創作|ラブレター
実に冴えない学生生活だった。
学校からの帰り道、聡太は両手をポケットに突っ込んだまま、秋の風に吹かれながら家路を急いでいた。
「さぶっ」
夕暮れ時の秋風は、昼間のそれとは違い、もの悲しく、痩せた聡太の身には冷たかった。
やがて冬が来て、春になり、3月には卒業だ。
大学には行かない。
特にやりたいこともない。
卒業したら、とりあえず爺ちゃんの手伝いでもしようと思っている。
爺ちゃんちは農家だ。
郊外の小さな畑で野菜や花を育て、道の駅なんかに卸している。
小さい頃からそんな爺ちゃんの姿を見てきたから、案外自分にもできるような気がしている。
実際に爺ちゃんの育てた野菜は美味い。
*
次の角を曲がればもう家だ。
「さぶっ」
聡太はもう一度身震いした。
と、その時。
「あの!」
女の子が飛び出して来た。
角から。
驚く聡太。
「あの、これ!」
女の子は小さな封筒を聡太に押し付け、風のように去って行った。
見覚えがある。
たしか一年の時にクラスが一緒だった松本カンナだ。
とりあえず動揺した。
角を曲がれば家はすぐそこだ。
「どうしよう……」
聡太はその場で封筒を開けた。
中から小さな紙切れが一枚出てきた。
手のひらに収まるくらいの小さな紙。
聡太は思わずそれを食べた。
ただただ驚いて食べた。
誰にも知られたくない。ましてや家族になど。
*
昨日のことは夢だったのかも知れない。自分なんかのことをずっと好きだったなんて。松本カンナが?俺を?
などと考えながら廊下を歩いていた。
「あの!」
ハッとして顔を上げると、松本カンナが立っていた。
彼女は小さな紙を聡太の胸元に押しつけ、またすぐに走って消えた。
教室は目の前だ。
聡太は思わず読まずに食べた。
その小さな紙切れを。
*
そんな日々が続いた。
学校でも、あの曲がり角でも。
その度に聡太は食べた。
小さな紙を、読まずに食べた。
*
ある朝目が覚めると、聡太はヤギになっていた。
「メェ!?」
鏡を見て驚いた聡太は、そのまま駆け出し、爺ちゃんの畑に向かった。
「メェーーーー!」
*
走って来たヤギを見て、爺ちゃんは全てを察した。
「聡太か?」
「メェ、メェ、メェ……」
聡太はカンナからもらったラブレターをたくさん食べてしまったこと、自分がヤギになってしまったことを爺ちゃんに伝えた。
「大丈夫だよ、聡太。
そもそもヤギは紙は食わん。
ほら、うちの畑の草を食べるといい。
ちょうど雑草に困っていたところだよ」
聡太は草を喰んだ。
そしてムシャムシャと反芻した。
「ゥメェー!」
*
翌年の3月。
卒業式に聡太の姿はなかった。
(1035字)
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