稼ぐ自治体と言うけれど
少子高齢化,人口減少による税収の減,社会保障費の増加や公共施設の老朽化による経常的支出の増加により,多くの地方自治体の財政運営は危機に瀕しています。
そんな中で近年よく耳にするのが「稼ぐ自治体」という言葉。
収入が減る中で支出が増えてお金が足りなくなるのだから,もっと自治体独自の収入を増やさなければ,と地方自治体も「稼ぐ」ことに目を向け始めました。
土地建物等の遊休資産の売却や貸付に始まり,ホームページのバナーや広報誌の一部紙面にとどまっていた民間企業広告も,庁舎の壁面やエレベーターの扉,役場から届く封筒にまで掲出されるようになりました。
公共施設には民間企業の名前を冠するネーミングライツ,果ては歩道や公園の花壇,街路灯の維持管理にも協力企業の名前を表示するアダプト制度など,ありとあらゆる分野で民間からお金をいただき自治体の稼ぎとする仕組みが導入されています。
これまで予算を使うことしか頭になかった公務員が発想を転換し,自分で使うお金を自分で稼ぐということを通じて,お金の大切さを理解するようになったことはかつて地方自治体の財政運営に携わっていた者としてとてもうれしく思いますが,財政課を離れてここ数年の私の経験を踏まえると,もう一歩,二歩踏み込んでいただきたいという気持ちを強く持ちます。
一つは「民間からお金を出してもらう」のではなく「民間の手を借りる」という発想。
私はよく「人のふんどしで相撲を取れ」と言っています。
財政課を卒業して4年間,経済畑でいろんな企業さんや大学,NPOの方々と一緒に仕事をさせてもらいましたが,本当にたくさんの人のふんどしをお借りいたしました(笑)
例えば,セミナーをやるにしても,大学と組めば校舎を無償で使わせてもらえる。
広く市民・企業向けのキャンペーンをやるのであれば,関係する分野の民間企業と組めばその企業の販促費や営業のマンパワーでご協力いただける。
事業の目指す目的が一緒であれば,役所だけでやらずに民間企業や大学,NPOなどの団体の協力を仰ぎ,協力を得ることで,役所に予算がなくても事業費もその事業に携わるマンパワーも増えますし,事業で得られる効果の波及も大きくなります。
そのかわり当然ですが,彼らが協力し,自分たちのリソースを提供してでも協力したいと思ってもらえる枠組みを準備することが必要ですのでそこは汗をかきましたが,そういう関係の構築や利害の調整を行う中で,役所の論理だけでは通用しない民間の経営感覚を肌で感じ,事業の成果だけでなく知識経験ともに得るものがたくさんありました。
その中で先ほどの「稼ぐ自治体」についてさらに感じたことがあります。
それは「稼ぐ自治体」ではなく「稼ぐ地域」を作らなければいけないということです。
税収が減るから自治体として代わりの収入を稼がなければというのは非常に短期的なもので,即効性はありますが持続性や発展性はあまりありません。
やはり,税収が減るのであればその税収そのものを増やす努力,すなわち産業振興や雇用創出などの経済政策に力を入れることが王道だということです。
しかしながら,公共政策として行う産業振興というのは,どこか机上の空論のようなふわふわしたものが多く,役所が決めた規定演技の採点は高得点でも「それってホントに税収増につながったの?」と首をかしげたくなる施策も全国に数多くみられます。
私自身も反省するところですが,我々公務員はそもそも自らリスクをとって投資にチャレンジするということの経験値が極めて低いですし,その経験値を高め,ノウハウを蓄積していく育成の仕組みも持ち合わせていません。
であるならば,我々公務員だけに経済のことを考えさせたり,任せたりしてはいけないのではないか。
我々自治体職員はもっと,民間事業者が日々の経営環境変化をどう感じ,何に挑戦しようとしているのか,何がそのチャレンジの壁になっているのか,を聞き,知り,一緒に考えることが必要なのではないか。
その中で,民間事業者が自ら得意分野として行っている「稼ぐ」ということを,公共的な立場からどう応援するかを考え,実践することが「稼ぐ地域」を作ることになるのではないか。
経済振興系の業務に携わっていなくても同じです。
どうやったら民間事業者の手間にならないように簡素な手続きで済ませるか。
どうやったら市民一人ひとりが働きやすい生活環境を作ることができるか。
どうやったら子供たちに自分のまちで働くことを選んでもらえるか。
「稼ぐ地域」をつくる上で地方公務員として考えること,やるべきことはたくさんあります。
また,異動でいつどんな職場に行くかわかりませんので,その時が来るまでに心の準備をしておくことも大事です。
公務員は役所の外で起こっている経済活動やそこにいる事業者の実情をもっと知らなければいけないと思います。
地方自治体の収入の根幹をなす税収は地域の経済活動によって支えられ,それは役所の外で働く地域の皆さんによって支えられているのですから。
★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
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