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枠配分予算のススメ

「自分たちで事業を見直してあれだけ厳しいシーリングを守ったのに,さらに査定するなんて信じられない!」
「シーリングはあくまでも予算要求の上限。その範囲に入っていても無駄なものがあれば査定させてもらう。それが財政課の仕事だ。」
#ジブリで学ぶ自治体財政

自治体における予算編成では、まず施策事業を担当する現場から、現場で推進すべきと考える施策事業に必要な経費についての予算要求が行われ、財政課がその必要性や緊急性、金額の妥当性などを精査し、自治体全体の予算を調製しています。
収入の見込みを精査し,その収入を財源として充てる施策事業に必要な支出の額や内容を精査する予算編成は,支出の額や内容を誰がどのように精査するのか,が大きく分けて二通りあります。
一つは,事業ごとに目的,内容,必要経費の積算を示した予算要求調書をまとめて受け取り,財政課で一件ずつその中身をチェックしていく「一件査定」。
財政課に権限と責任,そして情報を集約することで,すべての事業を同一の判断基準で取捨選択し,各分野での施策の力の入れ具合のバランスを取りながら全体で収支の均衡を図っていくことができる,予算編成の王道です。
財政課がすべてをチェックし、統一的な判断を下すことで予算査定の一貫性を確保できる一方、現場からの「要るものは要る」、財政課の「ない袖は振れない」という互いの主張はなかなか交わることがなく、時として不毛な議論や組織間の不信を生むこともあります。

一方,福岡市では2005年度(平成17年度)当初予算編成以降,「枠配分予算」という手法を導入しています。
これは,あらかじめ推計した翌年度財源を一定のルールで各部局に予算編成前に配分し,その範囲内で自主的,自律的に部局単位の予算原案を作成してもらい,それを財政課が全体で束ねて調整するという仕組みです。
人件費,扶助費,公債費といった義務的経費や特に政策を推進するために強化すべき経費など,局・区長の裁量枠とは別に予算を要求し財政課が調整する仕組みも併用していますが,原則としてすべての事業があらかじめ局・区長に配分された枠の中で取捨選択することになっているため,局・区長の裁量が生かされる反面,限られた財源の中で必要な経費を確保するために自らの事業を廃止縮小する判断を局・区長自らが行うということもあります。
財政課は,各局・区にどれだけの財源を配分するか,という事前の調整と,各局区で作成した原案を全体で見渡した際に施策事業のバランスや過去の政策決定,市長や議会・市民の意見との整合が取れているか,をチェックすることに専念し,個別の事業の経費の内訳など,政策を実現するための具体的な手段の選択は現場に任せる,というのが「枠配分予算」という手法です。

枠として配分する額の設定は直近年度当初予算(あるいは直近年度決算)に一律で削減率を乗じることを想像されるかと思いますが,各部局への配分は一律のルールではありません。
各部局の実情に応じて,また総合計画の進捗や市長公約,市民や議会からの要望の強い事項などの政策的なバランスを図ったり特定の政策を強力に推し進めるために,各部局への枠配分調整率を個々に設定しなおしたり,所要額をそのまま要求してもらい個別に調整する経費として指定し枠予算の対象範囲から外したりしています。
そのような部門間調整を行うこと,その概要と配分額について市長までの了解をとり,各局に配分し,その枠配分額を部局の長の裁量でどのような施策事業に振り向けたのか,は11月に各部局の長から直接市長,副市長に対してプレゼンテーションを行い,必要な修正等の指示を受けることになっていますので,部局の長の裁量を最大限発揮するための仕組みである枠配分予算といえども,全体としては市長の管理下にあるといえます。

財政課と各部局との間では,枠配分額は「ルール」ではなく「目標」です。
配分された金額の範囲内であれば,自律的に自らの施策事業をうまく組みなおして市が目指す方向性の実現に寄与することができる,という意識を財政課と現場が共有し,意欲と創意工夫を以て現場で予算が編成できる金額でなければ意味がありません。
必要な額を満額というわけにはいきませんが,自分たちの意思で「ビルド&スクラップ」(これについては別稿にて取り扱います。)ができる程度の金額を配分することで,市民に近い現場で,市民目線でより優先順位の高い施策事業に効果的に財源が配分されることを期待してそのようにしています。
「ルール」ではないので,一度決めたことを変更しないという硬直的な対応はしておらず,また私が課長だったころは毎年予算編成後に枠配分の算定方法や対象経費の考え方について各部局の財務担当者に意見聴取を行い,翌年度の配分方法の改善に役立てていました。

このように各部局の裁量を最大限拡大して現場の実情に即した予算を編成することが目的であるはずの枠配分予算制度ですが、悲しいことに「配分された枠の範囲内で組んだ予算案を財政課に査定されて現場のやる気がなくなった」という理由で枠配分予算制度が廃止された自治体が少なからずあると聞いています。
財政課の言い分としては「配分された枠の範囲内であれば何をやっても構わないということではないから財政課のチェックも必要」あるいは「厳しい財政状況下では,配分枠の範囲内であっても無駄な予算はあってはならない」という理屈のようですが、せっかく創意工夫を凝らし、苦労して配分された枠の範囲内に抑えた現場の苦労はいったい何だったんだ、という話になってしまいます。

枠配分予算制度は、現場の裁量を尊重し、その権限と責任を委ねることにその根本があります。信頼され、任されているからこそ、その期待に応えられるように現場でより効率的に、より身近な市民の声を反映できるようにと工夫するモチベーションが保たれるのに、それを財政課でさらに精査し、査定を加えてしまっては、現場のことが信用できないと言っているのと同じです。
信用されていないなら権限なんていらない。今まで通り必要なだけ腹いっぱい予算要求して、財政課で査定してもらえばそれでいい。現場をそんな投げやりな気持ちにさせてしまっている不幸が、全国の自治体で繰り広げられているのは悲しいことです。
枠配分予算制度だけがすべてを解決するわけではありませんが、厳しい財政状況に置かれている事実を財政課だけでなくすべての職員が情報を共有し、その危機感の中でお互いができることを任せあって事に当たる、そんな信頼関係の構築こそが、この厳しい難局を乗り切っていく唯一の方法だと私は思っています。
少し長くなりましたので,続きは次回にて。

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