一杯を味わう
ときどき行きたくなるカフェがある。
普段家では何杯もおかわりして飲んでしまうコーヒーや、ポイポイ口に放り込んでしまうチョコレートをここでは一口ごとに大事に味わいたくなるのだ。
私は何を飲んでも食べても大体美味しくいただけてしまう。なので感想がいつも「美味しかった」になってしまう。食レポ向きではない。
ごくたまに、苦手な風味のものに遭遇したときは「石油のにおいがする」「これは消毒薬のような風味」と感じることはある。次の一口が恐る恐るになるのでゆっくり味わうことになってしまう。できれば美味しいものに出会ったときこそ香りや食感、風味、味などをゆっくり味わいたいのに、そのときは逆に「美味しい美味しい」とぱくついてしまうのだ。
そんな落ち着きの足りない私だが、このカフェでコーヒーを飲むときは本当にゆっくり味わっている。自分で感じたことを表現するのは難しいけれど、「こんな香りがします」「次に感じるのはこんな風味です」「だんだんこんな味に変わっていきます」というふうに説明されると、コーヒーの中にみかんの味を探したり、花の香りを見つけたりすることができる。一口にとても集中して、五感を総動員して私はコーヒーを飲みチョコレートを食べる。それをしていると瞑想をしているように心が落ち着いていく。
店を出る頃には頭の中が静かになっている。
そんな感覚が好きで私はそのカフェへ1〜2ヶ月に一度くらい行っている。
バーで美味しいお酒を飲むときもこんな感じかもしれない。
○○のような余韻があるお酒。
こんな風に自分で表現できれば、目に見える形で記憶に残らない味を覚えることができるのかもしれない。
けれど、家族や友人におすすめするときの表現が「コーヒー豆のフレッシュジュースや〜」になってしまうところは相変わらずだ。
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