見出し画像

兄とマカロニほうれん荘

2つ上の兄がいる。
兄とのエピソードにエモーショナルなものはない。

あ、エモい話はこちらです↓

兄は長子だったから、なにかと優遇された。
親にとっては初めての育児だったから、正解がわからず、手探りだったのだろう。
それは自分が親になってとても実感している。
さらにうちは一人っ子だから、未だにいつも何でも初めてで、一生学べないでいる。


古い写真を見た。
兄は得意げに三輪車に乗っており、その横で私はカタカタを押している。
木製のカタカタ。
正式な名称はわからないが、手で押して遊ぶもので、進むたびに5つほど並んだひよこだかニワトリだかが、ランダムに一匹ずつ飛び上がるのだ。
早く押すと、カタカタカタッと積み木のような音をたてて、ひよこだかニワトリだかが、爆速で飛び上がっては引っ込む。それだけのものだ。

のちに母が言うには、兄が三輪車で遊ぶのを見ていた私は
「ふぐ子ものりたい」
と言ったらしい。
でも兄は貸してくれなくて、母は
「ふぐ子はこれにしようね」
と私を諭したようだ。
駄々をこねることもなく、カタカタを押して遊ぶ幼い自分。
おそらく母の手作りであろう毛糸の何かしらを羽織って着膨れている自分。

母にはもう一声頑張ってほしかったとも思う。
「ふぐ子にも貸してあげて」と。


時は流れ、兄が中学に上がる時のこと。
中学になると英語の授業があるからラジカセが要るのだと、兄は母に言った。
リスニングの教材で使うのだと。

それで、当時ダウンタウンブギウギバンドがCMをしていた『ステレオマックムゥ』という、超最新のラジカセを兄は買ってもらった。音に合わせて赤のランプが右に左に明滅した。メーターというやつだ。

ダウンタウンブギウギバンド
宇崎竜童がいたバンドだよ

そしてそれは、一度も英語の勉強には使われなかった。

親は学んだ。

二年後に私に与えられたラジカセは、
しょーもないコンパクトなものだった。
スピーカーも一個しかないし、光るメーターなんてあるはずもない。
まぁあまり物欲のない私は、それで全然構わなかった。

次は高校。
兄はヨット部に入り、防水の腕時計が要ると母に説明プレゼンをし、うん万円もするかっちょいいのを買ってもらった。
そしてそれは、すぐに海に落としてもずくと消えた。

二年後、私は街の雑貨屋さんでミッキーマウスの腕時計を自分で買った。
1,000円だった。
なんの問題もなく卒業までつけた。

自転車もだ。
通学にあたり、兄はギア付きの、軽くて、競輪選手が乗るような自転車を買ってもらった。

私?
家にあったママチャリだ。

ま、だいたいにおいてこんな感じだったが、やはり物欲のあまりない私は一向に構わなかった。

そんな経済格差のある兄妹ではあったが、仲が悪かったわけではない。

小学生の頃、兄は面白いテレビや漫画があると、すぐに私に勧めた。
「ふぐ子ふぐ子、これおもっしょい面白いぞ!読んでみ!」

『マカロニほうれん荘』もその一つだ。
膝方歳三(トシちゃん) · 金藤日陽(きんどーさん) · 沖田そうじ(そうじ君)

当時、新選組をまだ知らなかったのが残念だ。

ちょっとエッチな画もたくさんあったけど、くだらなくて面白かった。
トシちゃんがボケて、真面目なそうじ君が「いーかげんにしてくださいっ!」と大きな小槌みたいなのでぶっ飛ばすまでがお約束。
キャラクターの一人として出てくるクマ先生が、ちょっと父に似ていて可笑しかった。

もちろん父はこんなことしない

そして、これが一番好きだったかな。

兄もよく真似をしていた

しかし。
お兄ちゃん、このギャグ使えないよ!
学校で友達に話せないよ!
みんな『はいからさんが通る』を読んでるよ!

私は親友の家に入り浸り、『はいからさんが通る』を読破した。
少尉カッコよかったな。


そんな兄が(どんな兄だよ)、とても優しかったことがある。
今思い出した。

私が3歳の頃、母が長期入院し、二人しておじいちゃんちに預けられたことがある。父の実家だ。
おじいちゃんにおっちゃんおばちゃん、
私や兄とはずいぶん年の離れた従兄弟のお姉ちゃん(2人)、お兄ちゃんがいた。
当時、おっちゃんはすごく怖かった。
大きくなってからは、私にもお酌をしてくれたり、博学で話も面白かった。

が、当時はとても怖く、兄と私はおっちゃんとおばちゃんの間で寝ていたのだが、そう、川の字の一本多いやつ。
ある夜、トイレに行きたくて目が覚めたが、トイレに行くにはおっちゃんを跨いで行かなくてはならなかった。
おっちゃんはとうに寝ている。
でも怖くて怖くて、どうしてもおっちゃんを跨げない。
うう、おしっこに行きたい。

その時、兄がスッと起きて、私の手を握り、一緒におっちゃんを跨いでトイレまで連れて行ってくれた。

5歳の兄はとても優しく頼もしかった。
唯一のエモーショナルエピソード、エモエピだ。

高校を卒業し、お互い家を出てからは、兄とほとんど交流はなかった。

さらにさらに時は流れ、私は同い年の夫と結婚した。
嬉しい時、お酒が入っている時、夫はたまにこれを言う。

お前も読んでいたのか!

夫の名前はトシオ。
リアルトシちゃんである。


三毛田さんの兄エッセイをオマージュしてみました。
オマージュになっているのか?

いいなと思ったら応援しよう!