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続・自治体職員と政治

市民が選んだ市長の意見と
市民が選んだ議員の意見が違う時
どっちが本当の民意なんだい
選挙に行かない市民もいるってのに
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
自治体職員として行政運営に携わっていて悩ましいと感じるのは政治との距離。
自治体職員は政治的中立を求められ、私たちは日々公明正大に業務を遂行しているわけですが、その自分が担当する業務そのものが政治家である首長の肝いり公約であるなどの政治的な色合いを帯びたとき、業務内容そのものは公平中立な立場で立案され手続きが進められているにも関わらず政治的対立に巻き込まれ、中立の立場で業務を遂行している自治体職員自身が板挟みのような軋轢のなかに身を置くことになってしまうというジレンマを私は何度も見てきました。
首長が公約に掲げた施策が当選後ただちには進められないということがありますが、その多くは議会等の既存勢力との軋轢です。
選挙に勝った首長は自分が有権者の信託を得たのだから当然進めるべきと考えますし、一方議会等の既存勢力は選挙で当選したところでそれが直ちに個々の施策事業を進めるうえでのフリーハンドのお墨付きになるものではないという構造をよく理解していて、議会での議案審査などの個々の政策決定、推進過程で難癖をつけてその足を引っ張ろうとします。
お互いに理路整然とした政策論を堂々と戦わせているのであればまだいいのですが、政治的対立の多くは政争と呼ばれる権力闘争、マウンティングが背景にあることが多く、権謀術数渦巻く厳しい勝負の世界は、中立を立ち位置として不戦を誓い戦いの場から身を遠ざけてきた私たち自治体職員にとっては、想像を絶する理不尽かつストレスフルな世界なのです。
 
特に、首長の交代によりすでに決定し実施している政策を検証し、覆していく行為は、時として罪作りです。
もちろん、それは選挙民が選択したということなのですから、民主主義国家では当たり前の行為であるはずですが、改めてひとつひとつの検証行為やその後の方針転換の具体例を見ていけば、本当にそのこと自体が選挙の争点であったのか、あるいは、例えそれが争点であったとしても、その方針転換がもたらす社会的効果について選挙の時点で選挙民にきちんと認識されていたのか、ということについて、疑念を感じざるを得ない場合もあります。
さらに、検証の結果方針転換を行う場合には、その方針転換そのものに政治的バイアスがかかることもあり、その結果、最適な選択肢を選べないことや、最適な選択肢を選んだとしてもそれ自体に大いなる力がかかっているのではないかという疑念が持たれることもあります。
 
一度そんな目で見られれば、どんなに公明正大な検証過程で導かれた結論であっても、万人に受け入れられることは決してなく、いたずらに時間と労力を費やしたことを以て時機を失することや、物事が決まらないという不安定さが社会不安を呼び悪循環のスパイラルに陥ることもあります。
そう考えると、首長の交代時によくある、掲げられた公約に基づき既定方針を見直すという行為が社会にとってよい効果をもたらすことなんて本当にあるのだろうかとさえ感じてしまいます。
選挙公約で見直しの標的とされたことで、色眼鏡で見られるだけでいつまでたってもことが進まないことを運命づけられてしまった鬼っ子たちは本当にかわいそう。
最初からそんな運命を背負わせるつもりで産み落としたわけではないのに、ひとたびやり玉に挙がったおかげで、常に政治に翻弄され、どこへ行っても何をやっても常に鬼っ子扱い。
一度その色がついてしまうとどんなに洗ってもそうそう色が落ちないことは実証済みなのに、罪作りな政治家たちは、選挙のたびに鬼っ子を作り出すのです。
 
