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映画『母性』を観たら、他人事のようで自分事だった

「立場」

誰かの「母」だって誰かの「娘」で、その表現は向かい合っているまた別の誰かが、その人の視点から示すことだと思うんですが
本人はきちんと「(私は)母であり娘だ」とその「立場」を受け入れ、物事を歪むことなく捉えられる…それが当たり前なんでしょうか。

お母さんって、子どもを産んで自動でなるかもしれないけど、それって精神的な面の話じゃないですものね。
保育士をしているときも、そんなお母さんたちの悩みを聞くことも多かったなと、ふと思い出したのでした。

ゼロスタートの怖さ

産んだら「お母さんパーツ」みたいなものがゲームみたいにパパーンって手に入るならいいんですけど(お母さんパーツ例:赤子を育てる知識と応用力・精神力・忍耐力・体力・寝なくても大丈夫な白魔法ほか)
基本は、子どもが生まれてお母さん初日でお母さん経験値0、なんなら出産でHPも0からスタートするわけですよね。テキストにすると改めて、本当に過酷だなと。

それで、お母さんになった途端に、生活の景色が全て変わってしまって、自分のこれまでの日々のルーティンなんて全くできずに赤子パワーでぶっ壊されてしまったりします。
お父さんとの意識の差がそこでグンって開くことも多くて、すれ違いも多くなるのも、よく見ていました。
「(世のお母さんは)みんなこれができてる、みんなやってる(はずだ)」みたいなプレッシャーも感じたり、SNSで他人と比較しては落ち込んだりする人も多かった気がします。
守らなきゃいけないという責任感から視野も狭くなったり、過敏になってしまったり。。。
書き始めるといっぱいあるのでこの辺で止めておきますが、妊娠を機に色んなものをゼロでスタートするって、見えない不安や先の長い将来に対して、かなり大きな試練だなあとあらためて思うのです。

という余談でした。ほぼ映画には関係ない。関係あるようで関係ない話。

タイトル「母性」

『母性』
これも自然にいただけるものでは当然ないですし、「本能」のようにすべての女性に生まれつき備わっているわけでもなくて、妊娠や出産、はたまた育児という体験の中で「芽生える」もので、タイミングや強さも人それぞれと言われています。

そう、人それぞれなんですよね。これがこの映画の答えそのものだと思いました。

というわけで観てきた映画はこちらです。

noteクリエイター特別試写会にご招待いただきました。ありがとうございます。
コロナ禍で、映画は配信で観るくらいで、劇場で観たのは数年ぶりでした。

公式サイトのABOUT THE MOVIEでSTORYに書いてあるようなことを事前に読んでいってたので「久々の劇場映画で重いかなあ」とサスペンスやホラーの可能性も担いで行ったところ、全然違ったので、そこで留まってしまっていた方は一旦リセットして観たほうがいいかもしれないです。

簡単にいうと、STORYの煽りには「事故か、自殺か、殺人か」とか「事件」とか「女子高生が遺体で」とか書いてありますけど、見た目的なグロテスクは全くないですし、そういうの苦手な人も多分大丈夫と思います。湊かなえ先生の映画『告白』ともまた全然違います。

ただ、育ってきた環境で、自分と大きく重なってしまう人が観ると、かなり過激に心を揺さぶられてしまうかもしれないな、と映画を見終わってしばらく経った今も思うので、心理的残酷さは結構あるかな…と。はい。

映画の感想

娘(母親から愛される立場)であり続けたいまま子どもを産んだ母親と、その母親から愛されたい娘。
豊かな母性に包まれる、そのあまりの居心地と温さが真綿となり絡まって、その立場から精神上絶対に離れることができないでいるのに、その本人の成長速度と感覚を無理やり引きちぎるような出来事が起きて、その渦中にいた対象への嫌悪感はコントロールできないところにまで到達する。
一見突き抜けた出来事のように思えるけど、映画が進めば進むほど、その現実味や、途中経過がいかに未来への影響するか、いかに身近なものであるかを考えさせられました。

そのほかにも割と身勝手な登場人物がさまざまに出てくるんですが、ほぼ全員に対して「憤り」と「同情」が両立するような不思議な感覚があるんです。
作品としてそれぞれの人物の「長年の時間」と共に変化するもの、芽生えるもの、揺らぐもの、無くなるものなどが約2時間の中で事細かに描かれていて、見終わった後は妙な爽快感というか、ちゃんと私の中でも時間が経過していて経験の一部として落とし込まれたような、腹に落ちる感触があって。
その感覚が「おもしろー!」と思って、とても良かったです。

キャストについては、主演の戸田恵梨香さん、永野芽郁さんをはじめ、大地真央さん、高畑淳子さん、そのほか脇役まで幅広くベストマッチしてて、華やかなのにリアリティがあってめちゃくちゃ良かったです。
あとは表情のインパクト。廣木隆一監督の表情の切り取り方がとても好きです。あと「何この画角」ってシーンがほとんどない。無駄がない。
だからちゃんと2時間であんなに綺麗にまとまるんだなあ。

(独り言)
一箇所、ホラー映画かのように「ビクッ」としてしまったシーンがあって、あそこ、なんであんなにビクッとしちゃったんだろう、って気になっててそれを確認するためにもう一度映画館に行きたい。監督の狙いで、音のサイズ感とか見せ方とか、ドキッとさせる仕掛けがあったのかもしれないしなかったのかもしれない。単純に不意をつかれただけかも。いやそんなことないなあの行動予想できてたもん、なのになぜ…うーん面白い!

他人事のようで自分事だった

いつまでも娘でいたいって感覚はわかるんですよね。
私も愛して育ててもらったから、母や父といつまでも一緒にいたいし。まだまだ愛されたいし、愛を確かめたいし、娘として甘えたい。

ほら、このテキストだけでちょっと怖い。多分、めちゃめちゃ素直な文なんだけど、えっ?大丈夫?っていう違和感と狂気があるんですよね。これのもう少し踏み込んだフルアクセル版で、十分にこの「母性」の登場人物になるなと思うんです。

老若男女問わず、この映画を見て、きっと色々なことを感じると思う。その感じたことを、身近な人への思いやりに変えてほしい。「不足」してるな、って部分をちょっと補ってあげられるか、そんな優しさで誰かは救われるかもしれないね。そんな簡単なことではないかもしれないけど、あながち間違ってないかも。

そんなわけで、映画「母性」良かったらぜひ劇場でご覧ください。

owari.








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