貯金はどのくらいあればいい?
新型コロナウイルスの対策費に充てるため,多くの自治体が,過去の決算剰余金を貯めている「財政調整基金」を取り崩しています。
都道府県単位で言うと,42都道府県で計1兆円を取り崩し,総残高は前年度末に比べて58%も減少したとされています。
最も多く取り崩した東京都の取り崩し額は8521億円。
これは福岡市の一般会計の予算規模に匹敵する額です。
これだけの基金残高が積みあがっていたということも驚きますが,今回の取り崩しで残高を一気に9割以上減らしているとのことですから,コロナの第二波対策など,次に何か大きな財政需要があったときに大丈夫か不安という声も聞こえてきます。
今回のコロナ対策でクローズアップされたこの「基金取り崩し」ですが,こんなに取り崩して,自治体の財政は大丈夫なのでしょうか。
そもそも自治体には,どのくらい貯金があればいいのでしょうか。
地方自治法が定める「会計年度独立の原則」に立ち返って考えてみましょう。
地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあります。
いくつかの例外はありますが,原則としてある年度に必要な支出の財源は,同じ年度内の収入で賄うことになっています。
年度の総支出は総収入を上回ることができず,しかも国と違って地方自治体は,支出が収入を上回る場合の赤字を補填するための借金も禁じられていますので,入ってくるお金の範囲内でしか支出ができないのです。
今回,各自治体が取り崩した「財政調整基金」は,毎年度の収入と支出の差額である「決算剰余金」を積み立てたもので,将来,何らかの財政需要が発生したときに取り崩し,その年度の収入として使うことができる,年度間の財源調整の役割を果たすものですが,特に使途を明示することなく積み立てるため,あらかじめいつまでにいくら貯めておかなければいけないという性格のものではありません。
従って,今回のコロナ対策のような不測の事態の際に取り崩すお金があったということは非常に幸運なことですがそれはあらかじめ目標を定めて積み立てていたものではなく,収入の確保や支出の節減などの努力により過去の決算において黒字を確保できたこと,その積立金があったおかげで使うことができたという,これまでの財政運営の結果でしかないということです。
では,コロナの第二波,第三波が来たらどうするのか。
不測の天災により多額の経費が必要になったらどうするのか。
それは,どのような事態になったとしても,「会計年度独立の原則」に立ち返り「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てる」しかない。
つまり,基金などの調整財源がなければ,限られた収入をより優先順位の高い経費の支出に充て,その結果,優先順位の低い施策事業が淘汰され,廃止や見直しを余儀なくされていくということ。
それは,通常の予算編成における施策事業の取捨選択と何ら変わりはないのです。
それでは不安だという人もいるかもしれません。
しかし,逆にどれだけ貯めていても安心ということはありません。
あまり将来の備えのために貯金をすることに躍起になって,現在の住民サービスをおろそかにすることは,現在納税している方から本末転倒だと怒られてしまうかもしれません。
毎年度の収入に限りがある中で,現在の住民へのサービスの質を維持しながらどのくらい貯めることができるか,貯めておくべきか,はそれぞれの自治体で首長,議会,市民一人ひとりが考えるべきことになります。
ただひとつ,財政調整基金についてこれはまずいと思われる事象があります。
それは,毎年度の決算で得られる剰余金の積立額よりも毎年度の取り崩しが多い,つまり基金の残高が減少することが毎年続いている場合です。
臨時的な支出があった年度に,その年度の支出が通常の年に入ってくる収入を上回ることはあるかもしれませんが,それが毎年続くとなるとどうでしょうか。
家計に例えてみれば簡単です。
毎月の収入が30万円しかないのに毎月50万円の贅沢な生活はできません。
毎月決まった収入が30万円の人は,毎月必要な経費は30万円の範囲でやりくりしないといけないということです。
それを貯金があるからと言って,毎月取り崩して食費や家賃など毎月必要なランニングコストに充てていけば,貯金がなくなった時点でその生活レベルを維持することはできなくなります。
あなたの自治体は,毎年いくら貯金を貯めることができているか,つまり毎年どのくらいの収入を余らせることができているのかを過去の決算を見て確認してください。
今回取り崩した額をどのくらいの期間で復元できるかは把握できると思います。
逆に,すでに毎年収入が足りなくて貯金を取り崩しているのであれば要注意。
コロナの第二波があろうとなかろうと,数年後には相当大幅な事業の見直し,削減をしなければ予算を組めなくなるかもしれません。
コロナで税収減が見込まれるなか,その日がすぐにやってくるかもしれません。
「予算が余ると怒られる」なんてこと言ってないでしっかり節約し,決算剰余金としてコツコツ貯めていくことが,将来の財源を稼ぐことになるのです。
★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
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