同床異夢
少人数学級の導入は認めよう
しかし一方で少子化が進んでいるのだから将来教員は当然余剰になる
その定数を充てれば教員を増やすことなく1クラス35人が実現できる
という理解で当方は大臣折衝にあげさせていただくがよろしいか
#ジブリで学ぶ自治体財政
文科省の悲願だった少人数学級の導入を財務省が認めるそうです。
国が定める1クラス40人という学級編成の基準を1クラス35人にするというのですが,私が第一に感じたのは「追加で必要になる教員の人件費は誰がどうやって負担するのだろう」という不安でした。
義務教育については国がその提供について責任を負うためその経費の二分の一を国が負担していました(残りは都道府県が負担)が,小泉内閣の進めた国と地方の行財政システム改革,いわゆる三位一体改革で国から地方への税財源移譲の見返りとなる国庫補助金改革の一環として国負担が二分の一から三分の一に減っており,地方交付税で基準財政需要額の中に含まれているとはいえ,義務教育に係る財政負担は国よりも地方のほうが多い状況です。
教員の人件費はこの負担金の中に含まれており,教員人件費を増額するようなサービス拡充を行えばその人件費増加額の三分の二は地方の負担増になるのですが,地方はそれだけの負担ができるのだろうかという懸念です。
ところが報道では,今回の「少人数学級」導入では,少人数学級のために教員を新たに増員するのではなく,学級数や児童生徒数に応じて決まる「基礎定数」を増やすために,習熟別指導などの特別な目的で追加配置を認めている「加配定数」を振り替えることで追加の財政支出を抑えるということのようで,国,地方ともに財政負担の懸念は解消されたのですが,新たな疑問がわいてきました。
現場レベルでいえば,学級数が増えて担任を持つ先生の数は増えるけど,その分特別な授業などを担当する先生が減る,あるいは学級担任と兼務することで対応するので先生の総数は増えないってことですよね。
これは教育の質の向上になっているのだろうかという疑問です。
投入する財源は同じで,教員の人数が同じであれば,加配で実施している特別目的の教育への財源投入を避け,その財源を学級担任という基礎的な教育に振り向けるというトレードオフになっているわけで,このことについて「少人数学級」という看板を掲げているのであれば,それは本当に文科省の「悲願」だったのか,教育関係者の待望したものだったのか,私は門外漢なのでわかりませんが腑に落ちないのです。
もう一つ疑問に感じたのは導入の方法です。
今回,文科省と財務省が合意したのは,来年から5年間かけて,1学年ずつ導入していくとのことですが,これには導入の円滑化を図るということだけでなく少子化でそもそも学級数が減り,基礎定数に基づく配置要員数が減少していくという中で,その当然に減少する定数を少人数学級導入に基づく基礎定数の増加分に振り替えたいという思惑があるようです。
ということは,「少人数学級」とは本来減らそうと考えていた教員の定員を減らさないということであって,国として教育サービスに投入する財源を増加させるということではないのだということです。
まあ,全国押しなべて総児童数を分母にして一人当たりに直せば教育にかける予算は増加することになりますが,これも羊頭狗肉感が残りますよね。
私が言いたいのは「少人数学級」そのものの是非やその実現に際して今回執られる手法の当否ではありません。
もちろん,このテーマで尽力されている関係者の方々のご努力には敬服しますし,これがスタート地点でここからさらなる拡充をとお考えの方々がおられることも承知しています。
そのうえで私が言いたいのは,私たちが「少人数学級」という「政策」の目的と手法の関係性についてどれだけ理解しているか,それは文科省や財務省が理解し,今回合意した内容と同じなのかということです。
ひょっとしたら,文科省と財務省との間でも理解に齟齬があり,今後,実施段階でまたひと悶着あるのかもしれませんし,義務教育国庫負担金の地方負担分に係る地方交付税の議論も今後惹起される可能性があり,総務省も加わった三つ巴の戦いになる,同床異夢の結論のように思えてならず,私はとても諸手を挙げて喜ぶ気になれないので,そもそも「政策」というものをどうとらえ,どう理解し評価すべきか,ということを問題提起させていただいた次第です。
皆さんも,国や地方自治体が新たな政策,施策を誇らしげに謳うときは少しだけ立ち止まって考えてほしいと思います。
「それって具体的に何がどうなるってこと」
「それは誰がどうやってお金を出すの」
「そのお金がその政策,施策に回ることで何かが削られているんじゃないの」
そこまで理解できて,それでもその政策・施策に賛同できれば,その時は喜んでいいと思うのですが,そうでないときは見栄えのいい看板に騙されることなく,その中身をしっかり確認し,自分が評価できる内容かを考える癖をつけてほしいと思います。
こういう話をすると,そもそも教育現場が抱える様々な課題をあげつらい,少人数学級だけですべてが解決するわけではないと主張する方がおられますが,私はそういう方に与するわけではありません。
教員の時間外労働や非正規教員の正規化など,少人数学級によって解決されることが期待されている課題については,課題を明らかにしたうえでそれはそれとして何がどうなることが望まれ,それはどのような手法で実現されるべきかを議論し,それが少人数学級の導入によって解決できる部分があるのであれば,その目的の達成についても具体の制度設計の中で取り込まれるべきでしょうが,あくまでもそれは別の問題です。
また,少人数学級の導入により教員が確保できるのか,あるいは教室の増改築が必要になるとの議論も今回は触れていませんが,これは政策の実現にあたっての課題であって,実現困難な課題が横たわっていることが明らかであればその課題解決の困難性もまた政策実現の手法の評価としては必要になりますが,政策そのものの目的と手段の合一についての議論とは切り離すべきものでしょう。
国の予算案についてはほかにもいろいろと言いたいことはありますが,ここは政治,政治家,政党について意見を述べたり個別具体の政策を批判したりする場ではありませんので,自治体財政を理解するうえで必要な視点の一つとして,「政策とは何か」ということについて,少人数学級の話を例えにお話ししました。
自治体関係者の皆さんにおかれましては,過去に投稿した「その道のプロとして」「風が吹けば桶屋が儲かる」あたりもご参照いただき,「政策」というものへのリテラシー(読み解く力)を鍛えていただけたらと思います。
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