ゆるキャラの教科書(1)基本編
以前ほどのブームではなくなったとはいえ、2018年末のゆるキャラグランプリでは、ご当地部門だけでもエントリー数507体。平均すると、各都道府県10体以上がエントリーしていたことになります。くまモンがプロフェッショナルで特集されたり、「にゃんごすたー」や「ちぃたん☆」などが話題になるなど、まだまだゆるキャラに期待を寄せる人達は存在しているんじゃないかな、と感じます。
ただ、これまでにすでに数多くのゆるキャラがこの世に生み出され、時に税金の無駄使いと罵倒されたり、子供達に蹴られたりしながら、過酷な使命を担ってきました。誰しも簡単に人形やぬいぐるみを捨てられないように、命らしきものをまとったものを、飽きたからといって簡単に終わりにすることはできません。今生きているコ達を大切にしてほしいのはヤマヤマですが、どうにもかわいくないとか、どうにも使いにくいなら仕方ない。ならばせめて、これからつくるコは、責任をもって、存分にその役割を果たせるコを生み出してほしいものです。
くまモンを愛し、必然的に他のゆるキャラを愛してしまった私が、これまでたくさんのゆるキャラを、温かくも厳しい目で見てきた結果たどり着いた、ゆるキャラの教科書を紹介します。
まずは、ゆるキャラをつくるならぜひ守ってもらい基本の3つです。
その1.色数を抑える
ゆるキャラは、たいてい何かしら地域を代表する動物や食べ物などをモチーフにしています。ベースは鳥で(地元のB級グルメが焼き鳥だから)、手に名産品の橋を持っていて(瀬戸大橋が有名だから)...なんてパターンが多いのですが、どうしてもPRしたいあれこれを盛り込みがちです。そうすると必然的に形が複雑になり、色もごちゃごちゃとしてきます。しかし、できれば色数は2色!せめて3色にしましょう。形もできるだけシンプルに。少なくとも十数色が複雑に絡み合うデザインは避けてください。なぜなら、今後グッズ展開を見込む場合、色数が多く形状が複雑なほど制作費用がかかるからです。具体的に言うと、色ごとに印刷用の版をつくらなければならなかったり、インクを揃えたりします。また形状が複雑だと細かいアイテムに刺繍をするのに手間がかかったり、再現に時間がかかります。そもそも再現できないケースもでてきます。あの「●ンリオさん」などのような大手企業が行うキャラクタービジネスとは違い、地方自治体が主導するゆるキャラは、地元の零細企業に対してグッズ制作というビジネスチャンスを与えることも大事なミッションです。ならば、彼らの参入のハードルをできるだけ低くすることは重要な要素になります。例えばくまモンは、黒と白と赤だけで構成されています。仮に黒字のTシャツにプリントするには白と赤の2色だけ印刷すればいいのです。形もシンプルなので再現しやすい。黒と白の2色だけでできているキャラクターならモノクロ印刷もできます。色形を絞るということは、必然的にモチーフも絞ることになります。ぜひあれもこれもと欲張らずに、勝負どころを決めてゆるキャラ制作に挑んでください。
その2. メインの色をなににするか
その1とも絡みますが、色数を絞るのと同時に、メインの色をなににするかは重要です。一般的にゆるキャラというと、多くの人に受け入れられやすい温かみのある優しい色を...と考えがちです。また、動物や植物がモチーフになることが多いこともあり、調べてみると、ゆるキャラの色は黄色や白系が多く使われているようです。着ぐるみ制作を数多く手がけているkigurumi.bizという会社のホームページでは、過去に手がけた着ぐるみを色別に検索することができるのですが、最も多いのは白系で152体、次が黄色系で146体でした。ただし、白は「強いていえばメインは白」という感じで、全体が真っ白というケースは少なく、一方で黄色は全身が真っ黄色ということが多いので、ゆるキャラ界で最も使われているのは黄色、と言えるかもしれません。しかし、ここでぜひ考えていただきたいのは、ゆるキャラの主な活動シーンです。ゆるキャラが主に登場するのは、地域の駅前広場やデパートなどの店頭、さらにはゆるキャラグランプリなど全国のゆるキャラが集合するイベント会場です。この時もっとも目立つのはどんな色でしょうか。ゆるキャラグランプリの過去の集合写真などをぜひ見返していただきたいのですが、黄色などよく見かける色のキャラクターは当然ながらお互いが同化してしまい埋もれています。そして真ん中に居座る真っ黒なくまモンがぐっと視線を集めていることがわかります。講演会や朗読などをやるプロの方は、会場の背景色を確認して当日の洋服を決めるといいます。ゆるキャラは日によってボディの色を変えるわけにはいきませんが、せめてどんな背景でも目立ちやすい色を考慮してもらいたいものだと思います。
その3. 3次元化した時のことを考えてデザインする
最後に忘れてはいけないのが、3次元化、特に「着ぐるみ」にした時のことです。可愛いキャラクターというだけなら、●カチュウなり●ティちゃんなり、完成度の高いものが世の中にいくらでも氾濫しています。彼らはアニメやグッズ開発など2次元が主な活動の場なので、それを前提にデザインされています。一方で「地元のゆるキャラ」の勝負は3次元、いわゆる着ぐるみです。簡単にアニメやグッズにはできない代わりに、近所の商店街や駅前の広場で着ぐるみに会って、写真をとってあげたり握手してあげたりすることで、出会った人たちに強烈な印象を残します。また今は動画配信というのも比較的安価で活動できる重要なPRツールです。だからこそ、3次元での動きが重要になるのですが、この着ぐるみの「動きやすさ」に関しては、どうやらかなり個体差があります。
例えば、
・自立歩行できない
・動きのバリエーションがない、ほぼ直立不動
・頭が重く常に気にして動きが小さい
・体が大きすぎる
・手に何かをもつことができない
ざっと思いついただけでも、こんなゆるキャラが多数存在します。これは当然ながらPRする機会を圧倒的に阻害します。最近はどのゆるキャラにも「●●ダンス」や「●●体操」といったオリジナルソングがあり、ここでキレのある動きを見せることが、見ている人に驚きを与えるのですが、せっかくオリジナルソングがあるのに一生懸命踊っているのはアテンドをするお姉さんだけで、当のキャラクターは横で揺れているだけ。それどころか共演している他県のキャラクターに主役を奪われる、というシーンをよく見かけます。また、PRのためにと新聞社やTV局を訪れたにも関わらず、入り口のドアやエレベーターに入ることすらできなかったケース。せっかく子供達が近づいてきているのに握手してあげられなかったり、名産品を持つことすらできないようでは、与えられたミッションをほとんど果たすことができていません。また、自立歩行できない、前がちゃんと見えないことは地味に”中の人”やアテンドのお姉さんに負担を強います。くまモンなどを見ていると、会場に着くなり勝手に走っていって子供達と触れ合ったり、他のキャラクターに絡みに行ったりするので、アテンドのお姉さんはイベント関係者に挨拶をしたり、くまモンの様子を写真撮影したりと他の仕事に専念できます。その結果twitterなどの配信も充実するし、なにより表情にゆとりが感じられます。ただでさえ喋らないのが一般的なゆるキャラにおいて、ボディランゲージで感情を伝えるのは重要な要素です。着ぐるみ制作の業界も進化が進んで、昔よりはるかに軽く動きやすいものがつくられるようになったと聞きます。ぜひとも慎重に考えてデザインしてみてください。