Episode#3 シドニーべシェが教えてくれたこと(1946)
私の敬愛するサックスプレイヤーであるボブウィルバー氏(1928-2019)の自伝"MUSIC WAS NOT ENOUGH " by Bob wilber を読んで、印象に残ったエピソードを紹介します。
今日は前回の続き。ソプラノサックス の名手シドニーべシェのところに入門したボブは何をどんな風に学んだのか?
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べシェがまず出してきたのは”Raggin' the Scale"という曲で、退屈なスケール練習を楽しくやるための教材だった。
べシェのレッスンは、音楽理論のバリエーションを増やすこと、そしてスウィングすること、とにかくこの2点に特化したもので、
「頭の中でリズムを刻み、それに対してスゥイングするんだ」と、べシェはいつも口を酸っぱくして言っていた。
レッスンの時、べシェはピアノのスツールに腰掛けて、足で4/4でカウントし、自分の膝を手で叩いて”ting-tink-te-ting"というシンバルのリズムを刻んだ。それから、べシェ流の曲を解釈するための方法を説明し始めた。
1つの曲があれば、
まず、メロディーを辿って、その美しさを引き出すこと。
それを基本として、次は、メロディーをフェイクし、そのバリエーションを増やすこと。
それが出来たら、そのバリエーションをメロディーから徐々に離れた形に展開させること。
曲が最後のテーマ、あるいはコーダに行き着くまでに、調和の取れた新しいメロディーを生み出すこと。
これが、1つの曲をストーリーとして伝えるためのべシェ流のやり方だった。
さらに、
・曲をストーリーとして伝えること
・聞き手の注意をグッと引き付けること
・曲の最高のエンディングに向かって、自分で自分を興奮の上昇曲線に乗せること。
この3つが、べシェの音楽のクレドであった。べシェは練習も含め、楽器を手にするときはいつも、このことを強く胸に抱いていたそうだ。
べシェの鋭いビブラートは「Pay attention!」すなわち、聞き手の注目を一瞬で自分に集めるためのコマンドとして機能していた。
ボブは、べシェがそのコマンドを実行することで、とても騒がしいナイトクラブを一瞬で恭しい静寂へと変えてしまうのを幾度となく目にした。
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ここから感想。
ボブを指導するにあたっての、べシェの信条にフォーカスした内容になりました。(べシェの教えの部分、正しいニュアンスで訳せたかな…。)
Raggin' the Scaleは譜面が落ちていたので、私もやってみました。とりあえず陽気で楽しいけれど、これをべシェとボブはどう使っていたのだろう、というところがもっと知りたい。やはり全キーでやっていたのかな〜。
ジャズのスタンダードには失恋ソングって多いけれど、演奏する人によって、物凄くネチネチした超未練がましい曲になったり、振られちゃったよーワハハ、みたいなカラッとした曲になったりと、人によって全然違う雰囲気になるのが面白いのですよね。
でも楽器を演奏する人は、曲を歌詞から解釈して、上に書いたみたいな演奏のスタイルを決めるということはやってはいないのではないかな。(やってる人もいるのかもしれないけど)
べシェの教えの内容を踏まえると、曲のテーマを最初に辿ったときに、どう感じるか、何を感じるか、どう吹きたくなるのか、というのが演奏する人によって違うということで、それをじっくり吹いて考えることが曲を解釈するということなのかな。
とりあえず、私も、テーマのメロディーがもつ美しさを最大限に引き出せた!(=よく歌えた?)と思うまでメロディーを吹き込んでみようかな。
上でリンクを貼ったウディ・アレンの”Midnight in Paris"の劇中歌”Si tu vois ma mere"(もし貴方が私の母に会ったなら)もとても甘美なメロディーでうっとり。私も聴きながら古き佳き時代のパリにタイムスリップしたい。
べシェは音楽理論にも長けていたようですよ。その話は次回書けるかな。
ありがとうございました。