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タテヨコナナメ

手を引けってどういうこと?
現場のことわかったうえで
全体のことも見渡したうえでの
大所高所からの判断なの?
そうならそうってちゃんと現場に説明して!
#ジブリで学ぶ自治体財政

Facebookの「過去のあの日」で6年前の投稿が出てきました。
私が4年間務めた財政調整課長時代、予算編成の終盤に感じた「全体最適」と「自律経営」の両立についての所見です。
Facebookだけでなく、財政調整課長として職員専用掲示板で全職員に発信した当時の投稿を抜粋でご紹介します。(以下抜粋)

福岡市では今、「局区の自律経営」を組織運営の基本とし、それぞれの担当する政策分野ごとに与えられた課題を最適な手法で解決することで市民福祉の向上を図るために、市民、現場に近い各事業部局に裁量と権限を移譲し、各局区長の責任の下で限られた資源(人材、財源)を効果的、効率的に活用して、それぞれの組織運営を行っています。
この「自律経営」は、ややもすると局区ごとの「部分最適」に陥り、市全体の経営資源を一つのベクトルに束ねることができずエネルギーが分散してしまうことが懸念されるので、これを避け、エネルギーを一方向に集中させ、最大化できるよう、「全体最適」を図る必要があるのですが、その方法論について最近感じることをひとこと。

「全体最適」を図るためには、強い調整機能を持つ官房部門が必要だという人がいますが、必ずしもそうではありません。
むしろ、官房部門に集まってくる情報は限られており、その限られた情報をもとに強い力で舵を切ると、全体統一的な行動は担保できますが、それが「最適」であるかどうかは担保できません。
むしろ、トップ層の示す全体的な目標や方向性に向かって、各局区長やその下部組織の節目を束ねるミドル層のリーダーポスト(部長、課長、係長)にある者がどれだけその目標、方向性を自分の組織、役職の立場で咀嚼して腑に落とし、自分個人として、あるいは属する組織としてのパフォーマンスを上げることができるかにかかっています。

またトップ層の経営判断が現場の感覚、ニーズと乖離しないことも非常に重要であり、現場で起こっているリアルな状況、そこから見える課題、ニーズなどについて迅速かつ的確に収集分析し、それをトップ層の経営判断に生かせるよう機をとらえて組織としての情報共有ができる組織体制であるためにも、各局区長やミドル層のリーダーの果たす役割は重要です。
そういう意味では、「全体最適」のための調整を強い官房だけに委ねるのではなく、組織のタテヨコナナメの意思疎通の橋渡しを担う各組織の階層ごとの長が、それぞれ「全体最適」を意識できる人材であり、かつ積極的、効果的に情報伝達、共有を行うことで、組織としての時差、温度差を可能な限り埋めていくことが、「全体最適」を図れる「自律経営」という組織運営の基礎となる、と私は考えます。(以上抜粋)

「全体最適」と「部分最適」はなぜ相剋するのでしょうか。
自治体として優先順位の高い政策を推進するということ、あるいはその財源を生み出すために優先順位の低い施策事業を見直し、そこに投入している財源を優先順位の高い施策事業に振り向けること。
これが財政健全化の議論や毎年度の予算査定で行われている「全体最適」です。
一方で、この「全体最適」の概念に対立するのが「自分の担当している仕事を見直したくない」という主張、つまり、自治体全体の優先順位付け、取捨選択の結果によって自分の施策事業が左右されるのは嫌だ、ということになります。
しかし、実際には優先順位付けの結果、自分の担当する施策事業について高い優先順位付けがなされて厚い財源配分を受けることもあるわけで、その厚い配分に対して異を唱え、自分の縄張りに手を出すなという職員はいないと思います。
つまり、財政健全化の総論賛成各論反対は、自分の思いと違うことを埒外から指示され、それに従うことを潔しとせず抵抗しているに過ぎないのです。

