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【東京工業大学1990年度前期入試数学第2問】情報理論の匂いがする…

前回は東工大の今年度入試問題を酷評したので、日をあまり開けずに同じ東工大から1990年度前期入試の第2問を取り上げました。こちらも難しくはありませんが、いかにも東工大らしい問題です。

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東京工業大学 本館
2011年5月19日、03撮影、Wikipediaより

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この誘導形式の小問のないシンプルさが東工大らしい問題です。

誘導はないですが、まず最初は何も考えずに左辺から右辺を引いて式変形するでしょう。

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ここまでは特に難しさはありません。強いて言えば、k に Σ の式を代入しているところが変則に見えるかも。でも、すぐには思い浮かばなくても、不自然というほどではないので、いずれ出てくる一手かと思います。

問題はここから。ノーヒントで次の議論が思い浮かぶでしょうか?

正数 x に対して

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とおくと、

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であるので、f(x) は x=1 のときに最小となります(増減表は省略しています)。ここで、f(1) = log 1 - (1 -1) = 0 であるので、f(x) ≧ 0 すなわち、

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が得られ、

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となります。すなわち、

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が証明されました。(等号は xi = k/n (i∈{1, 2,..., n}) のときに成立。)

(東工大入試では log は自然対数であることに注意。ただし、今回の問題は1より大きい底であれば、底の変換公式を使うことでどのような対数でも成立します。)

東工大の入試では

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みたいな不等式を自力で持ち出す必要があります。逆に、これが与えられたらつまらない問題になります。当時の東工大では入試にならない。あくびが出るほど簡単すぎて。

今回の不等式の他に、 log x ≦ -1 + x や e^x ≧ 1 + x はときどき利用されるので覚えておいた方がいいと思います。基本です。

とはいえ、すべての不等式を覚えておくことはもちろん不可能です。そんな中で自在に不等式を仮定して、証明して、使うことを強いるのが東工大の入試です(でした)。

東工大の極限の問題ではさみうちの原理を使う問題が多い(多かった)のですが、ここでも誘導なしで自力で不等式を見つけて証明していかなければいけません。

仮説を立てて、立証するのは科学の基本です。それを数学で問う、以前のような問題を復活させてほしいものです。

さて。

タイトルにある「情報理論の匂い」ですが、今回の問題を見て情報のエントロピー(平均情報量)を思い浮かべるのは考えすぎでしょうか?

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今回の問題で k=1 として両辺を -1 倍すれば左辺はそのままエントロピーとなります。右辺はその最大値。ですので、今回の問題はエントロピーを一般化したと見なすことができます。

逆に、エントロピーは pi が等確率であるときに最大になるという事実を用いると、

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となるので、最後の部分を変形すると、

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となって、今回の命題が証明できます。ですので、エントロピーについての事実と今回の問題は等価であると言えます。

今回の問題は難易度は高くはないですが、背景を考えると非常に興味深く、面白い問題です。出題者の背景に情報理論があるのかないのかは定かではないですが、あったとしても不思議ではないと思います。

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