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対話の前に共働を置く

僕と結婚してくれないか
まだお互いのことよく知らないけど
互いのことを知る一番の方法は
結婚して一緒に暮らすことだから
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
「対話」は二つの要素からなっています。
まずは、先入観を持たず、否定も断定もしないで相手の思いを「聴く」。
次に、自分自身の立場の鎧を脱ぎ、心を開いて自分の思いを「語る」。
「対話」の成立に必要となる重要な構成要素は「開く」と「許す」です。
「開く」は、自分の持っている情報や内心を開示すること。
「許す」は、相手の立場、見解をありのままに受け入れること。

これまでの投稿で何度も触れていますが、私はこれからの公務員に求められる最も重要な力として「市民の声に耳を傾け、その立場に寄り添いつつ、多様な立場の意見に向き合い、それらを合意へと統合していく対話力」を推奨しています。
しかしながら私たち公務員は「対話」を苦手としており、自治体組織として市民と向き合う「対話」も苦手で、これをどう克服するかという視点でこれまでにもいくつかの記事を書いてきました。
その処方箋として、まずは組織としても職員個人としても市民に対する過剰な怖れを捨て、市民を信じて一歩踏み出すことが、自治体や自治体職員が市民との「対話」を始める最初の一歩になる、というのが私のこれまでの結論でした。

 しかしながら、市民の心の奥底に常にある「役所への不信」への恐れと、公務員として民間人と距離を置かなければならないという私たち自治体職員側が抱く過剰な自己規制の意識が築く巨大な壁は一職員の力だけではなかなか乗り越えていくことはできません。
多くの自治体職員は、市民を過剰に恐れ、自分が背負う看板の重みに耐えることができず、その強固な「立場の鎧」を脱ぐことができないのです。
そこで私はこれまで、自治体職員に対して「立場の鎧を脱いで身軽になろうよ」と声をかけ続けてきました。
変革の必要性を感じた公務員がそれぞれ自分の感じる危機感や変革意欲に応じて自分の殻を破ること。
あわせて、周囲がその行動に賛同できるのであれば同じ行動をとることができなくても歓迎賛同の意を陰ながらでも示し伝えること。
その積み重ねで少しずつ実際に公務員の職場風土や仕事のやり方、市民との関係性が変わり、「対話」や「自己開示」が組織文化として定着する世の中がくるのではないかと書きました。

 加えて、この投稿をお読みの公務員ではない方々へのお願いとして、私たち自治体職員が役所の外側で職場や立場の垣根を越えて語り合える場を、ぜひ一緒に作ってください、とも訴えてきました。
公務員ではない皆さんが役所の外から誘い出していただき、自治体職員一人ひとりに力を与え、命を吹き込んでいただくことで、共有できる事実、改革できる課題があり、その解決に向かう推進力が与えられることもたくさんある。
そのためにも立場の違いを超えて混ざり合い、忌憚なく本音で語る「対話」の価値を共有し、そのような場が世の中にあること、その場に自治体職員が身を置くことの意義を説き続けているところです。

しかしながら、これまで私が述べてきた「対話」の処方箋はどちらかといえば私たち公務員が個人として取り組むことができる「自己開示」「他者の許容」であったように思います。
では、自治体組織が苦手としている市民との「対話」を可能ならしめる処方箋にはどのようなものがあるのでしょうか。
そのヒントは昨年私たちが取り組んだ「50周年記念事業」にありました。
一級河川がなく水源に乏しい福岡都市圏の水道用水を都市圏外の筑後川から導水し、人口260万人を擁し今も成長著しい福岡都市圏市町に配水する事業主体として設立された福岡地区水道企業団が、設立50年の節目を契機に水道用水の1/3を圏外の筑後川に依存する私たち福岡都市圏住民に改めてその事実を認識していただき、筑後川からの恵みに感謝するための取り組みが「50周年記念事業」でした。
私たちはこの取り組みを組織内部、職員同士の「対話」、自治体組織外の関係者、協力者との「対話」、そして自治体と住民、あるいは住民同士の「対話」という三つの「対話」の実践によって推進してきた、と記事には書いていますが、それは「対話をしましょう」と場を設け、そこで互いに胸襟を開き、自由気ままに語り合う「対話」そのものを実施したわけではありません。

すべての取り組みを他者との「共働」で行ったことで、結果的に相互理解のための情報共有が進み、互いの立場を共感することができ、「対話」できる関係性を築くことができたというのが実情です。
私たちは、様々なセクターとの共働を実現するため、知ってほしい情報、相手方が知りたくなる情報を開示し、関わってほしい部分、相手方が関わりたくなる部分の門戸を開き、「このゆびとまれ」と指を立て私たちの土俵に呼び込んだのです。
自治体組織として、このように他者を受け入れ一緒になって一つのことに取り組もうと働きかけることは、「対話」の成立に必要となる重要な構成要素「開く」「許す」を同時に実現するものです。
共働して行う取り組みに必要な情報や自らの立場を「開く」ことなしにはその場への参加を期待することはできませんし、他者がその場に入り込み活躍することを求める以上は、その活動を「許す」と表明しなければ場の心理的安全性を確保することはできません。
物事を誰かと一緒にやるためには、何をするのか、何のためにするのか、それぞれが何が得意で何が苦手か、といったことをお互いに理解しあい、共感しあうことを前提としなければならず、この相互理解を円滑に進めるためにまず「対話」をはじめよう、というのがこれまで私が説いてきたセオリーでしたが、実際には共働のスタートとなる「場の開放」こそが「対話」のスタートとなったのです。
 
そしてこの共働は言うまでもなく、「対話」のスタートとして有効であっただけでなく、同じことを一緒に体験し、成果を作り上げていくという過程の中で、互いの理解の促進、信頼感の醸成に大きく寄与しました。
この相互理解、信頼感こそが事業終了後に遺されたインフラとしての対話環境であり、私たちがこの取り組みで得た最も貴重なレガシーだというわけです。
なお余談ですが「共働」は当該共働当事者以外への波及力を持っています。
企業団が単独で取り組んでいたとしたら、ここまでマスコミも扱ってくれなかったでしょうし、よくがんばっているというプラス評価も簡単には得られなかったことでしょう。
他者を許容して取り込み、積極的に自己開示しているという取り組み姿勢が評価されたのかもしれませんし、誰かが誰かと力を合わせて何かに取り組むということそのものが、その内容が社会で容認されるべきものだという公共的価値を醸し出すのかもしれませんね。
組織として「対話」を進めたいのなら、「対話」の前に「共働」を置き、「共働」を推進するなかで互いの対話環境を整えていく。
この処方箋、どうぞ皆さんでお試しくださいませ。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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