肌感覚でマーケティングするということ
とある企業の社員募集の要項をみていたら、適性のところに「肌感覚でマーケティングする人」という項目がありました。
その会社はいわゆる「企画」会社で、規模こそそれほど大きくないものの、政府関係のプロモーションなど、かなり大きな仕事を手がけている有名企業です。
公的機関の仕事や、巨額のプロジェクトを動かすからには、企画をロジカルに説明できることや、緻密なマーケティングデータを活用できることが求められるのだろう、と想像していたので、「肌感覚」というのは驚きました。
普通に考えたら「肌感覚で仕事をする」とはずいぶん適当な感じがします。
また募集要項に書くには、ずいぶんとあやふやな能力のような気もします。
銀行の人が聞いたら「けしからん」とか言われちゃいそうです。
とはいえ、結果を出している会社が言うのだから、きっと経験則に基づくなにかがあるのだと思います。果たしてその真意とは。
考えていて思い出したのは、例えば仕事場で、デザイン案を2パターンから選ぶ、なんてシーン。男性達に意見を求めると、「Aは...で...で...Bは...で...で...な感じだから...Aかな?」とわからないなりに理屈を説明した上で結論を出そうとします。女性達に意見を求めると、「絶対A!」「理由は?」「なんかわかんないけどかわいい」など感覚的に結論を出します。
こんな時、「女性は感覚的だから」と片付けられてしまいそうなものですが、ただ、そんな調子でも女性陣の意見が不思議と一致したりすることは多くて、ということは彼女達はあながち適当に選んでいるわけではなく、女性達が共通で嗅ぎとる何かがあるのでは?と思います。
ただ、もしこのお題が、「かっこいい車のデザインはどちら?」と仮定してみると、案外男性のほうが「Aだ!Aに決まってる!」なんて言い出しそうな気もします。
世の中の消費の多くは女性が鍵を握っていて、にも関わらず、企業のビジネスシーンは男性が主導しているケースが多いので「みんなの意見を聞いてみよう!」となる時というのが、女性向けのアイテムを議題にするケースが多い気がするだけで、
もしかすると、女性=感覚的、なのではなく、見慣れたものや親しんだものに対しては誰でも感覚的に判断する、ということなのかもしれません。
他にも、いわゆる「おしゃれな人」というのが、必ずしも専門的な勉強や流行をチェックしているわけではありません。なんとなく今年はこんなのが着たい気分♪なんてノリで選んでいるのでしょうが、それでも、その道のプロが見てもおしゃれと認めるファッションになります。その中でも支持者を集めた人が「インフルエンサー」と呼ばれる人で、彼ら彼女らが「なんとなく着たい」「なんとなく流行りそう」と発信するものが本当に人々の心を捉えるし、もっと言えば膨大な情報の海で溺れかかっている人は盲目的に彼らに従います。
「肌感覚のマーケティング」ってまさしくこんな感じですよね?
デザインにしてもファッションにしても、今やあらゆるマーテケティング手法があり、ビッグデータもあるわけで、やろうと思えば理論だけで突き詰めることはできるのだと思います。ただ、それでは、女性向けファッションのように、セグメントが細分化されすぎているものは分析も膨大になり時間もかかる。さらに、理屈というのはどうしても「過去」の情報に頼ります。新しい時代に対応するものや、革新的なものを提示しようとした時に、理論では限界があるということなのだと思います。
最初の話題に戻ると、採用基準として「肌感覚のマーケティングができる人」とわざわざ掲げるのは、自分の得意分野だけでなく、世の中全体の方向性や、与えられたジャンルに対しても、その感覚が働く人という意味であろうと考えられます。そのようなスタッフを採用することで、この会社は競争力としているのです。
これは個人的な補足ですが、いくら好奇心旺盛な人でも、世の中のあらゆるジャンルのことに対して常に興味をもって見続けておくなんてことはできません。なので、例えば親しみの少ないジャンルでも、どのあたりを調べれば効率よく情報が得られそうか鼻が効くとか、詳しそうな友達がたくさんいる、といったことも能力に含まれます。
つまり「肌感覚のマーケティングができる人」という適性は、けしてあやふやな感覚的なものなんかじゃなく、世の中に対して好奇心をもって観察し、遊び、経験でき、議論し合ったり情報交換できる友達がたくさんいて、膨大な情報の波から次の波をイメージできる人とひとり勝手に理解しました。
自信がある方はぜひご応募を。