自治体組織は本来、ひとつの財布を共有し、その財源を分かち合っている共同体である以上、部分の総和が全体となるはずです。
しかし、部分最適と全体最適の相剋は、「部分」の中にある最適化のベクトルが、「全体」で束ねようとしたときにバラバラのままだと全体としてのベクトルが定まらない、あるいは反対方向のものが互いに打ち消し合ったり、違う角度のものが合成されてまったく別の方向を向いたりしてしまう現象ととらえられます。
自治体全体で事業数が3000もあれば、課の数が600もあれば、その全体を貫く大きな目標の共有や、そのための優先順位付けの全体像を600人の課長全員で話し合い、それを個々の職場に持ち帰って、各職員が理解し、納得することは難しいでしょう。
しかし、それをそれぞれ「福祉」「教育」「子育て」「まちづくり」といった政策分野ごとに区分けしていくとどうでしょう。
その区分の中で、その分野を担当する課長たち数人が寄り合って優先順位づけを行い、優先順位が高いとされた施策事業に財源を振り向けるために、同じ分野のなかで劣後する施策事業を削るということなら、各職場の個々の担当者でも、その作業の意味するものを理解し、その結果に納得することができるのではないでしょうか。

その政策分野ごとの区分けと、その中での目標の共有や優先順位付けの議論を主導するのが、各分野の責任者である局長や部長ということになります。
財政課からの指示は「越権」と受け止めても、上司である局長、部長からの指示は業務命令です。
しかも、指示をした局長、部長の下で、似通った政策分野を分担している、同じフロアで働く仲間同士で、自分たちの政策分野の中で何が優先か、そのために何を見直すのかを議論し、目標を共有したうえで、そのベクトルに沿ってそれぞれが担当する事業のありようを見直していくわけですから、それは「領空侵犯」ではなく、自らの領土内の統治として、つまり「自分ごと」として行われることになるわけです。

現場で各課がこんな風に行動できるには、まずは財政課が、財源不足などの財政状況や、財政健全化に取り組まなければならない理由をきちんと各課の仕事の前提条件として示し、各職員が自分ごととして理解してもらう環境が必要です。
そのうえで、自治体全体での議論ではなく、同じ政策目的でより優先順位の高い施策を任されている自分の仲間に財源を振り向け、その実現を支えるために、自分の担当事業の予算が減ったとしてもその痛みに耐え、仲間の活躍を自分ごととして喜びを分かち合える関係性が構築されること。
そのためには、同じ政策目的で働く現場同士が普段からお互いの情報を共有し、互いに仲間だと思える間柄になっておくこと、そしていざというときに問題を共有し、互いの資源を譲り合って一つの目標を目指せる仕組みが必要です。
私が「枠配分予算」を推奨し、そのためには「対話」が大事だと言っているのはこういう理由からなのです。

私は6年前の檄文をこう締めくくっています。
日頃からの対話、意思疎通で課題や方向性を共有できているかどうかが、限られた時間で最終決断を下すような局面で結果に影響を及ぼすことを痛切に感じ、「全体最適」と「自律経営」を結ぶのは「長」だなあ、と思った次第でした。
皆さんは、また、皆さんの組織はいかがですか?
自分の仕事、立場だけでなく、組織全体のことを考える「全体最適」を考えていますか?
あなたの職場の上司はどうですか?
あなたの職場の課長さんは職場で、部長や社長の話を部下にしていますか?
逆に部長や社長に、職場の担当者や係長の話をしていますか?
現場で起こっていること、困っていることを伝えていますか?
忙しいなか、なかなか難しいことだとは思いますが、そういうところから組織としての地力をつけ、「大男総身に知恵が回りかね」ということにならないようにしましょう!

以上、過去記事の振り返りでした。
「全体最適」を図る「自律経営」。
そのために必要な組織間、職員間の「対話」。
そこで重要になるのが「長」のつく役職者の立ち回り。
皆さんの組織ではいかがですか?

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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