程度だったかもしれませんが、#1でも紹介したように、日本の文化を勉強したりお互いに交流を深めていくことで、その意味を理解していったはずです。
『ハードワーク』とは、やみくもに「キツイ練習」ではなく、専門のコーチが最新の研究やデータに基づいて組み立てた、科学的で計画的なトレーニングです。
それでも時には選手側がメニューに納得がいかず、コーチとやり合ったこともあったようですが、おそらくそんな時も、コーチ陣は明確な根拠を示したでしょうし、互いに話し合いを重ねたからこそ、厳しいトレーニングを糧にすることができたのだと思います。
つまり、言葉の力を味方につけるには、その言葉が意図するところを互いに共有することが必要なのです。
ビジネスにも通じる”対話”の力
話し合いを通して互いに言葉の意味を確認し合う作業を”対話”と言います。
対話とは相手と自分の意見や価値観を率直に伝え合うことで、その違いから新たな知見を得ること。そのために必要なのは
・相手の意見を受け入れる気持ちで聴くこと
・自分の意見を話すということ
の両方の作業です。
ビジネスの現場では、スポーツのようなコンマ何秒でのやりとりではないにしても、スポーツ以上に複雑な関係性をクリアしなければならなかったり、結果をはかりにくいこともあります。
より丁寧な対話が求められることもあるのではないでしょうか。
逆に言えば、地道な対話の積み重ねの先に、”言葉の力”を味方につけることができたら、あの日本代表のような目覚ましい躍進もあり得るということです。
かのミスターラグビー平尾誠二さんは、20年以上前から、「ラグビーのもつ価値はこれからの時代に必ず必要とされる」と予言していたとされます。
それは、国に越えて選手達がチームを形成する点だったり、試合になったら選手達が自ら判断しなければいけない点だったり。
そして、言葉というツールをつかって意見を交わし複雑な戦況をクリアしていく点であったりしたのかもしれません。
平尾さんは残念ながら亡くなってしまいましたが、今大会にその想いがまさに花開いたのだな、とも感じます。
今大会の日本代表の活躍に興奮した方は多かったと思いますが、ぜひこの機会に、彼らの活躍の裏側にどんな積み重ねがあったのかを知っていただき、ビジネスの世界に応用していただけたら平尾さんも浮かばれるなぁ…と、いちラグビーファンからの願いです。
3回に渡り、ラグビーの話題にお付き合いいただきありがとうございました。
また時々蒸し返すかもしれませんが、引き続きよろしくお願いいたしま