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クリスマスケーキ
大きな池を擁する小さな山に住んでいたことがある。山の中にある家。山に棲みついていたわけではない。
幼稚園の歌にも出てくる小さな山。
〇〇山の朝風にー
なんたらかんたら
らららららー♪
4歳から5歳。もも組さんとうめ組さん。
家から園までは相当な距離があったように思うが、当時、幼稚園バスなんてものはなく、毎日決まった友達何人かでワイワイと歩いて通っていた。
みかちゃん、野津くん、みっちゃん、それから……。
もも組さんの時だったかな?
クリスマスにケーキが配られた。
帰りの会が終わってから。
一人一個ずつ。
お家に持って帰る用。
嬉しくて楽しみで、ワクワクして家に帰った。
夜まで待てずに食べた気がする。
そっと箱を開ける。
中には小さな小さなまあるいケーキ。
その時は大きく見えたけど。
いちごもチョコものってない。
クリスマスの葉っぱがのっていたかな。ヒイラギの葉っぱ。
ろうそくを立てたような立てなかったような。
細い煙の記憶が薄っすらあるから、母に火をつけてもらってフーってしたのかも知れない。
小さな小さなまあるいケーキ。
私だけのケーキ。
クリスマスケーキ独り占め。
お兄ちゃんにもわけてあげない。
ものすごく美味しかったことを覚えてる。
あれから何度クリスマスケーキを食べただろう。もう未知数であるくらいにわからないが、いや、単純に年を遡ればわかるかも知れないが、とにかく、あの時の美味しさを超えるケーキに未だ出会ったことがない。
ただのバターケーキ。
生クリームなんていう時代じゃない。
バターケーキ。
いちごものってない小さなケーキ。
嬉しくて美味しくて、幸せに満ち満ちた気持ちで食べた思い出。
*
何年か前に、バターケーキを買う機会があった。
ひと口食べた瞬間、あの日のクリスマスケーキを思い出した。
「あ、こんな感じだった」
嬉しくなってたくさん食べたら気持ち悪くなった。
バターケーキとはそういうものだ。
それでもあの時のクリスマスケーキには敵わない。
再現したケーキを食べてみたい。
もも組さんに戻るしかないのかな。
あなたもわたしも手をとってー
お歌を歌ってまいりましょー
たーのしい⬜︎⬜︎幼ー稚園ー♪