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法を疑え

職場からの電話とメールが通じれば
在宅勤務って家じゃなくてもいいんだろ
机の前に座って仕事してるふりするのは
職場でもここでも変わりはないんだから
#ジブリで学ぶ自治体財政

コロナ禍は我々の仕事や職場にも大きな変化をもたらしましたよね。
福岡市役所でいえば,通勤時の密集を避けるための時差出勤の拡大と昼休憩の時差取得制度の創設は大きな前進でした。
昼休憩の時差取得についてはこれまで,窓口対応等で職員が一律で12時から13時の昼休憩を取得することが困難な職場についてのみ時差取得が可能な旨を規則で定めていましたが,昼食時の密集を避ける観点から一昨年の緊急事態宣言時にすべての職場において個人単位でその日の業務状況にあわせて11時からもしくは13時からの1時間を昼休憩として取得することが可能になりました。
実はコロナ禍以前に,昼休みに昼食等で外出する職員がエレベーターの混雑で時間をとられ,正味の休憩時間が短いので昼休憩の時差取得を認めてほしいと労務担当課にかけあったことがありますが,担当課の回答は,「一斉休憩」は法で定められており簡単に変えることはできないとのことでした。
今回の制度創設は働く者の働きやすさを増進する側面があり,コロナ禍が明けた後でも継続してほしいと思うのですが,我々がこれまで原則としてとらえてきた「一斉休憩」は雇用する側からの労働者管理ではなく,実は労働者保護の観点から定められているということをご存じですか?

労働基準法では始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇は就業規則で定めることとされていますが,そのうち休憩についてだけは「一斉に付与しなければならない」と法律で雇用者側への義務付けが行われています。
労働関係法令における雇用者への義務付けは労働者保護の観点から行われているものですが,一斉に休憩をとることがどうして労働者保護なのでしょうか。
ものの本で調べてみると,一斉に休憩をとることで労働者が真の自由を得て休憩に専念し,心身の疲労回復を図ることができるという考え方に基づいていることがわかりました。
他人が働いている時間に自分だけ休憩をとるとゆっくり休んだ気がしない,早く職場に戻らなければと思う,というのがその根底思想のようですが,それは同一の作業を複数の労働力を集約して処理する,例えば工場のライン等で働く労働者のイメージであって,あらかじめ個人単位で業務を分担し,それぞれの処理能力に応じて作業が進捗し,個人の裁量で休憩取得のタイミングを判断できるような仕事にはそぐわないように思うのです。

法令が想定するイメージと実態が乖離している条文はほかにもあります。
有給休暇の時間単位での取得,いわゆる「時間休」は就業規則等で定められますが,有給休暇の取得上限とは別にこれを時間休として取得する場合の上限が定められ(労働基準法では5日)ており,すべての有給休暇を時間休として細分化して取得できることにはなっていません。
実はこれも労働者保護の観点からなのです。
時間休については,私が就職した30年前に比べると圧倒的に働く側の取得需要が増えた印象で,育児中に子供の送り迎え等の事情でやむを得ず始業時間に間に合わない場合や終業時間よりも早退したい場合など,仕事とプライベートをうまく使い分けるために活用されることが多くなりましたが,時間休制度創設まではすでに制度としてあった半日休暇を取得するしかありませんでした。
そのような経緯から働く側が熱望して制度化された時間休の取得に上限が設けられたのはきっと雇用者側からの労働者管理だと思っていましたが,実はそうではありません。

有給休暇のそもそもの趣旨は仕事から離れて心身の疲労を回復させること。
そのためにはある程度まとまった単位,最低限でも日単位の取得が必要と考えたところ,これを雇用者側の裁量により時間単位で取得させ,労働から完全に解放する日を与えないことは労働者の休暇取得の権利を阻害するので,雇用者の側から恣意的に時間休を与えることができないように組合協定を必須とし,なおかつその上限を有給休暇全体の上限よりも低く設定して,すべての有給休暇を時間単位で取得させることなく日単位での休暇として取得させ疲労を回復させるよう制度設計されているのだそうです。
有給休暇は心身の疲労回復のためというのは間違いではありませんが,そのために時間単位での取得を法で制限するというのは,肉体労働を前提としたかなり昔の労働概念に基づく措置のように思うのは私だけでしょうか。

今日は労働法のお勉強の投稿ではありません。
私が言いたいのは,法が整備された際の概念や定義は社会環境の変化により現状と乖離することがあるということ。
少し前の話ですが,公職選挙法における選挙期間中のブログ更新の是非が一時期問題になりましたが,これも法が整備された当時,候補者からの書面での情報発信は予め印刷されたもの配布することしか想定していなかったことから生じた問題でした。
昨今の自治体DXでは,個人情報保護に関するこれまでの法令整備が現在の情報化社会,特にPC,スマホ等の個人端末から行政機関へのアクセスや,行政分野ごとに蓄積されたデータの連携活用による当該個人の利便向上を十分に想定していないことが課題となっています。
私たちの働き方についても,テレワークの普及により勤務場所以外で業務に従事することが当たり前になった場合の服務管理の在り方,職務専念義務との関係性,そもそも何をもって「仕事をした」ととらえるのかという根本について,既存概念を打ち破るパラダイム転換が必要になっていることをひしひしと感じています。

私たち公務員はよく「法律で決まっています」と説明することがあります。
法令順守は公務員の必須事項ですが,一方で「法を疑う」ことも必要ではないでしょうか。
社会は法整備とともに固定されるものではなく日々変化しています。
大事なのは法令を守ることではなく,実現しようとしたことを法令の規定によって実現できているのか,また,その法令が実現しようとした社会が今も変わらず求められている社会なのか,を常に疑い,問い続けること。
社会の変化をとらえ,また変化を予測し,その時々の行政サービスのありようを疑い,改善を加えていくこともまた我々公務員の仕事なのです。
場合によってはその根拠法に新たな解釈を加えたり法令そのものを変えたりして,求められるサービスを与え続け,あるいは向上させることができるのは我々公務員しかおらず,その使命はもっと自覚されるべき,研ぎ澄まされるべきものと私は考えています。
皆さんが仕事の上で基づいている法令が描く世界観,目指す将来像は現実に即していますか?
法令の描く世界と現実のずれが,市民の利便や我々の仕事のしやすさを損なっていませんか?

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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
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