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バラマキのどこが悪い

困ってる人にお金を配るのは当たり前
どこまで配るかいくら配るかの線引きなんて
誰かが踏ん切りつけるしかないだろう
あんたは正解を持ってるのかい
#ジブリで学ぶ自治体財政

総選挙で各党が公約を掲げ争った,コロナ禍で疲弊する国民への経済支援施策に関して政権与党合意が報じられています。
18歳以下を対象とする10万円相当の給付については所得制限を設けることでバラマキ批判を回避し,一方で18歳以上についても困窮学生への給付金を別途制度創設することとされました
また,昨年の全国民10万円現金給付が貯蓄に回り,消費による経済刺激につながらなかったとの批判を受け,現金と期限内しか使用できないクーポンを併用することになりました。
まさに自公両党がそれぞれ掲げていた公約を足して二で割ったような「落としどころ」にたどり着いたわけですが,早速「バラマキ」との批判めいた意見も噴出していますが,この「バラマキ」批判は的を射たものなのでしょうか。

私は以前,バラマキについてこんな記事を書いています。

では,今回の自公合意に基づく給付は「バラマキ」なのかどうか。
国民にお金を配ることがすべて「バラマキ」なのであれば,生活保護や年金をはじめとする社会保障の仕組みはすべて「バラマキ」との批判を受ける羽目になりますが,さすがにそういう声を上げる人はいないでしょう。
肝心なのは,何のためにお金を使うのか,その目的は我々が実現したい事柄か,その目的達成のために選択する手段が適切かといった政策への評価です。
今回合意された給付の政策,施策としての目的はなんでしょうか。
その目的はこの給付によってどのように達成されるのでしょうか。
その目的はほかの方法によっては達成できないのでしょうか。
その目的を達成する他の方法と比較し,最も効率的,効果的なのでしょうか。
その目的が達成されたことをどの指標で測定するのでしょうか。

私は財政課で予算査定の現場に長く携わっていましたが,常に予算要求を行う現場に対して同じ問いを投げかけていました。
「何がどうなることを期待してるの?」
「それって、誰が求めてるの?」
「それって、俺たちがやらなきゃいけないの?」
「で、それってホントにうまくいく?」

「うまくいく」というのは期待通りの成果が得られるということ。
期待している成果とは何がどうなることなのか。
定義しておかないと、その変化したことを測定することができないと、うまくいったかどうかわかりません。
「うまくいく」ためには、その事業で直接的に働きかけるものが、どう社会に波及していくかその展開について論理的な筋道が必要です。
風が吹けば桶屋が儲かるというような偶然やこじつけの三段論法は通じません。

今回,政府はこの給付で何を実現しようとしているのか。
実現しようとしている社会の姿に対して給付がどのように影響を与えるのか。
その影響は給付の目的,期待する効果と明らかな因果関係を持つのか。
給付によって解決しようとしていた課題はどの程度解決するのか。
その解決の程度や確からしさに比して,その給付に必要な予算額は適切か。
政策を立案し実施する者が自らこのロジックモデル、論理展開を公言し,課題解決の道筋を国民に約束すれば,これを誠実に履行する必要が生じます。
現金を給付することは政策の実現手法であって,政策が実現する社会の姿を描いたものではありません。
政策立案時に実現したい未来,ありたい姿を提示し,その実現に向けて適切な手法を提案する。あらかじめこれらのことが示され,議論され,多くの人が納得しておけば,政策を正しく評価することができます。

今,バラマキ批判を展開する野党やマスコミに欠けているのはこの部分。
現状のどの部分を課題として認識するのか。
それをどのように変化させるべきか。
それはどのような手段を採るべきか。
目的を明らかにし,その手法との因果関係の道筋を立てれば,具体的な手法やその対象もおのずと絞られてくるでしょう。
どうすれば批判に耐えられるか,どうやって両論を足して二で割るか,といった駆け引きではなく,政策が成し遂げようとしていることをあらかじめ示し,事後に正しく評価する道筋を政策決定時の議論で明らかにすることが,今,最も重要なことなのです。

たぶん,公党が公約として掲げて国政選挙で戦う以上,それぞれの施策事業の目的と手法の整合性や,手法そのものの妥当性については,各党で議論されているはずですが,それがどこまで私たち国民に伝わっているのか。
国や自治体の政策のなかには「良好な」「適切な」「積極的に」といった定性的な語句で飾られたポエムのようなあいまいな目標水準を掲げ,「推進する」「目指す」「図る」などその到達を名言しない逃げ道を用意しているおかげで,目標達成について定量的に測定評価しないで済ませるという例が見られます。
そうやって評価があいまいなことで,やり方も体制も投入資源も見直されず,粛々と「やるべきことをやるだけ」が継続されるという例も散見されます。
今回の事案も政策というものが持つそういう負の側面にもっと目を向けるべきではないでしょうか。

そもそもこういうバラマキ施策は他人のお金だと思っているものが自分の懐に入るという個人的な損得勘定のおかげで国民の政策への評価,判断を鈍らせ,その結果,市民は政策に対する評価を十分に行わず「自分がもらえるならいい」と短絡的な判断をしがちです。
そうであるがゆえに,この手の施策は通常の政策,施策事業以上に客観的な評価軸を示し,他の手法との比較,他の施策との優先順位付けなどができるようにしたうえで,「自分がもらえて得だから」というような近視眼的,利己的な判断を国民がしてしまうことを避け,施策の目的やその実現手法,成果指標などについて十分に市民が議論し,共有し,判断できるようにしなければいけません。

報じられているような「給付=バラマキ」という脊髄反射のような批判ではなく,給付を行うべきと発意するに至った背景や課題とされている現状の客観的な把握と共有,その現状をこの給付でどのように状態変化させる論理展開(ロジックモデル)になっているのかを,政府与党に説明を求め,明らかにしたうえで,政策実行後に実際に期待通りの結果になったのか,その成果について国民自身が確実に検証し評価できる道筋を作っておくべきだと私は思っています。

政策は未来のありたい姿を実現することが目的です。
やること(to do)を約束するのではなく、未来のありたい姿(to be)とその道筋を示すこと、そしてその道筋を誠実に真摯にたどり、その姿勢を国民に見てもらうことが政治も行政にも求められているし、その政治や行政の姿勢、ありように市民が共感して政治家に投票し政府,自治体に納税する、そんな世の中にならなければと思います。

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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
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