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観光業と運輸業の狭間であおりを食らったのはどうやらこの人達だった件

私は普段地方に住んでいるので移動は圧倒的に車なのですが、2ヶ月ほど前、買い替えの都合でしばらく車が使えない時期があったので、路線バスを頻繁に利用しました。

観光地ということもあり路線バス自体はそれなりに本数があって、おかげで助かったのですが、ただ、毎日のように利用していると気になったことがでてきました。

それは、路線バスに乗ってくる大量の外国人旅行者に対し、運転手さんが全く対応できていない現実です。

私はよく東京に行くのに高速バスも利用しているのですが、こちらも当然、外国人旅行者が大量に利用しています。それどころか、乗客のなかに日本人は私だけということもよくあります。

このあたりに引っ越してきた3年ほど前は、高速バスの運転手さんも苦労している様子が伺えました。それでも毎日観光客を相手にしているうちに意識が高まっていくのか、3年も経つと、簡単な英語なら喋れるようになっていたり、なかには韓国語を覚えたと思われる方いました。

また、そもそも高速バスは、乗車時に支払いは済ませていますし、席も指定です。出発駅に語学堪能なスタッフを配置しておいて、正しい便に乗せることさえできれば、あとは無事に到着するだけ。運転中に話しかけられることもほぼありません。

ところが、路線バスというのは、通常は勝手知った地元の方が利用するもので、初回で乗ること自体がレアです。ただでさえ路線が入り組んでいるうえに、料金が前払いだったり後払いだったり、乗降口が前だったりうしろだったり、整理券をとるものもあれば、料金をいれるとお釣りがでるものもあったり…とルールも様々で、私たち日本人でも、はじめての土地で路線バスに乗って、運転手さんにイライラされたことのある人は多いのではないでしょうか。

にも関わらず、外国人観光客は日本人観光客ほど車を利用しないので、はるかに公共交通機関を利用します。特にこのエリアは東京から近く、日本人観光客の8割は車でやってくるため、もともとあまり路線バスの利用はありませんでした。つまり、この地域の路線バスにとっては、地元に住む日本人しか乗っていなかった状況から、いきなり外国人観光客が爆増してしまった、というちょっと厄介な状況なのです。

そうなると何が起きるかというと…
外国人観光客側は
・乗る時点でこのバスは目的の場所へ止まるか確認したい
・乗降口が前か後ろかわからず間違える
・料金を払うタイミング、価格がわからない
・もっているフリーパスが使えるのかわからない
・時間通り来ない場合に不安にかられる
ということが折り重なっていきます。

運転手さんから見れば、いつもの常連さんだけを運んでいた状態から、突然外国人が大量に乗ってくる状況に困惑し、英語どころか接客もままなりません。その結果、かなりぞんざいな態度をとっている運転手さんがたくさんいるのです。

実際に私が目撃したケースですと

うちの近所の路線は、うしろから乗車し、前から降車なのですが、乗客はこのバスが目的のところで止まるか運転手に確認したいので、前から乗り込んで運転手さんに地図を指差して聞きます。運転手さんは「Yes」と言ったので、ならばそのまま乗り込もうとすると「No!No!」といって降ろされる、といった具合。運転手さんは、目的のところには止まるよという意味でYesと言ったものの、「乗るのはうしろから=前から乗らないで」というつもりでNoと言ったのでしょうが、Yesと言われたのに乗ろうとしたらNoと言われてしまった外国人は混乱していました。

また、うしろから乗り込んだ乗客がSUICAをタッチして座席に向かったものの、乗客同士喋っていていてなかなか席に座らない。運転手さんは座ってくださいと言いたいのでしょうが「Down!Down!」と繰り返すので、乗客は、SUICAのタッチがうまくいかなかったのかと、またSUICAをもって乗降口へ向かう。運転手さんはますます「Down!Down!」と叫ぶ、なんてことがありました。

他にも、降りる駅を間違えたと思われる乗客に「Go Back!」なんて言い放ってしまったり、さすがに私も見かねて、たいして英語はできないのですが通訳に入ることがあったくらいです。

運転手さん達もけしても根っから愛想が悪いわけではないようで、私のような日本人にはしっかりと対応してくださいますし、通訳に入ったときも「ありがとうございます」とお礼を言ってくださいました。おそらく、もともと接客は苦手な上に、ひたすらに英語ができず、日々のトラブルにただただイライラしてしまっている、という事情なのだろうと思います。

ぞんざいな英語やあからさまにイライラした態度は決して褒められたものではないですし、考えてみると、これは運転手個人というよりも、これらの状況に対してまったく打ち手を感じられない会社の責任なのではいかという気がしてきます。外国人観光客も昨日今日増えたわけではなく、確実に数年前からじわじわ増えていたはずですし、彼らが路線バスを使うようになることは十分に予測可能です。現に高速バスのほうでは多くの運転手さんに改善が見られたにも関わらず、同じ会社が運営する路線バスのほうで、まったく工夫らしきものが感じられないのは、もはや組織の問題なのではないでしょうか。

私はホテルに勤めていた期間が長いのですが、外国人の利用の多いホテル業でも、全員が語学堪能とは限らないので、込み入った話をするときには堪能なスタッフに代わってもらうことはありました。でも、よく使う単語はマニュアルやカンペを用意するなど、不便のないようにいろいろと工夫をしていました。ただ、それはお客様のためでももちろんありますが、いきなり外国人客に話しかけられたり、電話を受けたり、という状況に放り出されてしまったスタッフの身やモチベーションを守るためでもあるのです。

人は誰しも恥ずかしい思いはしたくないし、目の前で言葉の通じない外国人がイライラしたり詰め寄ってきたりしたら怖いものです(特に概して外国人の態度は日本人よりも高圧的に見えるもの)。そんなことを何度も経験したら、「仕事行きたくない」「外国人と接したくない」となっていきます。もともと語学習得に興味があったわけではない人からしたら尚更です。

おそらくバスの運行会社にとっては、自分たちは「運輸業」という意識であろうと思います。ところが、商品やサービスが飽和状態の日本においては、ほぼすべての業種が「サービス業」であり、観光客が大量に利用する時点で「観光業」です。その狭間であおりを食らってしまったのが運転手さん達ならば、会社はそれを守らねばなりません。

失礼な言い方ですが、「Excuse me.」もままならない運転手さん達を抱えているのですから、最低限のフレーズくらいは研修するなり、表示するなり、場合によっては乗降ルールも修正しなければいけないかもしれません。おそらく今は過渡期で、なんらかの対応を検討しているものと信じてはいますが、そこの創意工夫を感じられるかどうかで、この会社の基本的な成長意欲や現場の声を吸い上げる姿勢を伺い知ることができるような気がしました。

私は無事に新しい車を受け取ることができ、路線バスに乗る機会はまた無くなってしまったのですが、定点観測のためにまた時々乗ってみようかな、と思っています。 

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