勝者なき戦い
予算はつけてあげられないけど
これで勘弁して!オ・ネ・ガ・イ
しょうがない。今回は折れてやるよ
けど,これどうやってみんなに説明しようか?
#ジブリで学ぶ自治体財政
少し筆を休めている間に年が明けてしまいましたね。
皆さん,新年あけましておめでとうございます。
2022年もここでのよもやま話にお付き合いいただけましたら幸いです。
さて,年も明け,全国の自治体で繰り広げられている予算編成の折衝,調整も最終段階に入っていることと思います。
限られた財源をどの施策に優先的に振り向けるのか。
そのために既存事業に優劣をつけ,どこに切り込んでいくのか。
個々の施策事業の成果や課題を検証しつつ,その経費積み上げの妥当性を評価判断していく予算編成作業は「獲得」と「死守」の陣取り合戦。
ここでの攻防が次年度以降の自分たちの職場や仕事の存在意義を決めるわけですから,皆さん必死で論陣を張り昼夜の別なく激しい議論が交わされることになります。
しかし,この戦いの終結,目指すべき到達点はどこなのでしょう。
私たちが目指しているゴールは「要るものは要る」と「ない袖は振れない」の平行線を交わらせ,現場と財政課の対立が解消された合意のはず。
現場の立場からすれば,自分たちのやりたいこと,すべきことが認められ,それが確実にできる予算が計上されれば,財政課と対立する必要などなく満面の笑みで「合意」に至ることができますが,多くの場合は思った通りに予算がつかない,足りない,認められないことばかり。
現場の抱える窮状への財政課の無理解を嘆いても,財源とスケジュール上の制約から協議,折衝,調整の終了を告げられ,最後は査定結果を言い渡されてそれに従うしかない現場にとって,合意などあり得るのでしょうか。
私たち自治体職員は,予算折衝をはじめとする庁内での様々な議論において,個人の主観,主張に基づく意見を互いにぶつけているわけではありません。
私たちが日々職場で議論や対話を重ね、庁内での合意形成を図り、方針を決定し、その方針に従って日々の事務を遂行しているのはすべて,多様な意見を持つ市民の利害、意見の代弁者として市民同士の対話や議論を代理している。
私はそう考えています。
それぞれの事務分掌を抱えた組織は多様な市民の立場や意見を代弁し調整する主体ですが、自らの独立した意志を持つ主体ではありません。
職員,組織が主張する意見や立場はすべて市民の誰かの意見や立場を集約し代弁しているものであり、職員同士,組織同士の対話や議論は多様な意見を持多種多彩な市民同士が自分たちだけではできない膨大かつ多岐にわたる情報の共有と,その中で同じ共同体に暮らす者としての相互理解を図るためのものなのです。
この前提に立つと,ふと疑問がわいてきます。
予算編成の過程でよくある話として,結局予算は要求通りにはつかなかったものの,他の部局と同等に扱われたかどうか,あるいは自分たちの話を真摯に聞いてくれたかどうか,といった財政課側の姿勢や態度に対して現場の納得感が醸成される場合がありますが,ここで現場が得た納得感は,予算編成における合意形成過程での対話や議論の代理を委任した市民に正しく伝達し,共有することが可能なのでしょうか。
これは現場の職員の腹の虫がおさまったに過ぎず,予算編成において形成されるべき合意の理想形ではないのではないでしょうか。
自治体経営において市民は,顧客としてサービスを受ける主体である一方で、サービスを提供する自治体に納税し、自治体運営の権限を付託し、それを監視する株主のような立場を併せ持っています。
ということは,予算編成過程で繰り広げられる現場の「要るものは要る」と財政課の「ない袖は振れない」の対立は,財政課の立場を支持する市民と個々の施策事業を推進してほしい市民がそれぞれいて,その双方の意見を職員が代理して議論しているということではなく,同じ一人の市民が持つ「顧客」と「株主」の二つの立場から生まれる相克。
予算編成における意見対立は,個別具体の施策事業への賛否や優劣に関して自分と違う価値観を持つ者と競い合っているだけでなく,経営資源の有限性を理解したうえでその中での全体最適を志向する,「あちらを立てればこちらが立たず」という二兎を追う市民自身の内心の葛藤でもあるのです。
自分と違う価値観を持つ者との競合であれば,自分に有利な結論にならなかったとしても「話を聞いてくれた」「平等に扱われた」という態度,姿勢で納得感を醸成することが可能ですが,内心の葛藤であればそういうわけにいきません。
予算編成という意思形成においては他者との対立解消の前提として,市民自身がまずは「顧客」かつ「株主」としての自身の二面性を自覚し,そのそれぞれを俯瞰して客観視することで内心の葛藤を克服することが必要になります。
個別具体の施策事業への賛否や優劣に関しての競合を調整した結果への納得,共感に加えて必要なのは,顧客かつ株主である市民自身が内心の葛藤の結果として帰着する「要るものは要る」と「ない袖は振れない」の止揚。
市民自身が自治体経営をジブンゴトととらえ,「あちらを立てればこちらが立たず」と自分自身を納得させることができなければ,「獲得」と「死守」の戦いに勝った負けたと一喜一憂するだけで,予算編成が目指すゴール,理想の合意に到達することは永遠にないのではないでしょうか。
市民自身がその立場の二面性を自覚できず「要るものは要る」という顧客としての意見しか持てない現状を鑑みれば,私たち自治体職員は財政課であるか現場であるかに関わらず,まず市民の株主としての立場を意識し内外での言動に反映することで,市民自身がその立場にいる自覚を持ってもらうという役割があるのではないでしょうか。
それが,私が常々ここで申し上げている「中の人」としての自治体職員の役割なのですが,予算編成の渦中で「獲得」と「死守」の攻防の最前線にいる皆さんはそのことをどのくらい意識できているのでしょうか。
予算編成における合意形成は,現場職員が納得することで終わりなのではなく,その議論で代理した市民自身の納得,共感につながらなければ意味がありません。
どういう状態で予算編成を終える必要があるのか,そのために必要な議論,対話とは何か,予算編成に携わるすべての当事者によく考えてほしいと思います。
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
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