こうした悲劇を見るにつけ、自治体職員は政治的中立を保った仕事をしているわけでは決してなく、むしろ政治そのものの片棒を、自分の信条と関わりなく担がされるという皮肉な側面すらあるということを痛切に感じます。
たまたま立場上任された重要な仕事でその職責を全うすることが首長の手柄として政治色を帯びてしまうかもしれません。
そのことが、のちの選挙の結果次第で我が身に政権交代の荒波が降りかかり、過去の政策推進の“戦犯”として御白洲にしょっ引かれないとも限らない。
そう思うと、これまたとても憂鬱なことです。
すべての自治体職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならないはずだし、我々の仲間たちの多くは一点の曇りもなくそのことを心がけているのですが、行政という言葉そのものが「政(まつりごと)」を行うということですし、選挙で選ばれた首長の部下として政策を立案し、選挙で選ばれた議員が構成する議会で多数派の支持を得て遂行するわけですから、そもそも「行政」は政治そのもの。私たち自治体職員の仕事も政治の延長線上にしかないのです。
こうした矛盾を抱えながら私たち自治体職員はどうやって自身の仕事と政治の距離を適切なものに保っていけばいいのでしょうか。
 
ここできちんと押さえておきたいのは私たち自治体職員の立ち位置。
まず、私たち自治体職員が「政治的」になり、政治闘争に加担してしまってはいけません。
政治家である首長の政治的支持の維持拡大のために法令に違反したり公明正大な手続きをゆがめたりすることは信用失墜行為であり、市民からの信用信頼を担保にしてきた円滑な公務執行に支障をきたすことになってしまいます。
私たち自治体職員が政治的に中立であることを求められているのはまさにこの部分で、政治家である首長や議会の持つ政治的背景に対して何の配慮も忖度もせず、愚直に法令を遵守し公明正大な手続きを経て政策決定過程を透明化して推進していくことを私たちは市民から直接信託されており、これは首長であろうと議会であろうと揺るがすことのできない立ち位置。
全ての行政運営を直接市民が担うことができない近代国家においては、市民の代わりに行政運営に携わる者として、選挙で選ばれる首長や議会とは別にその事務執行を担う公務員という身分が置かれています。
政治的中立を義務づけられた公務員の役割は、首長や議会などの政治家がその政治的意図で公平公正な行政運営への市民の信託を揺るがすことがないよう、その手足を縛ることなのだと私は思っています。
政治家である首長や議会の背後には政治的なパワーバランスや利権などの複雑な事情が絡んでいる場合もあるようですが、そのことは業務を担当する私たち自治体職員には知らされません。
しかし知らないからと言って「首長(あるいは議会)の意向だから」と横車を押すことが、結果的に政争に加担することで公平公正な行政運営をないがしろにし、そのことによって市民の信頼を失ってしまうことにつながりかねないことを私たちは肝に銘じ、たとえつらい板挟みにあったとしても、安直に政治家の意向に盲従しないことを心掛けなければならないと私は思います。
 
一方で、私たち自治体職員は政治から距離を置くという理由で政治に無関心であっていいのかというとそうではありません。
以前、現職の首長が落選したことは自治体職員である自分と関係があるのかという話を書きました。

先ほどから書いているように自治体職員は政治とは決して無縁ではありません。
自治体の運営は市民から選挙で選ばれた政治家である首長がその執行権を握り、地方自治の車の両輪として首長の執行権のチェック機能を果たす議会もまた、市民から選挙で選ばれた政治家です。
私たち自治体職員の毎日の仕事はすべて政治家が決めたことの実行であり、政治家によってその成果を評価され,その政治家たちは数年に一度ある選挙によって市民から審判を下されている。
であれば、私たちの日々の仕事そのものに審判が下されているわけで、日ごろから我々が市民からどう見られているか、どう評価されているかを意識しなければいけないのではないか。
政治的である必要はありませんが、ノンポリを決め込んで政治音痴に陥り、市民の声が聞こえなくなってしまっては、これもまた市民からの信託を裏切ることになってしまいます。
むしろ、自身のアンテナを研ぎ澄まして感度を高め、市民の声を自治体職員としての矜持に照らし、行政の「中の人」として政治家たちの言行についてきちんと監視するなかでやるべきことがあるのではないかとも思います。

 全国で繰り広げられる様々な選挙の経過や結果、その結果起こる政治判断という名の横車や政治的対立に翻弄される施策事業などに関する報道を見ながら、私たち自治体職員が果たす「政治上の役割」について思うところを書きました。
皆さんはいかがお感じでしょうか。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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